こんにちは、リブラです。

今回は「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の第8章の解説です。

 

*精神に異常のある女性

 

エリクソンの診察室に「2ブロック先の家の騒音にイライラする」と訴える女性が訪れました。

 

彼女の夫は、通りの向こうの人たちの声など聞こえるはずがないと反論したい様子でした。

 

けれどもその女性は、「たとえ囁き声でもわたしは聞こえる」と言い張りました。

 

彼女の話を聞き終えたエリクソンは真剣な口調で、

あなたは精神に異常があります。

外来患者としてではなく、わたしのところであれ、他の精神科医のところであれ、

精神病院に行くべきです」と言いました。

 

その女性は「わたしの頭がおかしいっていうことですか?家で夫と話し合ってから、

今後どうするか決めます」と言って、帰っていきました。

 

彼女と夫の話し合いで、夫は「こんな希望のない見方をする医者は他にいない。

ぜひとも他の精神科医の診察を受けるべきだ」といいました。

 

すると妻は「エリクソン先生はわたしにほんとうのことを言ってくれたわ。

わたしの精神に異常があるって言ったの。

 

あなた、いつもわたしに言っているじゃない。

2ブロックも向こうの人の声が聞こえるはずがないって。

 

わたし声のことを考えるのをやめようとしたけれど、どうしても無理で、イライラするようになったのよ。

 

だから、あの先生が言っていることは正しいわ」

 

数日後、彼女は精神に異常がある患者として病院でも治療を受けるために入院させてほしいと力説しました。

 

「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」より

 

自分が感じたままを相手に理解してもらうということは、近しい相手とならできそうに思いますが、案外難しいのです。

 

とくに一緒に暮らしている家族にはできそうな錯覚を起こしますが、これが大きな誤解や亀裂を生みます。

 

わたしが精神科に脳波検査の技師で勤務していた頃、とても明るく健康的で可愛らしい感じの女性が定期的に外来に訪れるのを見かけました。

 

そして、ある日、彼女は男性を伴って主治医に面会して、婚約を伝えたと幸せそうに話して帰っていきました。

 

(当時22歳の)わたしも同い年の事務員の女の子も、ラブラブな2人を見て「精神科に通院していることも理解をしてくれる優しい男性にめぐり合えてよかったよね」と、内輪で話していました。

 

ところが、彼女の主治医とカウンセラーは、手放しでは喜べないよと苦笑いをしていました。

その予感は的中し、次の週から彼女は外来に来なくなりました。

 

そして、1か月後、無表情のお人形さんのようになった彼女を抱え、その婚約者は途方に暮れた様子で診察室に入っていきました。

 

あの幸せそうな彼女に何が起こったのか?

 

事の発端は婚約者から、「キミはどこから見ても、精神科に通院するような人に見えない。どこもおかしいところもない。薬を飲む必要はないんじゃない?薬に依存しない方がいいよ」と言われたことした。

 

愛する彼からそう言われて、彼女は薬を飲むのをやめると、いろんなおしゃべりが頭の中で止まらなくなり、不安を訴えても彼は大丈夫だから、そんなの気にしなくていいというばかりで理解してくれない。

 

健常人から見える視野と精神に異常がある人から見える視野が違うことを、彼はまったく理解してくれなくて、苦しさのあまり彼女の心と身体はフリーズしてしまったのでした。

 

どんなに親密な人でも、自分が感じているように感じてもらうことも、それを相手に理解してもらうことも難しいのです。

それは精神の病気があってもなくても、程度の差こそあれ同じです

 

だから、自分が感じることは心や身体からのサインなんだとしっかり受け止めることはとても大切です。

 

2ブロック先の騒音に苦しんだ女性も、処方薬を中止して心身の調子を崩した女性も、自分の感覚よりもパートナーの考えを優先したことが原因でした。

 

自分の感じていることを無視して、他者の考えを一方的に自分の心や身体に採用すると、自身の顕在意識と潜在意識の関係にヒビを入れてしまいます。

 

自分の安定や幸せを守るための指令を下す役割の顕在意識が、自身の潜在意識の訴えを却下して他者の考えを鵜呑みにする指令を下したとしたら、もう、潜在意識は顕在意識の思う通りには働かなくなりますよね。

 

外の常識や外圧に負けて、自身が感じた真実に背を向けることをさそり座は嫌います。

 

エリクソンは、10室(天職のハウス)にさそり座のドラゴンヘッド(魂の目的)と水星(思考、知性)があります。

 

エリクソンは、この女性には精神異常があることをちゃんと伝えないとかえって苦しむことになるのを見抜いていました。

これは患者の言動や振る舞いを観察して、彼のさそり座水星の洞察力で掴んだ真実なのでしょう。

 

実際、この女性の苦しみは、2ブロック先の騒音よりも、自分に聞こえているものが夫には聞こえず、聞こえるはずがないといわれても聞こえしまう理由がわからないことでした。

 

だから、エリクソンに「それはあなたの精神の異常で、病院に入院すれば治療が可能」と指摘されたとき、彼女はその原因と治療法が明らかになり、安堵したのです。

 

エリクソンがこの女性に外来ではなく入院をといったのは、夫の常識の枠の中では彼女の心の病気は理解を超えていて、それは彼女の治療の妨げになることがわかっていたからです。

 

患者がショックを受ける真実を告げることは医師としても覚悟のいるところですが、エリクソンの魂が選んだ天職として10室のさそり座ドラゴンヘッドが導いているわけですから、真実の重みとパワーが彼女に届くことを信じたのでしょう。

 

いろいろな情報が錯綜して何を信じてよいのかわからなくなったら、自分が感じている感情や感覚は自分にとって真実のサインと受け止めましょう。

 

他の誰も理解してくれなくても、自分はつらい・苦しいと感じる、自分は悲しいと感じる、自分は楽しいと感じる・・・それらは自分の中では真実だから、少なくとも、潜在意識が表現したことを顕在意識が受けとめ共に感じたことになります。

 

心や身体の不調和は、顕在意識と潜在意識の不協和音から生じます。

せめて自分の潜在意識や身体の訴えが自身の顕在意識に伝われば、トラブルを発生してまで表現することはありません。

 

無視されてしまうから、潜在意識は大きなアクションに出てしまうのです。

 

今回の女性も、夫から離れて精神病院に入院して、自身の精神の病気を理解し、薬や意識変革で心身の健やかさを取り戻せれば、

幻覚や幻聴に邪魔されない日常生活が戻ってくるのでしょう。

 

精神病の診断を真摯に受け止め、自発的に入院を望んだこの女性ならば、きっと自分に適した健やかな日常を取り戻したことでしょう。

 

レジリエンス(挫折や失敗から蘇る力)は、顕在意識と潜在意識が一致した方向性を持ち、自発的に行動するとき起動します。

 

次回は「エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の解説を予定しています。

 

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最後まで読んでくださり、ありがとうございます。