よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続/宮部みゆき/KADOKAWA

 

人々の怪異譚を聞き続ける大店のぼっちゃまと、ふだんは誰にも話せない自分の怪奇体験談を抱えて彼の店を訪れる語り手の人々のいっとき限りの交流を描く、宮部みゆきの江戸怪談ホラー連作「三島屋変調百物語」の8巻目。

収録作は3話ですが、今回は1話につき200ページ前後ある大作ばかりなので、全522ページの結構なボリューム。
そして神隠しもの、異種婚姻譚、異世界+●●●アポカリプスもの――と、たった3話の収録作の中に流行りジャンルも取り込みつつ色々詰め込んであります。


1話目「賽子と虻」は、呪いにかかったお姉さんを助けようとして神様たちが遊ぶ異界の賭博場で働くことになってしまった少年の不思議な体験を描いた物語。
今回の収録作の中ではこれがいちばん魅力的でした。

「千と千尋の神隠し」を思わせる不思議な世界と恐ろしかったりユーモラスだったりする神様たち、主人公の少年を助けてくれるキュートなマスコットキャラたちの微笑ましさ、それに加えてほんのりボーイミーツガール風味もあったりして、不思議で愛らしくて心温まる和風ファンタジー……と見せかけて最後で容赦なく叩き落してくるのがすごい(ひどい)。

終盤では村の独自信仰を許さない殿様のむごたらしさや滅んでいく信仰の悲しみが上手く描かれており、読んでて悲しみや怒りを掻き立てられます。が、

しかし思い返すとこのシリーズ、2作前の6巻目では「お上に逆らって禁教を信仰して島流しになった奴なんか自業自得なので怒る権利はない(※キリシタンについて)」みたいなえらい冷たいこと書いてませんでした?というモヤりを感じなくもないです。


2話目「土鍋女房」は、拾った土鍋の中に住む異形の女性に魅入られてしまった兄を持つ妹が語る彼らの恋の顛末の物語。

見る角度によっては怖い話なのかもしれないけど、お兄さんは幸せそうだし土鍋の彼女は彼にガチ惚れで大事にしてくれそうだし、本人たちにとってはハッピーエンドの良い話ですよね。


3話目の表題作はシリーズいちばんの異色作かもしれません。
病の妻を連れて三島屋を訪れた語り手の男性が、少年時代の奇怪な体験を語るんですが、これがまあ……

まず、この話は、語り手の彼の故郷の池の底から行けるという、「この世界とよく似たもうひとつの世界」を舞台にした「異世界もの」です。
そしてその異世界は大量発生した「とある怪物」に襲われており、住人たちは生き延びるために必死でサバイバルしています。
その怪物というのが、…一応伏せるけど、ハリウッド(に限らず全世界のB級ホラー)映画によく出てくるアレそのまんまです。●●●です。江戸怪談ホラーで異世界●●●アポカリプスパニックホラーをやられるとは思いませんでした。
しかし江戸時代が舞台で侍がいかにもアレなアレと戦うのは珍しいので、このジャンル好きな人だと楽しいかもしれません。


前の巻のレビューでも書きましたが、このシリーズは巻が進むごとに怪談からファンタジーになりつつありますね。
ファンタジー寄りの話も悪くないけど、怪談らしい路線に少しだけ軌道を戻してほしい気もするな。