はじめに

 みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回はとうとう、銀英伝の再読も最終回になってしまいました。銀英伝の再読を最初から読まれる方はこちらから。ネタバレございますので、未読の方はご注意ください。短編集ですので、それぞれ項は分けて書くことにします。それでは今回も、銀英伝の世界を思い切り、楽しみましょう!

 

「ダゴン星域会戦記」

 銀河帝国と、自由惑星同盟の軍の、初めての衝突。それが、ダゴン星域での会戦であった。未だ建国の志衰えぬ自由惑星同盟と、次代皇帝の争いをが絡む銀河帝国。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか。正伝での、帝国と同盟の戦いが、どのように端を発したのかを、間近に見ることができる物語。

 

 全く、メインのラインハルトたちの戦いから150年以上を隔てたこのような戦いでさえ、ここまで綴ることができることに驚かされた。ユースフとリン・パオのやりとりには、笑いを誘われる。ぜひこちらもシリーズ化していただきたいぐらいだ。短編にしか直接登場しないのに、ここまで魅力的なキャラクターが完成していることには、感嘆の吐息を漏らさずにはいられなかった。

 

 それでこそ、銀英伝の重厚さが実現しているのだろう。歴史の魅力を、架空であるとはいえ感じた。ただの歴史に登場する一人の人物にも、いろいろな側面があることを私たちは忘れがちだし、ましてその下にいる無数の人々の生活まではいちいち思いも及ばない。だが、それを下敷きに私たちの世界が構築されているのは、確実なのである。それを、突きつけられた気がした。

 

「白銀の谷」

 ラインハルトと、キルヒアイス。若干15歳の二人が、初陣を迎えたのは惑星カプチェランカでのことであった。わずか数年後には勇名をとどろかせるとはいえ、今はまだ、ただの少年二人に過ぎない。いかにして二人は、襲い来る危機を乗り越えていくのか。

 

 若く、溌剌とした二人には、少年のまぶしさとでもいうべき活気を感じた。彼らは、本当に息が合っているのだろう。理不尽な上官にも怯まずに、実力をもって口を封じる二人を見ていると、一種の爽快感すらおぼえた。

 

「黄金の翼」

 舞台は、宇宙暦792年、「白銀の谷」の一年後である。第五次イゼルローン遠征が、いままさに始まろうとしていた。この戦いの模様が、同盟軍、帝国軍の双方の視点から描かれる。未だ名を馳せぬヤン・ウェンリー、そして出世の階段をかけのぼる中途の、ラインハルト・フォン・ローエングラム少佐と、ジークフリード・キルヒアイス。彼らが、実際にお互いの存在を知るまでには、まだ数年の時間を要した。

 

 一番心に刺さったのは、最後の場面だ。ラインハルトを救おうとして、負傷したキルヒアイスが、医務室で目を覚ます。

「キルヒアイス、おまえはこれからもずっとおれのそばにいてくれるな」

「ええ」

「おれよりさきに死んだりしないな?」

「ええ、ラインハルトさま」

「約束したぞ。忘れるなよ」

 このあとに彼らを待ち受ける運命を思い出すと、心が痛む。こんなやりとりを書きながら、キルヒアイスを平然と死なせる作者も相当性格が悪いと思うが、それなのに銀英伝を読むことをやめられない自分も、物好きだと苦笑した。

 

「朝の夢、夜の歌」

 銀河帝国484年、大佐に昇進したラインハルトと、その副官であるキルヒアイスは、二人の母校である幼年学校を訪れる。そこでは奇怪な殺人事件が発生した。二人は、この事件の犯人を追う。

 

 ミステリー風味のあることは、4巻とも少し似ている。ラインハルトとキルヒアイスは、いつも通り息のあった動きで、するすると難題を解決してしまうのだ。

 

 このころのこの二人の上官であったら、頭が痛いに違いない。偏見を持って見るかはともかく、扱いにくいことこの上ないだろう。いっそ早く二人に階級を追い越してほしいと思うのかもしれない。

 

「汚名」

 これは、珍しくキルヒアイスがラインハルト抜きに大活躍する短編だ。遭遇した暴漢から、退役軍人を救ったキルヒアイスが、みるみるうちに麻薬を巡る事件に巻き込まれていく。

 

 派手なアクションもさることながら、今まであまり焦点の当たっていなかったキルヒアイスの能力には、目を見張る。もちろん彼が有能であることは再三強調されているし、分かっているつもりだったが、実際それを見てみると、認識が甘かったと思わずにはいられない。結局私も、彼をラインハルトの影としか見ない不愉快な人々の一員なのだ。

 

おわりに

 というわけで、銀河英雄伝説の再読は終わりになります。楽しんでいただけましたでしょうか。次に銀英伝を再読するときは、外伝も含めて徹底的に時系列順に読んでいっても楽しいかな、とふと思ったので、それまでに時系列を整理しておきたいところです。

 

 さて、次回からは、七王国の玉座でも読もうかなと思います。実はこのシリーズ、まだ読んだことがなかったので、かなり楽しみです。その前にきまぐれに上橋菜穂子さんなども挟むかも知れませんが、またこのブログを見ていただければ幸いです。長いシリーズを最後までご覧くださり、ありがとうございました!