はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、シュトルムの「みずうみ」についてです。青春の一瞬の輝きを閉じ込めた珠玉の短編集です。

 

「みずうみ」シュトルム(新潮文庫)

 

「みずうみ」

 老人が回想する、若かりしころの思い出。青春の一瞬の輝きが、ふわりと舞い降りてくるような短編だった。

 

「ヴェローニカ」

 絵の才能を開花させてくれた教師に想いを募らせるヴェローニカ。夫との間で揺れながらも、彼女が最後に行き着く場所とは。

 これもまた、一時の恋の鋭い魅力を感じさせてくれる短編。感性に訴えてくるものがあった。

 

「大学時代」

 これもまた、硝子のように繊細で、そっと抱きしめたくなるような味わい深い物語だった。愛とは、死とは何かを考えさせてくれる。命を捨てさせるほどの葛藤とは、愛とは何なのだろうか。

 

一冊を通して

 どれも短いのに、はっとするほど心に訴えてくる短編集だった。つたない文章力をふりしぼってはみたものの、この物語には、何を付け加えても余計な気がする。あまりにも繊細で、儚くて、しかしそれゆえの美しさが、心を刺した。

 

 ところで、この本を読んで思い出したのは、「獣の奏者 外伝 刹那」だ。それも、エサルが主人公となっている「秘め事」である。なんとなく、この「みずうみ」と共通したものを感じた。ユアンとエサルの恋もまた、悲しいものに終わってしまったからかもしれないが、本当に瞬く間もなく終わってしまった悲恋であっても、いやそれだからこそ、鋭い傷と思い出を、心に焼き付けていくのだ。

 

おわりに

 というわけで、「みずうみ」についてでした。こういう恋愛もの(というジャンルにくくりきれないものを感じましたが)も、いいですね。さて、次回は三浦綾子さんの「氷点」についてです。どうぞお楽しみに。最後までご覧くださり、ありがとうございました!