はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、宮部みゆきさんの「あやかし草紙」をご紹介します。この本は、三島屋変調百物語の五巻で、四巻の「三鬼」はこちらからご覧になれます。
それでは、今回も江戸の町に満ちる怪奇を、おちかと一緒に聞いてみましょう。実は昨日読み終わったもので、ちょっと時間が経っていて不安ですが、できるだけいつも通り感想を書きたいと思います。
「三島屋変調百物語伍之続 あやかし草紙」宮部みゆき(角川書店)
袋物の振り売りから一代で身を起こした三島屋の、看板娘であるおちか。彼女には、三島屋の黒白の間で、様々な不思議に出会った人びとの話を、聞き続けてきた。今回も、黒白の間で数多の不思議な物語が、幾人もの口から語られる。
「開けずの間」
今回黒白の間にやってきたのは、平吉と名乗る飯屋の主人だった。今は幸せに家族と暮らしているものの、実は彼は血のつながった家族を一挙に失っていたのだった。その経緯が、とつとつと平吉の口から物語られる。
ぞっとした。色恋を巡る平吉の姉の執着、店の後継ぎを巡る次兄と長男の確執・・・・・・どこにでもあるような話かもしれないが、それらが束になり、更にその願いを叶える〈行き逢い神〉が加わると、あっという間に恐怖を伴う悲劇と化す。本の中では、黒白の間に座るおちかの隣で、話を聞いているような気分だが、それでも鳥肌が立った。
「だんまり姫」
今度は「開けずの間」と打って変わって、ほんわかした気持ちにさせてくれる物語だ。〈もんも声〉と呼ばれる、声が小さすぎたり、大きすぎたりすると、化け物を呼び寄せてしまう声の持ち主のおせいが、黒白の間にやってくる。彼女が昔城に仕えていたときに出会った、城の跡目争いで命を落とした、一国様と呼ばれる少年についての話が語られる。
おせいの肝の太さに、安心した。何事に対してもどっしりと構えていて、その開き直りっぷりには思わずくすりと笑ってしまう。また、一国様の可愛らしさにも微笑んでしまった。彼の過去は悲しいものだったが、それでも幼いながらに彼が前を向いて歩けるようになったことが喜ばしい。
「面の家」
次は、また不気味な印象の物語だ。様々な災いを引き起こす、面。その面が災いを起こさないように、家の中に閉じ込める役割を担う人びとがいた。そこに破格の給料で雇われたお種が、出会った怪異を語る。
今までよりも、スケールの大きな物語だ。性悪な人が雇われる、という一風変わった条件に隠された真相には、胸をつかれた。私は、面の動く音が聞こえる人か、そうでない、と断言できる人はそう多くないと思う。
「金目の猫」
最後は、三島屋の次男である富次郎が、跡取り息子の兄、伊一郎が幼い頃に経験した物語を、黒白の間で聞く。まだ三島屋が振り売りから大きな店に移ったばかりのころで、家族仲もぎくしゃくしていた、おちかの知らない三島屋の姿がそこにある。
伊一郎は今まであまり登場してこなかったが、なかなかに人好きがする人だと思った。彼によって継がれるなら、三島屋はこれからも安泰だと思う。
そして、おちかにも大きな変化が訪れる。そのきっかけは、以前黒白の間で、貸本
屋の瓢箪古堂の息子、勘一がおちかに語った不思議な物語だった。三島屋変調百物語が結びつけた、不思議な縁。それは、読んでのお楽しみだ。
おわりに
というわけで、「あやかし草紙」についてでした。気づけばこの物語も、ずいぶんと数を重ねていますね。
さて、次回からは「世界の歴史」シリーズを読み進めていきたいと思います。中公文庫から出版されている、世界史をまとめたシリーズで、全15巻になります。少々長くなりますが、お付き合いください。それでは、またお会いしましょう。今回も最後までご覧くださり、ありがとうございました。