こんにちは、リブラです。
今回は「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の第6章の解説です。
*エレベーターを怖がった老紳士
エリクソンの診察室に「エレベーター恐怖症を何とかしてほしい」という老紳士が訪れました。
彼は何年も前からビルの最上階で働いていましたが、いつも階段を使っていました。
しかし、高齢になるとそれも大変なので、「エレベーター恐怖症」を治したいと思うようになりました。
彼の話を聞いていたエリクソンは、彼がお堅い妻をもったお堅い男性であろうと感じました。
そこでエリクソンは自信たっぷりに「たぶん、別の方向で、あなたを怖がらせることになるでしょう」と答えました。
それを聞いて老紳士は「エレベーターに対する恐怖以上の恐怖など自分にはありえない」と答えました。
当時(1940年代)は、エレベーターにオペレーターが必ず乗っていました。
エリクソンは、老紳士が働くビルのエレベーターガールのひとりに話を持ち掛け、協力に合意をもらいました。
エレベーターガールはエリクソンのアイディアを聞いて「おもしろいことになりそう!」といいました。
翌日エリクソンは老紳士に付き添って、彼のオフィスがあるビルにやってきました。
老紳士は止まったエレベーターに乗ることに恐怖はないのですが、エレベーターの動きに対して恐怖心を持っていました。
老紳士が覚悟を決めてエレベーターに乗り込み、エリクソンが「上に行きましょう」とエレベーターガールに指示を出すと、彼女は1階分上昇させた後、なぜか階と階の間でストップさせる操作をしました。
老紳士が「どうしたんだ?」と大声を上げ始めたので、エリクソンは「エレベーターガールはあなたにキスしたいんです」といいました。
老紳士はギョッとして「馬鹿な、わたしには妻がいる!」というと、エレベーターガールは「そんなこと、どうでもいいわ」といって彼に近づいてきました。
老紳士は後ずさりしながら「エレベーターを動かしなさい!」といいました。
というわけで、彼女は4階まで上昇させましたが、また階と階の間でストップさせる操作をしました。
そして「ああ、もうキスしたくてたまらないわ」といいました。
老紳士は必死の形相で「ちゃんと仕事を続けなさい!」とエレベーターガールに叫びました。
それを聞いて彼女は「じゃあ、下まで降りて最初からやり直しましょうよ」といい、エレベーターを降ろし始めました。
「下じゃない、上に行くんだ!」と老紳士が命令すると、
エレベーターガールは「お仕事が終わったら、またわたしのエレベーターで下に降りると約束してくださる?」といいました。
老紳士は「わたしにキスしないと約束してくれるなら、なんだって約束する」といいました。
それ以降、老紳士は全く恐怖を感じないでエレベーターに乗ることができるようになりました。
ー「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」ーより
笑い話のようですが、これは実話であり、この老紳士はエレベーター付きのビルを毎日せっせと階段で昇り降りの重労働をしていたのです。
「エレベーターに対する恐怖以上の恐怖など自分にはありえない」
という思い込みのせいで。
そして、エレベーター以上に恐いものが現れたとき(それは老紳士にキスを迫っておもしろがるエレベーターガールですけれど)、彼の意識はエレベーターガールとのやり取りに向けられたので、エレベーターの動きは気にならなくなっていたのです!
これはエリクソンがよく使う「注意のそらし」です。
わたしたちはつい、苦痛や怖れをもたらすものを未然に避けようとします。
避けられる場合はそれもいいでしょう。
避けられない場合は、苦痛や怖れに直面する予想に苦しめられ、まだ起きていないうちから恐怖に怯えることになります。
これはひどいストレスになりますが、全部脳内で起こる自作自演の演出なのです。
脳内劇場の演出で怯えているわけですから、「その演出を変えればいい。怖がるものを別に作ってしまうまでさ」と極めて合理的にエリクソンは考えたに違いありません。
老紳士の話し方や態度や問診のとき尋ねた家族関係などから、エリクソンはすぐさま彼が「お堅い妻をもったお堅い男性」と気づき、エレベーターガールにキスを迫らせる演出を考えたのでしょう。
エリクソンは5室(至福と創造性のハウス)にいたずら好きなふたご座冥王星(潜在能力)を持っているので、こういうトリッキーな作戦を練って患者を嵌めるのを大いに楽しんでいたのだと思います。
傍で見ていると、当事者にとっては深刻な問題でも、案外単純な方法で意識は切り替わり、長年苦しんできた戦いが一瞬で終わってしまうように見えます。
この「注意のそらし」は、子どもを大人がはぐらかすとき、よく使う手でもあります。
わたしがよく覚えているのは、4歳のとき、割れた牛乳瓶の破片を回収していて人差し指をザックリ切り、病院で縫う処置を受けたときのことです。
傷口を縫う前に痛み止めの注射を人差し指に打つとき、付き添っていた母の方が貧血を起こして倒れ込んだので看護師さんがそちらに着くことになり、
注射を持った医師が「これは痛いのを止める薬なんだけど、刺すときだけちょっとチクッとするよ。いまから10数える間だけ、手を動かさないって約束してね」といい、一緒に10まで数えました。
その医師はわたしに数字を数えさせることで「注意のそらし」をして、注射の恐怖心を失くそうとしたのだと思います。
注射で痛みが消えて余裕が出ると、わたしは自分の指が縫われていくのをじっと見ていました。
医師は縫うことに集中していたのか無言になってしまったので、間が持てなくなったわたしは何か喋らなくてはと焦りました。
「『赤ずきん』のおばあちゃんが狼のお腹に石を詰めた後縫っていたけど、ほんとうに指も縫えるのね?」とわたしが話すと、
その医師は、「『赤ずきん』は知っているけれど、そんなおばあさんが出てくるのは知らなかった。狼はどうなっちゃうの?」と聞かれて、話をしているうちに人差し指の治療は済み、包帯でグルグル巻きになっていました。
わたしにとっては、「赤ずきん」の話が「注意のそらし」になり、自分の指が縫われている恐怖を一瞬忘れることができました。
このように「注意のそらし」は子どもでも無意識にできてしまうくらい簡単です。
ですから、苦痛や怖れをもたらすものを未然に避けることができない場合、恐がる方にエネルギーを注ぐより、意識がその怖れに向かわないような何かを演出して、脳内劇場の「注意のそらし」をする方が得策かもしれません。
そういえば、やぎ座神話の主人公パーンが讃えられて星座に上がったのは、ティホーン(怪獣)から逃げるために神々が魚に化けていたところ、パーンだけが上半身山羊で下半身だけ魚に化け損ない、それを見つけた大神ゼウスが逃げるのも忘れて笑い転げたからだといわれています。
笑いで「注意のそらし」になり、ティホーン(怪獣)の恐怖を忘れられたからパーンは讃えられたのです。
エリクソンは、やぎ座アセンダントで、12室(潜在意識~集合意識のハウス)に4天体もやぎ座集結を持っています。
だから、ユーモアで「注意のそらし」をして逆境を乗り越え、レジリエンスを発動させる達人なのでしょう。
次回は「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の解説を予定しています。
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