はじめに

 「海の都の物語1」の続きが届くまでのつなぎとして、この本を手に取りました。家には他にも、こんな感じの本がまだあるので、「海の都の物語」が届くまでは、そんな歴史関係の本を読んで行こうかなと思います。

 

「ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界」阿部謹也(ちくま文庫)

 「ハーメルンの笛吹き男」の伝説を聞いたことのある方は、ほとんどだと思う。その伝説を、様々な方向から検証し、その中に隠された謎を追うこの本は、学校で学ぶ歴史とは一線を画す面白さを提供してくれた。

 

 「ハーメルンの笛吹き男」では、幼い子供達が、やってきた旅の楽師の男に連れ去られてしまう。先導したのが楽師であったかどうかはともかく、どうやら130人に及ぶ子供達が姿を消したのは、歴史的事実であるらしい。日付もはっきりとしていて、1284年6月26日のできごとだったと筆者は言う。700年以上前のできごとの日付がここまではっきりしているというのだから、ハーメルンの人々にとってこのできごとがいかに重要であったかが分かる。現在に至るまで、様々な研究者によって、この伝説は検証されてきた。筆者は、東ドイツへの植民説から、戦争によって亡くなった若者たちの象徴説など、あらゆる説をこと細かに検証していく。説得力のある説明に、思わずうなずいてしまった。

 

 さて、歴史に学ぶというのは、人が生きる上において、役立つこと間違いない。この本の中にも、人間の本質を鋭くついた箇所がいくつかある。たとえば、

いつの世でも、仕事の内容よりも、その人間がその社会・グループのなかで既存の秩序を守りうるかどうかが何よりも重要視されていたのである

 などは、変わらない人の性を感じる。技術の発展した現代でも、この時代と比べて、人間の醜い一面は、相変わらずだと思った。

 

 ところで、自己紹介にも書いたように、私は、「本好きの下剋上」というライトノベルが好きで、何度か読んでいるのだが、この作品は、ファンタジーながらも、中世ヨーロッパの生活をモデルとしているという。「ハーメルンの笛吹き男」では、民衆の暮らしにも焦点を当てているのだが、「本好きの下剋上」が好きな方であれば、かなり楽しめる内容だと思った。ハーメルンというのは、ドイツの町名で、現在も続いている町だというが、この本に描かれる庶民の暮らしは、「本好きの下剋上」と重なるところが多く、参考になった。ファンタジーを構成するにも、現実の歴史を踏まえなければ、どこかで無理が出てくるのかもしれない。

 

 それから、今読んでいる塩野七生さんの著作で、少し前に読んでいた「ローマ亡きあとの地中海世界」がある。これは、あくまで地中海世界を中心に歴史を物語っており、ドイツとは少し場所が異なるが、人物とできごとに重きを置いている。中世ヨーロッパの庶民の暮らしについては、あまり情報が多くなかったので、この本を読んで、その不足を埋めることができた。自分の中で、中世ヨーロッパが、どんどん一つの世界として構築されているような気がする。

 

 ひとつ付け加えるならば、筆者自身の説もまとめて記載してほしかったと思うが、想像の余地を与えてくれたとも捉えられる。このように、歴史を視点を絞って眺めることの面白さが現れていて、楽しむことができた。

 

おわりに

 歴史はつなげて覚える、などとよく言いますが、こんな風に体系的に本を読んでいくことで、本当に歴史は楽しめるものなんだなあと感じられます。覚えられているかは全く別の話ですが笑 いつかは世界全体の歴史を網羅できるようになっているといいなあ、と思ったりしますね。