自由研究には向かない殺人/ホリー・ジャクソン/服部京子訳/東京創元社
 

リトル・キルトンはイギリスの平凡で平穏な田舎町。でも、この地にはいまだに、5年前に起きた事件が影を落としています。

5年前、美人で学校の人気者だった女子高生のアンディ・ベルが行方不明になり、殺害をほのめかすメッセージを残して彼氏のサリル・シンが自殺。
今も遺体は見つからないまま、アンディの友人たちはまだ心に重荷を抱えているし、インド系でもともと偏見の目で見られがちだった容疑者サリルの遺族たちは地域住民からの激しいバッシングに耐え続けている。

とはいえ、関係者を含め、町の人々はみんな、「犯人」が死んでもうとっくにあの事件は解決したと思っています。
たったひとり、この事件を学校の課題の自由研究のテーマに選んだ地元の女子高生・ピップを除いては。


イギリスの新人YA作家ホリー・ジャクソンの2019年のデビュー作品。
2020年カーネギー賞ノミネート、2020年ウォーターストーンズ児童文学賞YA部門ショートリスト、2020年YA Book Prizeショートリスト、2020年ブランフォード・ボウズ賞ショートリストと高い評価を受けています。


証拠を少しずつ集めてフーダニット、ホワイダニットをコツコツ丁寧に解き明かしていくしっかりしたミステリで、さらにヒロイン・ピップの家族や友情の物語でもあり、加えて人種差別、加害者家族、ドラッグ、性犯罪など細かいテーマも盛り込んであって、どこを切っても読みごたえがあります。
でも何より、単純に面白い作品。


自由研究で地元の殺人事件を捜査する、変わったヒロインのピップと、その捜査の相棒になるラヴィ(死亡した容疑者サリル(サル)の弟)の2人はとってもいい子。

白人の母親と、その再婚相手のナイジェリア人の義父、黒人の弟という人種の混ざった仲良し一家で育ったピップは、愛情をしっかりもらって育ったまっすぐな子で、偏見に曇らない目でものごとを見ることができます。
そして、過去に自分をいじめから救ってくれた「ヒーロー」のサルが殺人犯だとは信じていません。

大好きな兄を失った上、地域から5年もバッシングを受け続けて傷つき、警戒心をとがらせているラヴィは、本当は明るいユーモアと聡明さを持った優しい子。
彼は捜査の中ですぐにピップに心を開き、やがて彼女の頼れる相棒になり、ピップが一番辛いときには、すべてを投げ出しそうになる彼女を芯から理解して励ます存在になります。

田舎町の暗い秘密を少しずつ解き明かしていく話なので、もっと重たいトーンになっても不思議じゃないんですが、最初から最後まで爽やかで健全な気持ちいい空気が流れている感じがするのは、このキュートなコンビが主人公だからかなと思います。彼らにまた会いたいので、続編が訳されたら読みたいな。

あと、彼らの関係がよくある青春ミステリみたいにそそくさとロマンスにならないのも良かったですね(彼らは最後まで捜査の相棒かつ信頼できる良い友だちであり、ロマンスにはなりません)。


でまた、バディもの、友情ものとしてだけじゃなく、ミステリ部分もすごく面白いんですよ。まさに今、2020年代仕様の青春ミステリって感じ。

インターネット、SNS、スマートフォンが発達している今現在は、「女子高生の素人探偵がひとりでできること」のレベルが20年前とかとはもう全然違うんですよね。

女子高生の自由研究で解決済みの殺人事件1件をひっくり返すことなんてできるのか?それファンタジーの世界じゃない?って最初は思うんですけど、そうしたものを駆使した捜査の過程がこつこつとリアルに描かれているので、読んでるうちに「こういうことも今ならできるのかもしれないなあ…」と思えてきます。
素人のティーンにこれができる、ここまでできる、という世界がリアルさをもってそこにある。とても面白かったです。


真犯人と真相がわかって事件が解決しても、まだ少し謎が残っているような印象もありますが(なんだか随所で怪しい動きをしていたあの男とか)、その辺はもう謎のまま終わるのかな?それとも、続編で生かされてくるのかな?


というわけで、続編の邦訳を楽しみに待ちたいと思います。続きも邦訳出てほしいからどうか売れて。