こんにちは、リブラです。

今回は「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の第7章の解説です。

 

*自分の座る場所をじっと見た女性

 

エリクソンの診察室に、椅子に関する強迫観念に囚われた女性が訪れました。

 

彼女は部屋中の椅子をすべてチェックして、適切でない椅子に座らないようにしていましたが、これが彼女が抱える問題でした。

 

彼女はやたら自意識が強いだけでなく、のんびりくつろぐことで得られる自由を楽しむこともできませんでした。

 

エリクソンは催眠を使い、心配から次第に解放されていくよう、これから少しずつワークを進めるつもりであることを伝えました。

 

しかし、エリクソンは注意深く、催眠による健忘の重要性を強調しました。

 

エリクソンは、彼女に与えた暗示を憶えていてほしくなかったのです。

 

もっとのびのびするという課題から、彼女の注意をそらしておく必要がありました。

のびのびすることに対する自意識が、前進を妨げるからでした。

 

彼女は、セラピーがきちんと終わったのかどうか確認がもてない状態でエリクソンの診療所を去っていきました。

 

ある日、彼女はふと、自分が椅子をチェックしないで腰を下ろしていることに気づきました。

それと同時に、このところしばらく自分がそうしていたことにも気づきました。

 

最近は、友人と映画を観に行ったり、交響曲を聴きに行ったりもしました。

それは彼女にとって数年ぶりのことでした。

 

彼女はエリクソンに、「いつ椅子をチェックする必要がなくなったのか、まったく気がつかなかった」と伝えました。

 

彼女の理解では、いつの間にか、のんきにリラックスして椅子に座るようになっていたのでした。

 

「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」より

 

わたしたちは、能率的に時間を使い行動することを幼い頃より刷り込まれてきました。

 

だから、計画通りにタスクをこなし、人や社会に役立つことをしていると感じるとそれだけで自己肯定感が増したりします。

 

一方、食べること、眠ること、遊ぶことに多大な時間やエネルギーを割くと、何だか罪悪感のようなモヤモヤが浮上し、「こんなことにたくさん時間やエネルギーを費やしていいんだろうか?」と思ってしまうことさえあります。

 

わたしたちは社会的な生き物ですから、社会が価値ありを見なすものが常識になるのは仕方ないですが、プライベートな領域ぐらい社会的常識の縛りから解放されたいですよね。

 

誰しも自分自身の心の幸せと身体の健やかさの責任を担っています。

そうだとすれば、食べること、眠ること、遊ぶことを存分に楽しむことは重要なことです。

 

実際、人間以外の動物は、食べること、眠ること、遊ぶことが日課です。

 

そこに時間やエネルギーを割くことに罪悪感なんて感じていたら、人生を存分に楽しめません。

自然な生き物としての身体のバランスも損ないます。

 

むしろ、計画やタスクをこなすことに終始して1日が終わってしまうとか、食事をちゃんと味わってないとか、眠る時間を削って働いているとか、趣味や遊びの時間をいつも後回しにしてしまうとかの方が、問題です。

喜びから人生を生きたいならば。

 

今回登場した強迫観念に悩む女性は、おそらく、計画やタスクをこなすことを喜びにして、のんびりくつろぐことに罪悪感を抱く典型のような人なのでしょう。

 

彼女は椅子にこだわる症状に悩まされていましたが、それは「座る」=「休む、くつろぐ」という行為を妨害する現れのように映ります。

 

このような人にとっては、計画やタスクを実行する方が容易く、「休む、くつろぐ」という方が難問です。

 

ですから、今回エリクソンは、「心配事を手放していくような暗示やワーク」を与える一方、それらの暗示やワークをすべて忘れてしまような暗示までかけたのです。

 

もし、健忘の暗示をかけなければ、「心配事を手放していくような暗示やワーク」というタスクに過剰に集中し、力を注ぎ、ますます「休む、くつろぐ」を疎かにしてしまうからです。

 

さらに、計画やタスクを最優先に実行する習慣は、自発性を奪います。

「さあ、これから何をしようか?」と考える余地なく、既にやることが決まっているからです。

 

でも、「何を食べる?」「いつ寝る?」「何して遊ぶ?」は、毎回、自分で考えることになります。

これを面倒くさいと思ったら、危険信号です!

 

今回の女性は、タスク(実行すべき課題)に没頭する傾向があったため、すっかり「休む、くつろぐ」が苦手になり、映画や演奏会に出かけることもなくなっていました。

 

すっかり自分で自由に考え、選ぶことから遠ざかっていたのです。

 

ですから、彼女の潜在意識は執拗に座る椅子の吟味をさせたのです。

彼女に自分で好きな椅子を選び、くつろぐことを思い出させるために。

 

彼女にとって椅子にこだわる強迫観念は、精神科医を訪れるほど悩ましい症状でしたが、彼女の心と身体は「自分で好きなものを選ぶのも、くつろぐことも難しい状態」を知らせていたのです。

 

やりたくもない椅子チェックを彼女が潜在意識にさせられていたのは、やりたくもないことを強制させられるつらさや、自分で選ぶ喜びを忘れている虚しさを彼女に体験させるためだったのです。

 

自発性は、レジリエンス(逆境や絶望から心を回復させる力)の必須条件です。

 

エリクソンは、この女性に「心配事を手放すこと」のみならず、自発性を回復してこそ、この強迫神経症の完治につながることがわかっていたので、暗示やワークをしたことさえ忘れる催眠をかけたのです。

 

いつの間にか椅子チェックをしなくなり、いつの間にか友人と映画や演奏会に出かけている自分に気づいたとき、きっと彼女は「これが元々のわたし。それをちょっと忘れていただけだったのね」と自然に思い、自分の力で回復したと実感したことでしょう。

 

そして、「計画やタスクの達成を最優先する社会の常識の方が、不自然なのだ」と気づいたことでしょう。

 

次回は「悪魔を出し抜け!」の解説を予定しています。

 

わたしのサロン、リブラライブラリーではあなたの心のしくみをホロスコープで解説し、心の制限、葛藤が引き寄せる現実問題にセルフヘルプで立ち向かえるようサポートします。

 

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新メニュー(月の欲求・土星の制限の観念書き換えワーク、キローンの苦手意識を強味に変えるワーク)が加わりました。

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。