はじめに
みなさん、こんにちは。4月から始めたこのブログもいつのまにか50記事目になりました。そして、奇しくも一ヶ月ちょうど経ちましたね。なんとなく不思議な偶然を感じます。さて、そんな今回の記念すべき一冊は「中世を旅する人びと」です。以前読んだ「ハーメルンの笛吹き男」の著者である、阿部謹也さんのご著書になります。氷と炎の歌は一旦おいて、中世に生きた庶民の声に、耳を傾けましょう。
「中世を旅する人びと ヨーロッパ庶民生活点描」阿部謹也(ちくま学芸文庫)
ヨーロッパの中世の人びとと言えば、ぱっと思いつくのは、王侯貴族の数々ではないだろうか。各地で覇を争い、華々しく戦う彼らに、目を奪われるのも、いたしかたないことだ。私もまた、その一員である。彼らのことは、記録も多く、歴史の研究にはもってこいだろうと思う。
しかし、その王侯貴族たちの下に、庶民という、ごくごく普通の人びとがいたことも、また事実である。王侯貴族よりも圧倒的多数をしめた、何気ない日常をただ生き抜いた人びとが、そこにいた。そのことを、この本は思い出させてくれる。
特に、オイレンシュピーゲルの伝承などは、どうしてこの物語が庶民の間で流行ったのかを易しく噛み砕き、丁寧に教えてくれた。それらを通して、酒場で盛り上がる庶民の、豊かな笑い声が聞こえてくるような気がしたものだ。
えてして、歴史というものは、できごとに注目しがちである。何年何月何日に、どこで何が誰によって行われた。この点の列が、歴史だと私たちは思ってしまう。しかし、その点と点の間には、数多の庶民の暮らしがあったことを忘れてはいけない。中世でも、現代でも、歴史の教科書に載るような大きな出来事を起こせるのは、たったの一握りだ。私がこの一握りに含まれる可能性は、極めて小さいだろう。では、歴史で学ぶべきは、庶民の暮らしのほうではないか、と思ったりもした。
ところで、「本好きの下剋上」という作品がある。自己紹介でも書いたように、私が大好きなシリーズの一つで、世間的にはライトノベルに分類される、ネット発の小説である。「本好きの下剋上」の主人公マインは、お約束通り異世界転生をするのだが、その先がすごい。王侯でも貴族でもなく、一介の庶民、しかも貧民街に暮らす病弱な子どもの体になってしまうのだ。
本題からそれすぎた。どうして「本好きの下剋上」の話をしたかというと、この「本好きの下剋上」にみられる庶民の暮らしは、中世ヨーロッパをモデルにしていると、作者の香月美夜さんがどこかでおっしゃっていたからだ。「ハーメルンの笛吹き男」もそうだったが、この「中世を旅する人びと」を読んで、確かに「本好きの下剋上」の世界観と被るものを多く感じた。どんなファンタジーも、人間を主人公にする限りは、現実の歴史を参考にせずにはいられないことの、証左のようにも思える。
おわりに
というわけで、いつも通り脱線しながらになりましたが、「中世を旅した人びと」についてでした。次回は、氷と炎の歌に戻ります、多分。それでは今回はこの辺で! 最後までご覧戴き、ありがとうございました。