はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ためていた百鬼夜行シリーズの感想をとりあえず書いておきたいと思います。面白すぎてなかなかいちいち書いている余裕がありません……。シリーズ最初は、「姑獲鳥の夏」になります。
「狂骨の夢」(講談社)
潮騒の音をきっかけに、別人の記憶に支配され始めた、宇多川朱美。朱美の夫である宇多川崇に相談を持ちかけられた関口に、木場が追いかける海の浮いた髑髏。最初はばらばらに見えた全てが交差するとき、何が判明するのか。
今回も京極堂が大活躍だった。彼の芳醇な知識、もとい作者の知識はどこから出てくるのか、一人の人間の頭に収まっていることとは到底思えず、感心してしまう。そしてなんだかんだ相変わらず出張ってきてくれるところも好きだ。全身黒装束で、こんな風に謎を解かれたらうなってしまう。
思わぬところで、思わぬ場所に連れて行かれる。最初は全く予想していなかった展開が、京極堂によってくっと広げられて、奥深かった。これを読んでいると、伝承、民俗学の世界は奥深いと、感心してしまう。
「鉄鼠の檻」
閉ざされた山寺で、僧が次々と殺害されていく。謎の書庫を調べるために偶然居合わせた関口と京極堂に、意外なあの人物との再会によって榎木津も加わって、今回も事件の謎が明かされていく。
仏教に関しては全くと言ってよいほど知識がないので、逸品の物語を抜きにしてもなかなか興味深かった。普段、本の感想を書こうとしても、自分の中の感情を上手く言葉に表現することができず、苦しんでいる私のような人間はともかく、言葉で表すと抜け落ちてしまうものは必ずあると思う。私の場合は単に言葉の引き出しが足りないだけだが、絶対に言葉では不可侵の領域があるのだろう。
そして、京極堂である。そのうちこのような展開が訪れるか、と思って構えていたが、やはり意表を突かれた。だが、終盤では嫌々ながら僧と対峙する場面は、彼らしさを失っていない。不思議なことなどなにもない、と私が言い切れる日など来るのだろうか。
それから、榎木津もまた良いキャラクターをしている。深刻で張り詰めた空気が行間までも満たし、読者さえも息を詰めて見守っているところで、その雰囲気を華麗に払ってくれる彼の存在は、関口と京極堂だけではどんどん重苦しくなって行くであろうこの作品を上手く明るい方向に引っ張ってくれていると思った。
「絡新婦の理」
女子校で噂に上る、悪魔崇拝。目を潰して人を殺す目潰し魔。富豪織作家に隠された闇。ばらばらに見えた複数の事件の糸をたどっていくと、“蜘蛛”がそこかしこに浮上した。いったい、“蜘蛛”とは誰を指すのか。この猟奇的な殺人事件の目的とは。
この、一見ばらばらに思える事実を華麗につなぎ合わせていく見事な筆致には感嘆してしまう。どんな結果になろうと、京極堂さえ出てくれば、きっとなんとかしてくれる、という安心感はこの巻でも消えない。織作家の美人姉妹に隠された謎には震撼した。
気になったのは、織作碧だ。彼女がふと口にするキリスト教の教義に、なんとなく違和感がある、と思ったらそれもまた鍵であった。ささいな違和感をつなぎ合わせ、大きな構図を描いていく見事な作者の手腕に、息を飲まずにはいられない。
「塗仏の宴」
村人が姿を消した村。うさんくさい新興宗教。おかしな漢方薬局。今回も、京極堂が関係が皆無としか思えない一つ一つをつなぎ合わせ、大本を突き止めていくのか、と思いきや、彼は友人(?)の関口が窮地に陥っても、妹の敦子が失踪しても、なかなか重い腰を上げようとしない。彼と裏で糸を操っている人物だけに、分かっていることがあった……。
これまでの巻の中で、一番不安にさせられた。今まで私がどれだけ、京極堂を信頼していたかを突きつけられる。彼とて万能ではないはずだ、と頭では分かっていても、どうしても彼が動き出せば大丈夫、と思ってしまう自分がいた。また、その原因は巧妙な構成にもあるだろう。関口の獄中での描写が、ところどころに挟まるごとに、焦燥が高まっていく。
また、中禅寺兄妹の過去が垣間見えて、とても気になった。なかなか複雑なである。敦子視点も新鮮で、しっかりしていると見える彼女の内面に、一層敦子が好きになった。彼女の合理的思考は、兄とはまた違った意味で安心させてくれるものがある。
どれくらいこれから彼らの過去が明かされるのだろうか。気になることが多すぎて、続きが待ちきれない。とても楽しみだ。
おわりに
ということで、まとめてしまって申し訳ないですが、百鬼夜行シリーズ「狂骨の夢」〜「塗仏の宴」でした。あの重量感も今となっては楽しみの重さですね。それでは、またお会いしましょう。最後までご覧くださりありがとうございました!