はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、京極夏彦さんの「姑獲鳥の夏」についてです。この蒸し暑い夏の夜、いったい何が起こるのでしょうか。

 

「姑獲鳥の夏」京極夏彦(講談社)

 一風変わった古本屋、京極堂の店主を訪ねる、作家の関口。ふとしたことから、生まれた赤ん坊が次々姿を消す久遠寺医院に関わり合うことになってしまう。さらには婿の失踪事件に、ぎこちない家族と、謎は絡み合って、ますます複雑さを増していく。“探偵”の榎木津も加わって、果たして謎を解くことはできるのか。

 

 読者までも煙に巻かれそうな、京極堂の語り口にまず魅せられた。不思議でないことは起こらない、という一見当たり前のように見える事柄も、いつしか自分の中で逆転していることに気づく。あり得ないから、不思議なのだ、と考えているのだ。それを解きほぐす京極堂の言葉は、分かるようでいてよく分からないというか、よく分からないようでいて実は分かると形容すべきか。

 

 おそらく、これが京極堂の一人語りだったら、うんざりしてしまうと思う。しかし、実際には聞き手である関口もまた、読者と一緒に困惑させられているから、彼に共感することで読み進めることができるのだ。これは優れた構成だ、と感じた。

 

 そして、表題にも使われた「姑獲鳥」という言葉に秘められた謎も、私の好きな方向に向かっていって、実に面白かった。民俗学的見地からの分析が、物語の筋立て自体の面白さとはまた別に、とても興味深い。現実、ノンフィクションの分析で得られるものが、フィクションの中で見事に活用されていて、息を飲んだ。神話や伝説の類いが大好きな私にとっては、本当に面白い。真言に九字と、聞き慣れた、いや読み慣れたものだ。表記の違いがどこから来るのかも気になってくるぐらいである。

 

 ミステリーという目でこの本を見るならば、そんな結論だったのか、と一周回って予想外だった。実際にそんなことが可能なのか、気になってくる。人間の脳というのはつくづくおかしなものだ。ミステリーに関しては全く詳しくないので、このくらいに留めておこう。それにしても、本当に種が明かされたときは目からうろこが落ちた。

 

 京極夏彦さんの作品は、これが初めてだったが、面白かった。読み終わってからそこそこに時間が経って書いているので、質量共にあまり自信がないが、続編も読んでいきたいと思う。

 

おわりに

 ということで、「姑獲鳥の夏」についてでした。続編の「魍魎の匣」もそのうち読んでいきたいと思います。

 

 さて、次回は、前回に引き続き守り人シリーズの再読をしていきたいと思います。「夢の守り人」どうぞお楽しみに。