芥川龍之介「秋」を聴いた | おひろのブログ・libe

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思い付くままに…

芥川龍之介がそれまで主に時代.歴史.をテーマに執筆したいたのを、新たに現代小説に着手し始めた初期の頃の短編だそうだ。

聡明で文学を愛し自らも執筆の世界を志していた女性には、思いを寄せ合っていると思われる同じ道を目ざす男性がいた。

その男性は幼馴染みで従兄でもある。

彼を妹も愛している事を知ってしまい、妹を深く愛する彼女は、早々に身を引いて大学卒業後.数日で他の男と結婚してしまう(妹は姉が自分の為の事と知って謝罪を含む手紙を渡す)

東京から関西に居を移して新しい男性との生活を始める。

共に生活する始まりの頃はさほど不幸も感じず、時の経過の中で、幸せと少しは感じた様な生活も、植物的で粘着質(私の感覚)で吝嗇な夫の本性を知り気持ちは変化していく。

生活しながらでも執筆を試みようともするも夫はそれに理解は無く馬鹿にしている様子だ。 

時折、愛した彼が作家活動で頭角を表し始めたのを紙面などで知る。

そのなかで彼女は、母からの手紙で妹が自分の想い人だった彼と結婚することを知る。

挙式は出ずに半年程後に夫の仕事に伴い上京した折に新婚の妹夫婦宅を訪ねるが妹は女中と外出中で、懐かしい彼が出て来た。

彼の書斎で会話しつつ時が過ぎ、妹が帰宅する。

大きな不穏は無いが妹の心に小さな不安がよぎったようだ。

夕食を共にし、自宅の鶏の産んだ卵の料理の時に、彼は「人間は鶏から卵を略奪して食べている」と言い、人は略奪を繰り返して生きる、という意味の言葉もあって「略奪の」の言葉を比喩に使ったかの様にも思え、或いは彼は彼女が自分を諦めて妹に譲った事を知っているのかも知れない、と想像してしまう。

男性が月が美しいと庭に誘った時、僅かな時間を彼と過ごし、1泊した翌日、男性は急ぎ戻るから待つ様に言いおき所用で外出する。

妹と二人になっている時間に姉妹二人の会話は短いながら緊迫する。

会話中に情緒不安定になっている妹が泣き出したり…

結局、彼女は彼を待たずに幌車(人力車みたいなのに幌が覆っているのか??)に乗り帰路の途中で、その車のセルロイドの貼られた窓から、向こうから来る彼をみつけるが、彼は気付かない。

車を停めて彼と言葉を交わすか否か躊躇する間に彼は通り過ぎてしまった。… … …

彼女は何気に「秋ね」と心で思い、話は終わる。


切なく、美しい、哀しい恋愛小説だ。

聴きながら、切ない思いで涙が流れる。

登場人物は僅かに四人。

全員が幸せを手に出来ていない感じがする。