こんにちは、リブラです。

今回は「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の第9章の解説です。

 

*読み書きの習得を切望する70歳の女性

 

エリクソンが精神科医になって間もない頃、70歳の女性「モー」が診察室に訪れ、次のように話しました。

 

「『女に教育は要らない』という両親のもとに生まれたせいで、初等教育も受けられず、同じく無学な16歳の少年と14歳で結婚し、以降、農場の仕事と妊娠・子育てで忙しく、読み書きができないまま70歳になってしまいました。

 

工業学校出の息子の話では、わたしは読み書き用のちゃんとした歯車があるけれど、それぞれのサイズが違っていて嚙み合わないんだそうです。

 

ですから、削るなりして、サイズを合わせていただけませんか?

わたしは読み書きができるようにならなくちゃいけないんです。

 

3人の先生を下宿代無償で家具付き賄い付きで住まわせる代わりに読み書きを習ってきたけれど、かれらはまったくわたしの役に立ってくれないのです。

 

エリクソン先生、わたしに読み書きを教えてくれませんか?

 

モーは、20代の頃から50年間、現役の教師に読み書きをを習うばかりか、彼女の子どもたちからも指導を受けていましたが、まったく身につきませんでした。

 

その教師のひとりは、エリクソンにお手上げ状態のように彼女のことを話しました。

 

彼女は記憶力も判断力も優れ、物知りだけど、あなたが何を言おうとも、彼女はただじっと座って、熱心な目をおどおどさせ、まるであなたが意味の通らないことを彼女に話しているかのように、必死にあなたの話に意味をこじつけようとするだけです」

 

エリクソンはモーを患者として受け入れ、「3週間以内に読み書きができるようになりますよ」と約束し、

 

「今、知らないことや、ずっと前から知っていることはいっさい教えない」ということを何度も強調しました。

 

エリクソンが最初にモーに指導したのは、鉛筆を握り、字の書けない赤ちゃんでもできる落書きのようなしるしをつけることでした。

 

ぐにゃっと曲がったしるし、まっすぐなしるし、上に向かうしるし、下に向かうしるし、横に向かうしるしなどを自由に描かせ、

 

「あなたが今つけたしるしは全部、大きさを変えることができるし、どういう順序で並べることも、1つのしるしを別のしるしの上に重ねることもできれば、隣に並べることもできます。でも、これを書きものだと思う必要はありません」といいました。

 

エリクソンはモーが紙に書いたしるしをコピーし、農場で納屋を作るときの「おおざっぱな設計図」を彼女にイメージさせ、まっすぐなしるしの寸法を伝え、それを組み立てさせて「A」という形を作らせました。

 

その後、辞書で同じ形を見つけさせ、「辞書は読むものではなく言葉を調べるもので、絵本の絵のように眺めるものだ」と指導しました。

 

こうして、モーの描いたしるしからすべてのアルファベットが作られ、そのすべてが辞書に載っているのを目にすると、彼女は縦や横や斜めの線や曲線を使えば、どんな単語も「作る」ことができるのだと気づきました。

 

彼女は本の中の記号が彼女が作ったものと似ているのを見つけ、記号の正当性を認めたのです。

 

そこで、エリクソンは、辞書から選んだ単語をそれとは知らせずに彼女に作らせ、「単語作り」をさせ、それを発音して「名づけ」させ、並んだ単語<モー、そろそろテーブルに食事を並べてよ>を読みあげさせたとき、モーは驚きの声をあげました。

 

「あら!父さんがいつもいっていることだわ。そんなの(読み書きは)、話すのと変わらない、って」

 

モーはエリクソンから3週間のレッスンを受けた後、空いた時間は辞書と「リーダーズ・ダイジェスト」を読んで過ごすようになりました。

やがて、読書が大好きになり、子どもや孫たちに頻繫に手紙を書くようになりました。

そして、その10年後、この世を去りました。

 

「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」より

 

50年間も時間とお金とエネルギーをつぎ込んで読み書きを習得できないのは、医者にしか治せない病気だとモーは感じたのでしょう。

だから、エリクソンの診察室を訪れたのだと思います。

 

でも、文盲を治しに病院を訪れたモーの直感は、あながち見当外れではありませんでした。

エリクソンに会った日から3週間で、文盲は解消したのですから。

 

モーが読み書きができなかった原因は、理解力がないとか、記憶力や集中力に欠けるとかではなく、教えた大人たちが脳の性質を知らなかったことにあったのです。

 

実はエリクソンも発達障害の傾向があり、アルファベットを覚えるとき苦労したのです。

そのとき、彼の脳内で起きていたのは混乱でした。

 

エリクソンは数字の3とEとWの区別がつかなくて、教師の指導に混乱を覚えたのです。

 

しかし、その教師はエリクソンを見放さず、「数字の3を横にひっくり返した形にWは似ているでしょう?」とヒントを言ったとき、彼はやっと3とEとWは別物なのだと気づき、その瞬間からアルファベットを数字として見なくなり、習得に至ったのでした。

 

「先に入っていた(数字の)記憶」が新しい情報(アルファベット)の記憶の邪魔をしたのです。

この混乱は、大人の脳では当たり前ですが、丸暗記ができる子どもの脳ではありえないことです。

 

子どもはアルファベットは考えて記憶するのではなく、そういうものだとして丸暗記します。

でも、大人の脳では、そこに必ず理解が入らないと、安易に脳の中に取り込めないのです。

 

モーに読み書きを教えようとした教師がエリクソンに「まるであなたが意味の通らないことを彼女に話しているかのように、必死にあなたの話に意味をこじつけようとするだけです」といったように、彼女が50年間続けた努力は、アルファベットという暗号に意味を持たせて解読しようする言語学者級の試みだったのです。

 

12室(潜在意識~集合意識のハウス)のやぎ座キローンと6室(貢献のハウス)の海王星の180度を持つエリクソンだからこそ、学習障害の苦しみの経験と直感を働かせ、モーにアルファベットは「しるし」を組合せた記号にすぎないこと、読み書きは話すことと変わらないコミュニケーションツールだということを理解させたのでした。

 

モーの目から見たら、解読不可能な記号にしか映らなかったアルファベットを意味のある言葉や文章に変えたのは、

 

「3週間以内に読み書きができるようになりますよ」と、

「今、知らないことや、ずっと前から知っていることはいっさい教えない」というエリクソンの言葉です。

 

学習障害を気にしているモーにとって、「今、知らないこと」を覚えるのはハードルが高く感じます。

そうかといって、既に知っていることを習って時間を無駄にしたくありません。

 

その2つをしないで3週間以内に読み書きができるようになるのならば、モーの心は希望に照らされ、何でもやってみようという気になったことでしょう。

 

だから、素直に鉛筆を握り、意味もわからず紙に自己流で「しるし」を書きまくり、「しるし」を組合せて形をつくり、辞書で調べてアルファベットと照合し、さらに単語を作って辞書で意味を知るという地道な作業をモーは続けられたのでしょう。

 

モーは教科書に習って覚えるのではなく、彼女の描いた「しるし」を使って文字を作り、それが辞書にあるかを確かめるという自発性が<レジリエンス(挫折から立ち上がる力)>を引き出したのです。

 

エリクソに出会えたこの女性は幸せです。

たった3週間でずっと叶えたい夢が具現化して、読書が大好きになり、手紙のやり取りが自分でできるようになったのですから。

 

実は、わたしの母方の祖母もこのモーのように読み書きができませんでした。

小学校すら通わせてもらえず、機織りばかりさせられたのです。

 

祖母は熱いご飯にバターをのせて、大根おろしと一緒に食べるのが大好きでした。

 

「バターが冷蔵庫にないとき思い切って自分で買いに行ったけど、チーズと間違えてしまって食べられなかった。

牛の絵が描いてあって黄色い箱だけど、バターじゃないの。

何が書いてあるか読めないと欲しいものも買えやしない。

だから、学校に行かしてもらって勉強できるって、ありがたいことなんだよ。

文字が読めるって、すごいことなんだよ」って小学1年生のとき、祖母に言われました。

 

既にひらがなぐらいは読み書きができていたわたしには、なんで祖母が字が読めないのかそのときは想像ができませんでした。

 

きっと、「女に学問は要らない」という風潮に流されてしまうと、一生学習する機会を失い、生きるのに精一杯になってしまう時代だったのでしょう。

 

今回のモーの事例が教えてくれることは、既に自分ができていることを認め、それを橋渡しに新しいことを理解するのが、大人の脳が知識を習得する近道だということです。

 

モーは、「なんだ、鉛筆を握るくらい、わたしだってできる!」

「なんだ、紙に『しるし』をつけるくらい、いろいろな『しるし』を描くくらいわたしだってできる!」

「『しるし』を組み合わせてアルファベットを作るくらい、単語を作って辞書と照合して確認することくらい、わたしだってできる!」

とやっているうちに、「なんだ、読み書きなんて、話すのと変わらない。このくらいわたしだってできる!」と思ったことでしょう。

 

既に知っていることの延長線上に未知の世界があり、それを知りたいと思った時点で理解へのルートは開かれているのです。

 

その先に行けるかどうかは、右脳(イメージ脳)と左脳(分析脳)の連携にかかっています。

 

知識や情報がないと左脳はお手上げ状態になり、「無理だ!できない!」と訴えますが、右脳は全体のイメージが掴めて、抽象的に捉えることができると「できる!」と太鼓判を押してくれます。

 

既に知っていることや情報が十分ある状態では、左脳が能率よく働いてくれますが、未知の領域ではイメージが湧かないと右脳は働いてくれません。

 

エリクソが納屋の「おおざっぱな設計図」をモーにイメージさせたのも、農場の仕事をしていた彼女にはイメージしやすいからでした。

 

何か新しいことの習得にチャレンジするときは、知識や情報の詰め込みで左脳ばかりを頼るのではなく、自分なりのイメージを覚えたいものにくっつけてしまうと入りやすいでしょう。

 

わたしは学生時代、細菌の名前と培地の成分を一夜漬けで覚えようとしたら、夢で細菌たちがお客様のレストランの厨房で働いている自分を見たことがありました。

 

それをヒントに、海水の中でも平気な腸炎ビブリオは辛党とか、真菌(カビ類)は甘党(ブドウ糖加えた培地)とか、ヘモフィルス・インフルエンザは、チョコレート好き(血液を焦がして作るチョコレート色の培地で培養する)とかのイメージを浮かべたら、すぐに頭に入りました。

 

語呂合わせなんかも、イメージを浮かべればすぐ思い出せるのは、右脳と左脳が連携して働いてくれるからです。

 

自身の右脳と左脳を信頼して使うことができれば、50年間できなかったことも3週間で解決するのです。

 

次回は「エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」の解説を予定しています。

 

わたしのサロン、リブラライブラリーではあなたの心のしくみをホロスコープで解説し、心の制限、葛藤が引き寄せる現実問題にセルフヘルプで立ち向かえるようサポートします。

 

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新メニュー(月の欲求・土星の制限の観念書き換えワーク、キローンの苦手意識を強味に変えるワーク)が加わりました。

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。