はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、宮部みゆきさんの作品、「三島屋変調百物語」の四巻、「三鬼」についてです。氷と炎の歌はもう少々、お待ちください……。それでは江戸の日本にあふれる怪異に、そっと手を伸ばしてみましょう。短編なので、わけて掲載しています。

 

「三鬼 三島屋変調百物語四之続」宮部みゆき(角川文庫)

 ある事件がきっかけで、心に傷を抱えていたおちか。その彼女も、物語が始まったころから成長を遂げ、前向きさを取り戻していた。そんなおちかが聞き手となって、今回も舞い込んでくる様々な不思議な話が披露されていく。

 

「迷いの旅籠」

 大方の人が抱いたことのある、人の死ぬことを悼む気持ち。ごくごく普通のその感情も、度を越して執着となれば不気味さを帯びてくる。そのことに、鳥肌が立った。当たり前なのだ、本当に。死んでしまった人の蘇りを望む気持ちを、誰が否定できるというのだろう。なのに、それが恐ろしくて仕方なくなってしまう。

 それが、幼いおつぎの口から、黒白の間で語られる。村に生きる人びとの、声が、実際に聞こえてくるような、そんな気持ちで、おちかと一緒に彼女の摩訶不思議な話を聞いていた。

 

「食客ひだる神」

 前作とはうって変わり、幼い子どものような、かわいらしい妖、ひだる神が登場する。とにかく美味しい食べ物を要求して、あげくの果てに太ってしまい、大きくなりすぎて家が歪む。そんなひだる神に憑かれてしまった房五郎が語る、おかしくもどこか寂しさを覚える話だった。

 なんだか、不気味なはずの妖に、親しみを覚えた。読んでいるうちに、思わず微笑が口の端に浮かんでいる、そんな短編だった。

 

「三鬼」

 今度は、元江戸家老の武士、村井清左衛門という人物の口から、潰されてしまった藩、栗山藩で起こった、不自然さの漂う村の物語が幕を開ける。

 植林で身を立てようとしたが、上手くいかず、なあなあのままに続いてきた村、洞ヶ森村。愛する妹のために、私闘を行ったゆえに、そんな辺鄙な村に遣わされたのが、村井清左衛門だった。「鬼」が存在するというその村で、一体何が起こっているのか。

 消えた日誌、明らかに何かを隠している村人。その謎を追ううちに、悲しい人の性が明かされていく。どうしようもなく切なくなった。

 

「おくらさま」

 最後は、梅という老女の口から語られる、「おくらさま」という守護神によって護られていた香具屋、「美仙屋」に起こった出来事。美人ばかりの生まれる美仙屋一家では、その家の娘が奥の蔵の香を一日中絶やしてはならない、という決まりがあった。それを守って、幸せに暮らしていた三姉妹、藤、菊、梅。

だが、ある日突然、火事が店の周囲を襲った。火事を収めるために、おくらさまがその力を発揮する。しかし、その代償は小さくはなかった。

 最初は幸せだった三姉妹が、みるみるその姿を失っていくようすが、悲しくてたまらなかった。綺麗な伝承というものに隠された真実は、恐ろしさを帯びているのかもしれない。

 

おわりに

 というわけで、つらつらと「三鬼」についてお話しさせていただきました。このシリーズ、私は今まで全くホラーだと思っておらず。もっぱら時代小説とくくっていたんですけど、ホラーですね。全然苦手じゃないみたいです、やっぱり。こういうところで素地ができていたんですかね。

 さて、次回は荻原規子さんのRDGを再読しようと思います。氷と炎の歌、電子書籍である関係で、読みにくいんですよね。でも、中断はしてません。そちらもそのうち。では、また次回。最後までご覧いただき、ありがとうございました。