はじめに

 みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回は、銀河英雄伝説の8巻を再読した感想です。銀河英雄伝説の再読を最初から読まれる方はこちら。ネタバレございますので、未読の方はご遠慮ください。それでは今回も、雄大な宇宙の海を眺めることにいたしましょう。

 

「銀河英雄伝説 8 乱離篇」田中芳樹(創元SF文庫)

 イゼルローン回廊での決戦は、再び幕を開けた。攻めるラインハルトに、守るヤン。常勝と不敗の対決が、今回も迫力満点に描かれる。ヤンの奇策は、今回もイゼルローンに不敗をもたらせるのか。

 

 正直、この8巻の感想には、6巻の記事の最後に引用したシェーンコップの台詞で充分な気がする。

「ヤン・ウェンリーという男には悲劇の英雄などという役柄は似あわない。観客としてはシナリオの変更を要求したいわけですよ。場合によっては力ずくでね」

 あえて最初の一文は6巻のときには省略させていただいた。私は切実にこの言葉を作者に投げつけたい。私の感情が、全てここに現れているとしか言い様がない。

 

 だが、まさか力ずくでシナリオを変更させるわけにもいかないので、激情のままに感想を綴るとしようか。

 

 田中芳樹さんという作家は、どうしてこうも魅力あるキャラクターを容赦なく屠っていくのか。確かに、誰だっていずれは死ぬのだ。だが、まさかここで、と思わせる絶妙すぎるタイミングで、彼らが一番死んではいけなかった場面で、殺していくのだ。許せない。もちろん、こういう読者の反応も見通されているのだろう。それも悔しい。ものの見事に作者の手のひらで踊らされているように感じる。

 

 でも、いやだからこそ、面白いのだ。読むのをやめられないのだ。

 

 前回も書いた矛盾の正体とは、突き詰めればこのようなことなのであろう。

 

 それにしても、私は前に一度読んでいるのだから、物語の運ばれ方は知っていたはずだ。なのに、どうしてこんなに衝撃を与えられてしまうのか。あの、ヤンが死んだというのに、のうのうと生きている自分に困惑すらしてしまった。

 

 ユリアンたちに、感情移入しすぎたのだと思う。彼らの道を追っているうちに、私もまた、ヤンは不死であるという錯覚に捕らわれていたのだ。その巧みさに、歯がみしても、もう遅い。ヤンは、死んでしまった。

 

 さて、それでも銀河英雄伝説のもう一人の主人公、ラインハルトはまだ、銀河に覇権を確立してはいない。そして、外伝ではまた、舞台から退場した人々と出会えるのだ。それを糧に、銀河英雄伝説本編の再読のラストスパート、駆け抜けていこう。

 

おわりに

 というわけで、銀河英雄伝説8巻の感想でした。次回も、銀河英雄伝説の再読です。お楽しみに!