あのう、突然ですが、私、自分がメタル好きだからという理由でこのブログで年に数回急に文学ともYAとも関係なくメタルの話をすることがあるんですけど、基本ここに来てくださる方はYAと読書が好きな方であって、メタルの話が見たくて来てる方はひとりもいないと思うんですよね…いつもすみません。

なのでたまにはブログの趣旨に合ったメタルの話(?)をしようと思います。


最近何度かドイツのファンタジー小説家ヴォルフガング・ホールバインの児童書のドラマ化についての記事を書いたのですが、その時にふと思い出したことがあります。

「ヴォルフガング・ホールバインといえばメタル」

そうなんです。ヴォルフガング・ホールバインはヘヴィメタルと縁のある作家。
彼は日本では児童書ファンタジー「メルヘンムーン」やYAシリーズ「ノーチラス号の冒険」シリーズで知られる作家ですが、メタルの世界では「Manowar(※バンド)やVanden Plas(※バンド)のアルバムの題材になってる作家」として(一部で)知られています。


いまヘヴィメタルという音楽が一般的にどういうイメージを持たれているのかはよくわからないんですが、メタルはジャンルによってはオタクや読書家の棲息率がアーティスト、リスナーともにわりと高く、上記のホールバインに限らず、文学作品を曲やアルバムの題材に取り込んだ作品が結構あります。

メタルは読書クラスタのための音楽でもあるのです。


というわけで、今回は読書好きが楽しめる(かもしれない)文学メタルたちについてお話しします。

当ブログの趣旨に合わせて、YAとして読める作品、あるいはYA・児童書を書いてる作家の作品だけで固めました。第1回は現代ファンタジー小説×メタルです。

それではお付き合いください。

まずは話の枕で名前を挙げたこちらの作家から。



ヴォルフガング・ホールバイン × Manowar「Thunder in the Sky(原作タイトル「Thor: Die Asgard Saga」)」

 


アメリカのエピックメタルバンドManowarは、ヴォルフガング・ホールバインのファンタジー小説「Die Asgard Saga」を原作に、2009年にEP(ミニアルバム)「Thunder in the Sky」を出しています。


原作「Thor: Die Asgard Saga」(未訳)は、日本では児童書「メルヘンムーン」などの著者として知られるドイツのベストセラーファンタジー作家ヴォルフガング・ホールバインの2010年の作品。
自分が何者かを見つけるためにアスガルドへの旅に出た記憶喪失の雷神ソーの冒険と戦いを描く、北欧神話を題材にしたエピックファンタジーのようです。

「原作」というか、これは厳密には「Manowarとのコラボのために書いた作品」で、題材が北欧神話なのは、もともと北欧神話が好きなバンドであるManowar側の希望だと思います。
ホールバインの小説は全3作で、前日譚と主人公が交代した続編があるみたいですが、このEPの内容はほぼソーとオーディンの物語で第1部のストーリーまでのようです(未訳で未読なので断言できない。違ったらすみません)。
ホールバインが言うには本当はこの後にあと2枚、3部作のコラボアルバムが構想されていたそうですが、そちらは実現していません。


私Manowarはちょっと路線がマッチョすぎてハマらないバンドなんですが、収録曲の「The Crown And The Ring」は名曲です。とてもかっこいい。

 

Manowar The Crown And The Ring (Lament Of The Kings) WITH LYRICS
https://www.youtube.com/watch?v=1Lkj-34h2Bc


またこのEPはインパクト抜群の日本語ボーナストラック「父(Father)」でも有名なので、そちらも貼っておきますね。

 

ManowaR - Father - Japanese Version
https://www.youtube.com/watch?v=tb6WdXNV8Ac

歌詞の内容とそれが日本語なのと語るような歌い口のせいでとてもさだまさしです(メタルなのに)。

これ何かっていうと、このEPには収録曲「Father」を世界各国15の言語で歌ったバージョンがボーナストラック集として付属していたんです。この日本語版はそのうちのひとつです。

つまり「Thunder in the Sky」を買うと、「Father」ばっかり言語違いで15回も聞けるという狂ったCDが1枚おまけでついてくる仕様だったわけです。本編の「Thunder in the Sky」は6曲しか入ってないのでボーナスCDの方が長い。「Father」しか入ってないけど。
(現在はCD版は手に入りづらいですが、配信でアルバムとして買うとやっぱり15バージョンの「Father」がついてくる仕様です)

この時のManowarがなんでこんなに「Father」を推してたのかはわかりませんが、うむ、お父さん大好きなんやな…ってのが素直に伝わってくる素朴な良い曲ではあります。知らん言語で歌ってるのにちゃんと正しい単語の正しい場所に適切な感情が載ってて歌唱も素晴らしいです。でも訳詞がもうちょっとだけこなれてるといい…

ところでアルバムの流れや原作の内容からすると、この歌の中に登場する「お父さん」は北欧神話の最高神オーディンで、「ぼく」は雷神ソーなのかもしれません。とてもそうは聞こえませんが。

 

 

 



ヴォルフガング・ホールバイン × Vanden Plas「Chronicles of the Immortals: Netherworld(原作タイトル「Die Chronik der Unsterblichen」)」2部作
 

 


ヴォルフガング・ホールバインからもう1作。
ドイツのプログレッシブメタルバンドVanden Plasは、ホールバインの別のファンタジー小説「Die Chronik der Unsterblichen」を原作にして、2014年と2015年に「Chronicles of the Immortals - Netherworld」という2部作のアルバムを発表しています。

 

Vanden Plas "Chronicles of the Immortals - Netherworld" (Official Trailer / New Studio Album 2014)
https://www.youtube.com/watch?v=OtPxTvF-NsM

 

 

Vanden Plas "Chronicles of the Immortals: Netherworld II" Trailer (Official / Studio Album / 2015)
https://www.youtube.com/watch?v=dMVF4Q4CDIw

わあ、こりゃかっこいいや。実は未所持なのでこれから聴いてみます。


原作「Die Chronik der Unsterblichen」(未訳)はヴォルフガング・ホールバインのシリーズ作品。
自らの起源にまつわる秘密を解き明かそうとするトランシルヴァニア出身のヴァンパイア・アンドレイとヌビア人の相棒アブー・ダンの、さまざまな人間やヴァンパイア、神々に出会いながらの壮大な旅と、ヨーロッパ各地の歴史上の出来事の数々を絡めたヴァンパイア×バディもの×歴史ファンタジーのようです。

1999年に出版された1巻「Am Abgrund」から2017年に出版された「Dunkle Tage」まで既刊16巻の大作。本国ではコミカライズもされています。
また、ミュージカル俳優でもあるこのバンドのボーカル・アンディ・クンツ主演でドイツで舞台化もされたようです。

 

 

 

 

ヴォルフガング・ホールバイン × Delany 「Blaze and Ashes(原作タイトル「Die Chronik der Unsterblichen」)」

 

 

かなりマイナーな作品ですが、もう1作ホールバイン。
Delanyという多国籍メロディックメタルバンド…というかこのアルバムのために結成されたと思われるメタルプロジェクトが、上のVanden Plasと同じ「Die Chronik der Unsterblichen」を原作にしたアルバム「Blaze and Ashes」を2009年に出しています。

このDelanyというグループは、Pink Cream 69のデイヴィッド・リードマン、VAINのデイヴィー・ヴェイン、ラナ・レーンの3名がボーカルをつとめ、作曲はドイツのパワーメタルバンドWizardのベーシスト・ヴォルカー・ルソンとデイヴィー・ヴェイン。
ほかギターはVAINのジェイミー・スコット&Wizardのダノ・ボーランド、ドラムはVAINのトミー・リカード、という、ほぼVAINとWizardのクロスオーバーみたいなメンバーだったようです。

どういう経緯で結成されたのかよくわかりませんが、このアルバム1枚のみで解散しています。

 

Delany "London bridge"
https://www.youtube.com/watch?v=qn0Kb9ctrAE


そこそこ名の知れたメンバーが集まってるわりに彼らは情報がほとんどないグループで、動画も上がってないし、ググってもアー写すら出てこないし、どういう活動したのか謎です。1回くらいはライブとかやったんですかねえ。
これ見る限り曲は悪くないです。音はちょっとチープだけどメロディが美しくてボーカルがめちゃくちゃうまい。この曲はデイヴィッド・リードマンが歌ってます。

 



さて、このホールバインという作家がなんで3回もメタルアルバムになってるのかというと、どうもご本人がメタルお好きみたいです。ドイツの版元ペンギンランダムハウスの著者情報によれば、コーヒー飲んでメタル聴いてインスピレーションを得てから執筆に入るのが日課だそうで。
ちなみに写真を見るといつもロン毛にヒゲに黒服で、確かにメタル好きそうなおじさんです。

たぶんメタル好きだから作品がメタルミュージシャンに好かれ、メタル好きだからコラボや原作利用を申し込まれても断らないんでしょうね。
(特にManowar、コラボ申し込まれてもあの路線が嫌いな作家だと「Manowar」で画像検索した瞬間に断ってしまうかもしれないバンドだもんな)

 

 

 

オースン・スコット・カード × Iron Maiden「第七の予言 Seventh Son of a Seventh Son(原作邦題「アルヴィン・メイカー1 奇跡の少年」)」
 

 

Iron Maiden - Can I Play With Madness (Live Maiden England '88)

https://www.youtube.com/watch?v=d-WPwrSuTc4

 

イギリスの大物バンドIron Maidenの1988年のアルバム「第七の予言」の原作は、「エンダーのゲーム」で知られるアメリカのSF作家オースン・スコット・カードが1987年に発表した「アルヴィン・メイカー」シリーズの1巻目「奇跡の少年」。

現実とは違う架空の歴史をたどったもうひとつの19世紀初頭アメリカを舞台に、創造者の力を持つ存在である「七人目の息子の七人目の息子」として生まれた奇跡の少年アルヴィンの冒険を描いた歴史改変ファンタジー小説です。
アルバムの題材になった「Seventh Son(邦題「奇跡の少年」)」を含め複数の巻でローカス賞の長編ファンタジー部門を受賞するなど高い評価を受けています。

なお主人公の少年のモデルはモルモン教の創始者ジョセフ・スミスと言われており、宗教的なアレがちょっとアレ。カードは熱心なモルモン教徒なのでね…。でも気にしなければ気にせず読めますし、アルバムの方も何も気にしないで聴けます。今でも名盤と名高い大ヒットアルバムです。


原作シリーズは2003年に出た6巻目「The Crystal City」で未完のまま20年間ストップしており、7巻目となる「Master Alvin」はタイトルだけ発表されたまま今も刊行されていません。
最初の2巻のみ角川書店(現KADOKAWA)から邦訳が出ていましたが、現在は絶版です。

 

 

 

 

 

 

上の4作はアルバム1枚丸ごと原作付きのコンセプトアルバムたちですが、単発曲の文学メタルもあります。


ジョージ・R・R・マーティン × SAUROM 「Se Acerca El Invierno(原作邦題「氷と炎の歌」)」

 

SAUROM - Se Acerca El Invierno
https://www.youtube.com/watch?v=LOdbSsZ0Mn4

こちらは少し前に当ブログでご紹介したスペインの人気フォークメタルバンドSAUROMの2012年のアルバム「Vida」の収録曲。

タイトルの「Se Acerca El Invierno」は英訳すると「Winter is Coming」。ジョージ・R・R・マーティンの大ベストセラーファンタジー小説「氷と炎の歌」シリーズでおなじみのせりふですね。
これは同作を題材にした曲で、ドラマ化作品「ゲーム・オブ・スローンズ」のオープニングで使われていたオーケストラ曲のメロディが取り入れられています。
でも歌メロと歌詞はバンド側で作ってるので、かなり原曲と印象が違いますね。原曲の3倍くらいの大曲になってますし。

歌詞は全編スペイン語ですが、「ウィンターフェル」とか「スターク家」とか物語に登場する固有名詞も普通に出てきます。
歌詞の雰囲気はシリーズのかなり序盤。バンドのボーカルのミゲル・アンヘル・フランコが歌ってるパートはスターク家当主のネッド・スターク、ゲストの女性シンガーが歌ってるパートが奥方のケイトリンの役みたいです。


原作「氷と炎の歌」はアメリカのSF&ファンタジー作家ジョージ・R・R・マーティンの世界的ベストセラー。
架空世界の七つの王国の王族と貴族たちによる壮絶な争いを、ウィンターフェルの貴族スターク家の5人の子どもたちを中心に描いた大河ファンタジーのシリーズ作品です。
1996年に刊行がスタートし、まだ継続中。現在までに本編5巻といくつかの番外編が出ています。

ドラマ化作品「ゲーム・オブ・スローンズ」は全世界で大ヒットし、原作完結前の2019年にドラマオリジナルの最終回を迎えました。(つまりドラマが原作を追い越してしまった)
原作は全7巻で完結する予定ですが、2011年の5巻目を最後に10年以上ストップしています。やりにくいんでしょうねえ。
既刊は早川書房から邦訳が出ています。

 

 

 

 

 

 

ロビン・ホブ × Within Temptation 「Hand Of Sorrow(原作邦題「ファーシーアの一族」)」

 

Within Temptation and Metropole Orchestra - Hand Of Sorrow (Black Symphony HD 1080p)
https://www.youtube.com/watch?v=oQIyxkT8gCI

こちらはオランダの大物ゴシックメタルバンドWithin Temptationがロビン・ホブの異世界ファンタジー小説「ファーシーアの一族」を題材に作った曲。
2007年のヒットアルバム「The Heart Of Everything」に収録されています。

このアルバム買った当時、歌詞がなんとなく「ファーシーアの一族」っぽいなーと思って自分の中でこの曲を勝手にイメソンにしてた(オタク仕草)んですけど、数年後に本当に「ファーシーアの一族」をモチーフにした曲だったことを知ってびっくりした思い出があります。
歌詞の中に作中の固有名詞などはまったく出てきません(なので原作無関係な曲としても聴ける)が、そのくらいイメージぴったりな曲です。


原作「ファーシーアの一族」は、「メガン・リンドホルム(Megan Lindholm)」という別ペンネームで児童書&YA作家としても活動しているアメリカのベストセラーファンタジー作家ロビン・ホブが1995年から1997年にかけて刊行した3部作。

六つの公国からなる架空の世界を舞台に、王家の私生児として生まれて暗殺者として生きることになった少年フィッツを主人公に、王族たちの権力争いや国を襲う危機を描く過酷なエピックファンタジー小説。主人公と性別年齢種族不詳の謎の人物「道化」との壮大なラブロマンス(あるいはブロマンス)でもあります。
続編シリーズとともに東京創元社から邦訳が出ていましたが、現在は品切れ重版未定かな。

 

 

 

 

 

 

レイモンド・E・フィースト × Dark Moor「The Dark Moor(原作邦題「リフトウォー・サーガ」)」

 

The Dark Moor
https://www.youtube.com/watch?v=IKnFoKOKsAs

スペインのシンフォニックメタルバンドDark Moorのバンド名を冠した大曲「The Dark Moor」の原作はレイモンド・E・フィーストのファンタジー小説「リフトウォー・サーガ」。
2003年のアルバム「Dark Moor」に収録されています。


原作「リフトウォー・サーガ」はアメリカの作家レイモンド・E・フィーストが1982年から86年にかけて刊行した3部作のファンタジー小説。
空間の裂け目でつながったミドケミアとケレワンというふたつの世界の戦いに巻き込まれて運命を変えることになる、ミドケミアの魔術師の弟子の少年パグと親友トマスの物語。
いったん3部作で完結はしていますが、その後同じ世界を舞台にした多くの続編が出ています。
早川書房から第3シリーズまでは邦訳が出ていましたが、現在は品切れ重版未定です。

「Dark Moor(ダークムーア)」はこのシリーズの舞台になっているふたつの世界のひとつミドケニアに存在する地名で、もともと彼らのバンド名もここから取ったそうです。
この辺の詳しい事情は知りませんが、メンバー(たぶん創設時から在籍してるギターのエリック・ガルシア)が「リフトウォー・サーガ」好きだったのかな。
彼らはこのほか「モンテ・クリスト伯」や「ドン・キホーテ」、トールキン、ムアコック、詩や戯曲を題材にした曲などいろいろやってます。

 

 

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

次回は名作文学編になる予定です。(つづく)