今度は、この作品である。![]()
数多いポオの短編の中でも、これは最大の傑作とされ、この一編の作品だけでもポオの名は後世に残るだろうとさえ言われています。(もっとも、ポオ自身は「リジーア」という短編を最も得意な作だと言っています。)
ポオが「アッシャア家の崩壊」を書いたのは、彼がバージニアと結婚した一、二年後で、病身な彼女がとても長く生きられないことが彼にもわかっていて、そのために暗い気持ちになっていたようです。
「およそ恐怖は精神的または肉体的の病人を観察することから生ずるものが最も強力である。」と信じていたポオは、ここでも極度のノイローゼに陥った男を主人公にしていますが、ポオの研究家は、この物語の筋はポオが愛読していたイギリスの雑誌に掲げられた「医師の日記」という作品から取ったものだと述べています。
(谷崎精二:「新学社文庫の解説」p.164-5)
それでは、冒頭から見てみることにしよう。
先ずは、ポーによる原文から。
「The Fall of the House of Usher」
During the whole of a dull, dark, and soundless day in the autumn of the year, when the clouds hung oppressively low in the heavens, I had been passing alone, on horseback, through a singularly dreary tract of country, and at length found myself, as the shades of the evening drew on, within view of the melancholy House of Usher. I know not how it was ---- but, with the first glimpse of the building, a sense of insuffrable gloom pervaded my spirit.
(p.231)
次に、渡辺啓助訳(中公文庫)。敢えて、煩瑣になるけどルビをカッコ内で付す。![]()
「アッシャア家の崩壊」
鬱陶(うっとう)しい雲が空低く蔽(おお)ひ懸(かか)つて、懶(ものう)い、陰気な、寂然(ひつそり)とした秋の一日、私は終日(ひねもす)ただひとり馬に跨(またが)つて、殊(こと)の外(ほか)寂(さ)びれ果てた地方を過ぎて来たが、さて遂(つい)に黄昏(たそがれ)の影の間近く迫つた頃、漸(ようや)くアッシャア館(やかた)の姿を望み見ることが出来た。しかし、どうした理由(わけ)かその建物を一目見ると、或(あ)る堪(た)へ難(がた)い憂愁(ゆうしゅう)が私の心に浸(し)み込んだ。堪(た)へ難(がた)い----それは、凡(およ)そどんな荒涼たる、または凄(すさま)じい、厳粛な自然の像(すがた)からも受ける、あの半ば快(こころよ)い詩的な情(こころ)に依(よ)つて少しも和(やわ)らげられたところがなかつたからである。
(渡辺啓助訳:p.371)
次回から、次々と異なる翻訳が出てくるけど。。。![]()
<エドガー・アラン・ポーを読む・・・!>・・・17