はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ローズマリ・サトクリフのローマ・ブリテン四部作の二作目「銀の枝」についてです。読者を時空を飛び越えた先に導く、サトクリフの筆に身を任せることにしましょう。
「銀の枝」ローズマリ・サトクリフ(岩波少年文庫)
舞台は、崩壊が迫るローマ帝国はブリテン島。皇帝カロウシウスの側近、アレクトスの主君に対する裏切りに気づいてしまった、ジャスティンとフラビウスは、そのために軍を追われることとなってしまった。反乱に成功したアレクトスの網をかいくぐり、二人は再びブリテン島にローマの灯を取り戻そうと奮闘する。はたして、彼らに安寧の日々は訪れるのか。
前作に続き、現代から古代へと、二千年近くのときをいとも簡単に越えさせてくれる本。その時代に生きた人々の姿を、まるで見てきたかのように描く巧みなサトクリフの筆に、引き込まれずにはいられない。フラビウスとジャスティンの友情はもちろんのこと、アレクトスから逃れた人々の結束が、まぶしく感じられる。
コンスタンティウスの登場もあり、調べてみたところおそらくは紀元293年あたりといったところか。この辺りの知識は、塩野七生さんの「ローマ人の物語」に頼っているので、あまり確証もないのだが、本当に面白い作品である。「ローマ人の物語」でいうなら、「最後の努力」のあたりだ。こうやって作者の異なる他作品とリンクしていくのも、歴史ものならではの醍醐味といえよう。
さて、話は変わるが、私は上橋菜穂子さんが大好きで、サトクリフを初めて手に取ったのも上橋さんのエッセイ「物語ること、生きること」がきっかけだったような気がする。
そんな上橋さんの、「獣の奏者」という作品をご存じだろうか。手元にある方は、今、第三巻の探求編を開いていただきたい。講談社文庫版では35ページ。あいにく単行本は持っていないので、ページ数がわからないが、第一章のシュナンとエリンが対面する場面である。
「王宮にいるときに招けば、すこしは近かったのだろうが、こちらで話したい用件だったのでね。昨夜は、銀枝館で宿をとらせるように手配したと聞いたが、よく眠れたか」
と、やってきたエリンにシュナンが声をかける。お気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、宿の名前が銀枝館なのだ。ただの偶然とは思えない。サトクリフへの上橋さんのリスペクトだと考えるのは、私だけではないだろう。
特に、上橋菜穂子さんが好きな方には、ぜひ一度手に取っていただきたい作品である。
おわりに
というわけで、「銀の枝」についてでした。次回も引き続き、ローマ・ブリテン四部作の三巻目「ともしびをかかげて」を読んでいきたいと思います。それでは、また次回。最後までご覧くださり、ありがとうございました!