営繕かるかや怪異譚 その参 / 小野不由美 / KADOKAWA

 

豊かな水をたたえた静謐な地方城下町を舞台に「建物」をテーマに語られる連作怪談ホラー短編集「営繕かるかや怪異譚」の3巻目。


古い洋館を改装したレストランに現れる謎の女の怪異と住人の少女の成長を絡めた「ローレライ」、
歪んだ嫁姑関係と幽霊譚を絡めた「火焔」、
趣味で作るカントリー風ドールハウスが全部恐ろしい姿に変わってしまう怪異と作り手の女性が抱えた心の傷を描く「歪む家」、
納戸の中の箪笥に憑いた女の幽霊がもたらす祟りと若夫婦の奥さんの出産を絡めた「誰が袖」、
海から上がってきた死者たちが訪れる奇妙な庭とヒロインの孤独を絡めた「骸の浜」、
そして毒母を持った姉妹の悲劇と庭の小屋に起こる不気味な怪奇現象を描く「茨姫」

の全6話収録です。


怪談×家(建物)という題材縛りがある上に舞台までひとつの町(具体的なモデルがあると思われる地方の城下町)に限定した中で毎度魅力ある話を書くのは、作者側はきっと大変なんだろうなと思いました。

このシリーズ、1巻目は収録作全部が素晴らしい怪談ホラー。
でもシリーズ2巻目では怪異に至る因と果を理屈で説明つけてある話が多くて、怪談としての魅力が落ちていると感じました。

で3巻目はというと、「理屈っぽい」という前作の欠点は直ってるかわりに、一部の収録作の怪異のインパクトが薄いです。

この3巻目では、怪談の中に占める家族ドラマの部分を少し多めに再配分してある気がします。家族ドラマ成分を増やすことでホラー部分以外に作品を支える柱を増やした感じ。
これがうまくいってる作品もありますが、特に前半の収録作の怪談としてのインパクトが弱い。
1話目なんかは怪異部分と建物部分と人間ドラマ部分の絡みが薄くて、これだと話の展開上中身の怪異がなんでも構わないような印象。
たまにホラー部分よりもずっと生身の家族のドロドロ・ギクシャク描写の方が筆が冴えてたりもします。


そんな中、怪異、建物、町、ヒロインの人生、の四要素がしっかり絡んでドラマを作り、怖さもしっかりある5話目「骸の浜」がずば抜けて良いです。個人的には1巻目の収録作「雨の鈴」(←超怖い)に次ぐ傑作。
海から上がってきた水死者たちが訪れる荒れ果てた家の庭がおぞましくも美しい。どこにもなじめないままこの異様な家とともに生きてきたヒロインが抱える孤独の描写もすっと胸に馴染んできて上手いです。

次点が最終話の毒母×姉妹ホラー「茨姫」。
ホラーとしてよりも切ない姉妹の物語として心に残る作品で、後味も意外と優しく魅力的。私の好みだとダントツで「骸の浜」ですが、この「茨姫」がいちばんという人も結構いるのではないかと思います。