みんなこわい話が大すき/尾八原ジュージ/KADOKAWA

学校ではいじめのターゲットになり、家では母に虐待されている小学生のひかりの友だちは「ナイナイ」。
ナイナイはひかりの家の押し入れの中に住んでいる影みたいな姿の不思議な生き物(?)で、ひかりに唯一優しくしてくれる存在。

でもある日、いじめのリーダーのありさちゃんが家に来て押し入れに入ると、ナイナイは消えてしまった。
それからというもの、ありさちゃんも、お母さんも、クラスメイトも、誰も彼もが別人になったみたいにひかりに優しくしてくれるようになった。
どこへ行ってもみんなのお姫さまみたいに扱われるひかりは、それが怖くてしょうがない。

その頃、盲目の霊能者「よみご」の史朗とボディガードの黒木のもとに危険な依頼がひとつ舞い込んで…


児童書ホラーのような少女と怪異のダークな友情物語と霊能者ホラー小説が融合した不思議な作品。
これまでネット小説の書き手として活動していた尾八原ジュージの長編書籍デビュー作品です。


これいわゆる「霊能者もの」なんですけど、その「霊能者」の設定も彼が祓うモノの設定も全部独自設定なのがちょっと珍しいです。

この作品に登場する盲目の霊能者は、「霊能者」ではなく「よみご」と呼ばれており、彼が祓うモノも「幽霊」とか「妖怪」とかではなく、「きょう」と呼ばれる謎の精神体です。

「きょう」は「人間の良くない念のかたまり」みたいなもので、自然にその辺を浮遊していたりもするし、能力がある人にはそれを人工的に作り出して操れたりもする、みたいな存在。
邪念と式神と穢れが混ざったような感じ?

私はもともと霊能者モノのホラーはそんなに好きじゃないんですが(ホラーの中に霊能者という解決手段が存在するのが基本的に好みじゃないのと、宗教臭が入るのが嫌い)、これはオリジナル設定がユニークで面白かったです。全部オリジナル設定なので宗教臭さもないし。


そしてその霊能者もの部分を全部取っ払ったら、残った部分がなかなか魅力的な児童書ホラーになってる、というこれまた変わった作品なんですよ。
そこだけ抽出して少し加筆修正したら児童書として出版することもできそう(石川宏千花の児童書ホラー「密話」にちょっと似てます)。

巻末の著者略歴を見ると、長編デビューの前は児童向けの5分系ホラー短編集に作品を提供していたことがあるそうで、なるほどと思いました。もともと児童書作家でもあるんですね。
いつか長編の児童書またはYA向けのホラーも書いてみてほしいな。きっと面白いと思う。

 

飄々としたよみごの志朗といかつい外見に似合わぬ好青年なボディガードの黒木くんはユーモラスなコンビで、バディものとしてシリーズにできそうな雰囲気もあります。同じ設定で続編が出たりすることもあるのかな?