はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ローズマリ・サトクリフのローマ・ブリテン四部作の最終巻「辺境のオオカミ」についてです。ローマ・ブリテン四部作の一作目「第九軍団のワシ」はこちらからご覧ください。
それでは、いざ、はるか昔のブリテン島へ!
「辺境のオオカミ」ローズマリ・サトクリフ(岩波少年文庫)
ブリテンの最高司令官である叔父を持ち、軍隊の中で出世の階段を順調に上がっていたアレクシオス・フラビウス・アクイラ。しかし、彼は自らが指揮を取る軍団で、大きな間違いを侵す。援軍は来ないと見切って、砦を放棄したのにも関わらず、援軍要請は届いていたのだ。砦を放棄した罪に問われたアレクシオスは、辺境に配属され、「辺境のオオカミ」と呼ばれる人々の指揮を取ることとなった。
この本の中で、特に輝いて見えるのは、地元の氏族ヴォダディニ族の族長の息子であるクーノリクスとアレクシオスの友情だろう。その地域に根付くヴォダディニ族と、ローマ軍団の間には、緊張が根底にあった。しかし、この二人は、アレクシオスの狼狩りを通し、親密な間柄になる。
しかし、ヴォダディニ族とローマ軍団は、ある事件を境にして友好関係を絶ち、敵対関係となる。クーノリクスとアレクシオスも、否応なく敵味方に引き裂かれることとなるのだ。
それでも、二人の絆は最後までそこにあったのだ。最高の絆の形とは何か、その一つを教えられる物語だと思う。
さて、私がこの本で一番好きなのは、ヒラリオンかもしれない、と今回は感じた。皮肉っぽくて、でも上司であるアレクシオスに対し、心の底から忠誠を誓っている。いや、彼のアレクシオスに対する感情は、忠誠をはるかに越えた何かなのかもしれない。私には、そんな風に感じられた。たった二文字で片付けられるようなものではない。特に、最後はヒラリオンのそんな側面が際だって、アレクシオスとヒラリオンの間にある何かに、胸をうたれた。
人は、変わることができる。また、変わらずにはいられない。それは、良くも悪くも作用する。
クーノリクスとアレクシオスの場合は、悪く作用してしまったのかもしれない。こんなにも、お互いに信頼を預けている二人が、なぜ引き裂かれなければならなかったのか。その理不尽さに、心を引き絞られるような気がする。
しかし、その一方でヒラリオンとアレクシオスの場合は、そのことがよく作用したのだろう。最初はアレクシオスに対し、さして興味もなさそうだったヒラリオンが、最終的には一番のアレクシオスにとって一番の部下となる。
クーノリクスとアレクシオス、ヒラリオンとアレクシオスは、対照的だが、どちらも読者の心をわしづかみにするものを持っていると思った。
ローマ・ブリテン四部作の中で、一番おすすめするとしたら「辺境のオオカミ」かもしれない。単に私が好みなだけなのだが。
連綿と受け継がれてきたイルカの指輪。それらがつなぐローマに生きた無名の人々の姿を、存分に味わっていただきたいと思う。
おわりに
上橋さんの話をせずにサトクリフの記事が書けた……。というのはともかく、久しぶりに読むローマ・ブリテン四部作は、本当に面白かったです。「ローマ人の物語」を読んだ後だからこそ、多くを味わうことができました。歴史ものの醍醐味ですね! まだ何作か、サトクリフの作品が手元にあるので、それを次回から読みたいと思っています。氷と炎の歌も、続けるつもりではいますよ。
それでは、またのご利用をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました!