こんにちは、リブラです。
今回は「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の第10章の解説です。
*直接暗示
直接暗示は、外側から発生られる命令という形を取ります。
人は、他者の言葉の影響を受けやすく、ときに、認識している以上の影響を受けることがあります。
厳格な父親を持つある患者(この本の著者ダン・ショートのクライエント)は、腕立て伏せが10回もできないような身体が、ブートキャンプで軍曹の命令とおり軍事教練を行った結果、「100回もできるようになった。凄い!」と感動していました。
ショートとのセッションでこのクライエントは、傾聴型のセラピストを好まず、現状何をしたらいいのか指示を与えてくれるセラピストを必要としていました。
命令ばかりする父親の影響で、外側からの支配に応答するようなプログラミングが、このクライエントの潜在意識に刷り込まれていたからです。これは直接暗示が繰り返されることにより、形成されたプログラミングです。
また、直接暗示は母親が本能的に、怪我をした子どもにかけて癒すこともあります。
「お怪我したところに今から3回キスするわ。1回キスするたびに少しずつ良くなるわよ。
そして、3回目のキスで、痛いのがどっかいっちゃうの」
このように、外側から発せられる命令という形をとる直接暗示は、親が子どもに対して無意識にかけていることが多いのです。
この本の著者の一人であるベティ・アリス・エリクソン(エリクソンの娘)は、10代のころ朝5時に父親(エリクソン)に起こされたことがありました。
当時ベティは運転免許を取ったばかりでした。
エリクソンは娘に、一緒にドライブに出かけて練習してほしかったのです。
ベティが無理やり起こされたことにブツブツいっていると、エリクソンはじっと彼女の目を見て言いました。
「起きなさい。この先80年間好きなだけ寝てもいいが、今は起きて、人生を楽しむんだよ!」
ベティは、父親とのドライブを楽しんだので、少なくとも後80年、人生を楽しむためにあれこれすることに全力を注ぐようになりました。
エリクソンのこの言葉(暗示)は、祝福として彼女の記憶に刻まれたのです。
残念ながら、直接暗示が呪いとして働くこともあります。
もしも、初めて出産する妊婦を担当する看護師が
「そんなのは本物の陣痛じゃありません。本物の陣痛が始まったら、本当に痛いんです。
ものすごい痛みだから、硬膜外麻酔を頼むことにもなります」と言った場合には、陣痛に恐怖の暗示を刷り込んでしまいます。
しかし、痛みから立ち直るときには、直接暗示が効果的です。
「痛みを減らせると思うことは何をしてもかまいません」と暗示を受けた被検者は、その暗示を受けなかった被検者よりも、大きな痛みの刺激に耐え、不平も言わなかったという実験結果が出ています。
患者の自発性を大切にするエリクソンは、直接命令するような指示をめったにしませんが、確信が持てないでいる患者には直接的な命令が必要と考えていました。
「子どもが何かについて確信をもてないでいるときは、こういうのです。
『教えてあげよう、いつ行ったらいいのか・・・今だよ』」
「今」という一言を使うことで、処理する時間も努力も要求することなく、大きな刺激を与えることができます。
少ない努力で処理できる言葉の方が、潜在意識にうまく影響を及ぼすことができるのです。
子どもは、大人がするような連想への意味づけには、人生経験も認知的洗練さも不足しています。
子どもの行動を指示する際に、わかりにくい合図を出すと、子どもは誤解や混乱を招き、苛立ちます。
「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」より
この本では「直接暗示は、外側から発生られる命令という形を取る」という定義になっていますが、わたしたちは心の中でよく自分自身に直接暗示をかけています。
予想以上に物事がスムーズに進み、思い通りに動いているときは「これは絶対うまくいく。未来は明るい!」と確信を得た状態になります。
それは、今起きている現状から肯定的未来を予測したエゴが心の中で「明るい暗示」の言葉を囁き、「明るい未来」の思い込みをつくるからです。
このような暗示ならば、エリクソンが娘に与えた祝福のような暗示になり、良い思い込みとして残ります。
けれども、エゴは本来生存本能由来の意識なので、怖れを動機とする暗示を量産します。
「○○しないと×xになってしまう」という言葉を日常的に囁いて、不安を駆り立てます。
このような暗示が繰り返され潜在意識に定着すると、ネガティブ思考が回り、ネガティブな感情になり、ネガティブな行動へ導くネガティブスパイラルのプログラミングが形成されるのです。
また、愛の欠乏感を感じているインナーチャイルドが「愛されていない!」「寂しい!」「優しくされたい!」と心の中で囁くと、それは「愛してくれそうな人や優しくしてくれる人を見つけなくちゃ!」「愛されるための行動をしなくちゃ!」という暗示になります。
やがて「何をしても埋まらない感覚」が暴走すると、手にしている愛にも優しさにも気づけず、欠乏感に苛まれる呪いの言葉になります。
暗示による思い込みはわたしたちの意識の95%を占める潜在意識にダイレクトに働きますが、わかって使えばコントロール可能。無意識に作動するとローアーセルフ(エゴやインナーチャイルド)の暗示に操られるようになります。
エリクソンは、「確信が持てないでいる患者(または子ども)には直接的な命令が必要」と考えていました。
エゴが危機を感じているときは、自身の決定に確信できない患者のような状態ですから、直接暗示(命令)が必要です。
インナーチャイルドは子どもの意識ですから、直接暗示しか届きません。
ですから、暗示を有効に活用するには、まず、心の中でエゴやインナーチャイルドがどんなことを囁いているのか?認識することが必要です。
エゴに関しては、ネガティブな囁きが聞こえたら、「それは生存の危機にどれくらい関わるのかな?」と疑問を投げてみるとよいでしょう。
生存の危機に直結しなければ、エゴの囁きを撤回し、もっと明るい気分になる言葉を暗示にすり替えることが可能です。
エリクソンは、「わたしを傷つけないで、わたしを怖がらせないで」と唱え続ける余命2か月のガン患者に、「痛み」を「しびれ」に替える直接暗示を与えました。
「痛み」を伝えなければ生存に関わる場合は、エゴは引き続き「痛み」を主張したことでしょう。
でも、このときの「痛み」は患者を苦しませるだけなので、「しびれ」に替えることをエゴも賛同したのです。
その結果、このガン患者は「痛み」を「しびれ」に替える暗示を使い、苦痛から解放され安らかな状態で6か月後にこの世を去りました。
痛みを分割してコントロール下に置き、レジリエンスを生み出す方法 | リブラの図書館(スピリチュアルな本と星のお話) (ameblo.jp)
インナーチャイルドの囁きは、しっかり耳を傾ければ、大抵はそれでボルテージが下がり、気が済むことが多いのです。
「愛されたい」「寂しい」という思いを感じただけで、すぐそれを埋めてくれる誰かにフォーカスを移すと、インナーチャイルドは自分にフォーカスを向けさせるために、ますます欠乏感を搔き立てます。
「愛されたい」「寂しい」というインナーチャイルドの囁きが聞こえたら、「ずっと一緒だよ。その気持ちわかるよ。わたしだけは生涯味方だよ。大好きだよ。愛してるよ」と、心の中で答えてあげましょう。
インナーチャイルドの欠乏感を埋められるのは、「愛してくれる誰か」ではなく、本人の大人意識の共感だけなのです。
次回は「エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」の解説を予定しています。
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