はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ローズマリー・サトクリフの「ほこりまみれの兄弟」についてです。エリザベス女王の治世に、ブリテン島を回った旅芸人たちの目を通して、当時の人々の暮らしをのぞいてみましょう。
「ほこりまみれの兄弟」ローズマリー・サトクリフ(評論社)
両親を喪って、意地悪な叔母とその夫で気の弱い叔父に引き取られたヒュー。家から連れてきたアルゴスが、叔母にいじめられていることに我慢がならなくなったヒューは、家出を決心する。アルゴスとツルニチニチソウの鉢植えを道連れに、父がかつて学んだオックスフォードを目指し、ヒューは出発した。その道中で出会った旅芸人の一座に惚れ込んでしまい、彼らと道を共にすることになる。
何よりもジョナサンとヒューの友情が愛おしい。単なる旅芸人一座の同士という以上のものがあった。特に最後の場面は、お互いの間に流れる暖かい絆に、息が詰まってしまう。
それから、アルゴスだ。旅の始まりから終わりまで、ずっとヒューと共に歩いてきたアルゴス。面白おかしく、けれど賢くて優しい大きな犬。可愛い。とにかく可愛い。彼がいなければひとりぼっちだったヒューにとっての、アルゴスの存在の大きさは計りがたい。アルゴスがうさぎを追って姿を消したときのヒューのうろたえようは、目に余った。サトクリフの作品に登場する、人間の相棒としての犬はどれも愛らしく頼りになり、ときに過酷な運命に立ち向かわなければならない彼らに、大きな支えとなるが、アルゴスもまたその例に漏れず、ヒューの確固たる支えになっていたのだろう。
そして意外だったのは、あのウォルター・ローリーとの再会だ。「女王エリザベスと寵臣ウォルター・ローリー」で登場する彼は、大変残念なことに物語の終わりで別れを告げねばならなかったが、思わぬところで再び会うことができた。失うにはあまりに惜しい人柄だったので、再会できて本当に嬉しい。人は例外なく死を迎えるが、それでも生きるなかで少しでも周囲の心に残る何かをしたい、と思う。
また、旅芸人の一座と巡るなかで目にする、当時のイギリスの人々の暮らしも興味深い。地域によって旅芸人への扱いが違うのだ。酷い出迎えをする町もあれば、芝居に熱狂する町もある。その違いがどこから出てくるのかも、再読するときに注目したい。
ヒューという少年の目を通して見る当時のイギリス。サトクリフの筆は、読者を時代も空間も越えたはるかかなたに導いてくれる。今回もその醍醐味を十分に堪能できた。
おわりに
ということで、「ほこりまみれの兄弟」についてでした。ああ、どんどん未読のサトクリフの作品が減っていく……と嘆きながらも、読むのを止められません。次回は、やはりサトクリフの「山羊座の腕輪」についてです。どうぞお楽しみに。それでは、最後までご覧くださりありがとうございました!