私に与えられた尿路変更術の選択肢、回腸導管とインデイアナパウチ。回腸導管の情報はそこそこ集まっているので特にインディアナパウチについて、術式はわかったのだけど、術後の管理方法、合併症、QOLなどの情報が今ひとつ分かりかねたので、もう一度論文を検索してみることにしました。


Ileal conduit vs Indiana pouch, Complications、why chose Indiana pouchなどで検索。日本の論文も、回腸導管、インディアナパウチ、合併症、などをキーワードに論文20くらい、患者会BCANの教育資料、患者会のフォーラム(米国膀胱癌患者団体BCANの掲示板が豊富でよかったです https://www.inspire.com/groups/bladder-cancer-advocacy-network/、他にアメリカンキャンサーソサイエティー、Redditの掲示板など)数件を参考にしました。


新膀胱は私の選択肢になかったので、たまたま読んだ論文にあった場合のみの情報で、主に回腸導管とインディアナパウチのものなので要注意ですが、ざっと羅列してみます。

  • インディアナパウチの論文は、症例数が多いためか方法が確立されたインディアナ大学の論文が圧倒的に多い。(バイアスに注意しつつ読みました)
  • レトロスペクティブな調査のレポートでは、回腸導管の患者は他の方法の患者に比べて平均年齢が高いことが複数述べられていたのでデータの解釈に注意。

  • 基本的に、自分で選んだのであれば、回腸導管、新膀胱、インディアナパウチを選ぶことによる患者の満足度は同じ。(選択に満足している。)論文だけではなくて、患者会のフォーラムでも言われていました。
  • 回腸導管、新膀胱、インディアナパウチを選ぶことによる予後は変わらない。(死亡例があったとしたら、大半ががんの再発によるもので、膀胱全摘と尿路変更術の手術自体によるものではない。)
  • 患者へのインタビューをもとにした論文では、回腸導管の術後回復は早く(6週間くらい)、他の尿路変更術だと6ヶ月とかかかるので、長期の回復期間が必要ということを覚悟すべき、とのこと。(インタビューした患者数が13名でやや数が少ないのですが、これはサバイバー・トゥー・サバイバープログラムのインディアナパウチの女性も言っておりました。)
  • インディアナパウチは術後初期の軽度(ClavienカテゴリーIとII)の合併症が回腸導管、新膀胱に比べ高い。Cla vienカテゴリーIIIとIVは有意差なし。
  • 別の論文では、138例のインディアナパウチ手術を受けた患者の後追い調査で、術後比較的早期の再入院は18.2%で、術後>18ヶ月での再入院は13.1%。(7−8%の患者で再手術。)何らかの合併症(ClavienカテゴリーIIーIV)は39%の患者が経験。

  • 回腸導管、インディアナパウチを選ぶことによる合併症は、選択肢によりやや異なるが、例として挙げられていたのは、

  1. 回腸道管、インディアナパウチ:尿管の腸管(回腸または大腸)への癒着、尿路感染症(論文ではないけど腫瘍内科医は、初期はインディアナパウチが多いけど、しばらく経つと回腸導管の方が多いと言っていました。)、ストーマの狭窄(回腸導管の方が多い)、ストーマの出血
  2. 回腸導管:ストーマ周りの皮膚トラブル、ストーマ陥没による漏れ、ストーマ周りのヘルニア
  3. インディアナパウチ:回盲弁が機能せず漏れる、結石、ストーマの狭窄。再手術率が67%と高い(主に尿管狭窄)が再手術後は長期(>10年)安定。Vit B12欠乏。塩化物イオンの大腸(パウチ)からの再吸収による代謝性アシドーシス。遠位回腸を取り除くことによる回腸での胆汁の吸収不全で大腸が(回腸で吸収されなかった)胆汁で炎症を起こし、下痢になったり、胆汁排泄を抑えるためにコレスチラミンを投与する必要が出てくることもある。(結石など水分をちゃんと多めに摂取することを心がけることにより、回避できるものもあるようです。)

  • QOLの観点でみてみると、
  1. 回腸道管は性生活満足度が男性では新膀胱・インディアナパウチに比べると低め、女性はインディアナパウチと新膀胱しかデータなしだけど、新膀胱の方が満足度高め。(別の患者インタビュー論文では、回腸導管の女性が性生活(Intimacy)に支障があったともあったので、回腸道管では影響があったと言うサバイバーが多い傾向にあるのかもしれません。)
  2. インディアナパウチ(女性)では、腸機能への不満が新膀胱に比べて高い(回腸導管データなし)。上行結腸を使う術式に起因するものとの考察がありますが、男性では、3つの尿路変更術について有意差がないので、詳しい理由は分かりません。
  3. Physical wellbeing (身体的な生活の満足度?)は、新膀胱が、回腸導管、インディアナパウチに比べて良い。(年齢が若いことも部分的に関係しているかも、とのこと)
  4. 回腸導管、新膀胱、インディアナパウチを選ぶことによる排尿自体への満足度は新膀胱がやや低め(漏れによる)が他の二つは似ている
  5. FACT-VCIという身体的、社会・家族的、感情的、機能的なWellbeing(生活の満足度)をみる指標は、新膀胱が高く、回腸導管とインディアナパウチはやや低めでともに同じくらいの値だけど、どの尿路変更術でも手術前よりは高くなっている。

  • ピアレビュー論文ではなく、学会のポスターの要旨から(ピアレビュー論文ではないので要注意):回腸導管とインディアナパウチ、40症例ずつ比較した結果、Renal Back pressure(尿の逆流による腎盂での圧上昇)の悪化は、読んだ論文の中では、回腸道管の方が多い(35% vs 20% in IP)。もともとあった腎盂の拡張の改善はインディアナパウチ、回腸導管、ともにみられた例もあった。(どちらかというと個人差が大きい、というのが私の個人的な印象。)

  • インディアナパウチは、毎回カテーテルだし、毎日1−2回生理食塩水または水で灌流?(Irrigation)しないといけないので他の選択肢に比べて多いメンテナンスを自分でやる気を持ってないと、選択すべきではない。トイレに行くのを怠ると最悪破裂する。(破裂の報告は見つからなかったけど怖いですね・・・。)

個人差が大きすぎて、なかなか解釈が難しいのですが、インディアナパウチはやはり軽度合併症が多く、回復に時間がかかるようです。再入院や再手術をするかもしれないけど、それを乗り切ったら安定するみたいですし、患者会のフォーラムでも、格闘はしたけど、一通り、自分なりの生活のリズムが掴めるようになったら日常生活にはほぼ差し支えがないとおっしゃっている方が、(インディアナパウだけではなく全ての尿路変更術で)ほとんどでした。やはり自分が生活に何を求めているのか、で決めることが大切のようです。



参考にした論文の一部:

https://www.goldjournal.net/article/S0090-4295(22)00336-3/fulltext




https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/nau.25344



https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8195837/