はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続き、サトクリフ・オリジナルのアーサー王の物語、第二巻についてです。様々な物語の英雄の原型となった、アーサー王物語。それをサトクリフの平易な語り口で楽しみましょう。

 

「サトクリフ・オリジナル2 アーサー王と聖杯の物語」ローズマリ・サトクリフ(原書房)

 ついに円卓の騎士たちの、聖杯を求める冒険が始まった。キャメロットの宮廷に現れた、パーシヴァル、そしてランスロットの息子であるガラハッド。ボールスも加わって、聖杯を追い求める日々が始まった。最後の晩餐時にイエス・キリストが使い、その後ブリテン島にもたらされたとされる聖杯は、いったいいずこにあるのか。冒険に飢えていた円卓の騎士たちが立ち上がる。

 

 前巻では、そこそこに顔を出していたアーサー王自身が、この巻では影が薄い。あくまでも聖杯を追い求める家来たちを、後ろから見守っている、という印象だ。アーサー王物語、と名前を冠しつつも、アーサー自身は活躍の場が少ないことは、なかなか興味深い。それでいて、円卓の騎士たちはアーサーに忠誠を誓っているのだ。やはりアーサー自身にそのような家来を従わせる魅力があったのだろう。

 

 また、聖杯自体はキリスト教由来のものであり、アーサー王やその円卓の騎士たちもキリスト教に帰依しているにも関わらず、そこかしこにケルト由来の習慣が見え隠れするのも面白かった。前巻の話になるが、魔術師マーリンからして、ドルイドの流れを受け継いでいるのだろう。騎士たちは危機に陥ったり、誰かが死んでしまうと、近くの修道院を頼ったり、冒険の前にはミサを受けるが、それでも冒険自体は魔法があふれ、ブリテン島に根付いた文化を感じさせる。

 

 「落日の剣」では、とことん史実を突き詰め、そこから現実的に膨らませていったアーサー王の姿が描かれていたが、やはりこの「サトクリフ・オリジナル」では、あくまでも収録されたおとぎ話、という体を守っている。「落日の剣」と比較するのもまた一興だろう。話の筋は大幅に異なるとはいえ、アーサー王は勇敢で、ランスロットも道ならぬ恋と主君への忠誠の板挟みになってしまう。大切な、外してはいけないところを確実に抑えながらも、彼女なりのアーサー王の姿を魅力的に描き出すサトクリフの手腕には、毎度のことながら感心してしまった。

 

 ひとつ気になったことがある。それは、アーサー王の生きていた時代だ。中世の初め、とはいえども、ブリテン島内では、かなり侯や伯爵といった貴族の中の身分制度が確立しているように見受けられる。もっとも私は専門家でも何でもないので、大きなことはいえないが、やはりこういったものは後代になって付け加えられたものなのであろうか。

 

 ケルトの文化、キリスト教、様々な背景が寄り合わさって形作られているアーサー王物語。知りたいこともたくさん増えて、本当に堪能できた。

 

おわりに

 ということで、「アーサー王と聖杯の物語」についてでした。京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズの記事が上がっていないなあ、と思われるかもしれませんが、次回「塗仏の宴」まで一挙にまとめてあげたいと思っています。それでは次回もお楽しみに。最後までご覧くださりありがとうございました!