東京45年【41-1】京都 | 東京45年

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好きな事、好きな人

東京45年【41-1】京都

 

 

 

1985年 秋の頃、25才、京都

 

 

タクシーで玲と二人でホテルに帰った。

 

 

俺は、直ぐにシャワーを浴びた。

 

 

浴びながら酔っ払った頭で竹中さんの事を思い出していた。

 

 

つい、ライバルだと口走った事を思い出していた。

 

 

玲はどう思っただろうと考えていた。

 

 

すると玲が入ってきた。

 

 

『ホントにしょうちゃんの事、ライバルなの?』と聞いてきた。

 

 

その言葉はどうやら玲の恋心に敏感に響いたらしい。

 

 

 

 

『聞きたいの?』 

 

 

『聞きたいわ』 

 

 

『どうして?』 

 

 

『どうしてもよ』 

 

 

『ベッドで話すから、今はちょっと待って』と言って俺は先に風呂を出た。

 

 

先に風呂を出ると、服も着ずに素っ裸でベッドに横になり、俺はどう話すか考えていた。

 

 

どうもこうも無い。ただ、玲を不安にさせない事だけを考えていた。

 

 

だが、どう話すか纏まらない内に玲はベッドに来た。

 

 

こうなれば行き当たりばったりしかないと思った。

 

 

『で、どうなの?』

 

 

『直ぐにそれかよ』

 

 

『早く教えて』と玲はニヤニヤしながら俺を見ていた。

 

 

『そうだよ。ライバルだよ』

 

 

『どんなライバルなの?』と玲は俺を追い立てた。

 

 

『どんなって、男としてライバルって事だよ』

 

 

『違うわ。そんな事じゃないと思うの』

 

 

『どんな風に思うのさ?』

 

 

『それを秀の口から聞きたいの。早く言ってよ』と玲はさらに俺の逃げ道を塞ぐ。

 

 

『きっと嫌だろうから。だから。。。』

 

 

『嫌になんかならないわ。だから言って』

 

 

『じゃあ、言うよ。俺は竹中さんに嫉妬してる。もう竹中さんはいないけど嫉妬してる。玲と付き合って、玲を悩ませて。。。子供っぽいよな。。。カッコ悪いよな。。。』

 

 

『やっぱりね』と玲は嬉しそうに笑った。

 

 

またしても、俺は玲も女も分からなくなった。

 

 

『怒らないの?』

 

 

『どうして怒るのよ?嬉しい事だもん』

 

 

『意味が分からないよ』

 

 

『こう言うと冷たく聞こえるかも知れないけど、しょうちゃんは終わった人なの。

 

確かに私に残した物は大きかったかも知れないけど、秀が全てなの。

 

その秀が付き合い始めた途端に、銀座で会った夜以来、あまり、しょうちゃんの事を話さなくなったでしょう?

 

それは、私に興味が無いか、反対に気にし過ぎてるんだと思ってたの。

 

でも今日秀は愛してると言ってくれた。

 

だから私に思い出させない様に気を遣いながら、避けて通ってるって分かったの。

 

気にしてくれているよりも興味が無い事の方が私はショックでしょう?

 

だから、大切に思ってくれてるって分かったから嬉しいの』と玲は言った。

 

 

確かに理屈は通っていた。

 

そう言って玲は抱き付いてきた。

 

 

 

『ねえ、私の何処が好き?』

 

 

『訳が分からないところかな?』

 

 

『誤魔化さないで、ちゃんと答えてよ』

 

 

『えーっと』

 

 

『考えなきゃ分からないの?』

 

 

『それは答えられるけど、さっき嫉妬の意味が分からないんだよ』

 

 

『とにかく、さっきのは秀が好きって事よ。だから答えて。どこが好き?』

 

 

『綺麗なところと、スタイルが良いところ』

 

 

『あら、外見なの?』

 

 

『気が弱くて、寂しがり屋で、甘えん坊で、なのに、それを見せない様に頑張っているところが可愛いかな?』

 

 

『それはどうしてくれるの?』

 

 

『抱きしめたくなる』

 

 

『嬉しい。で、好きなところは、まだ答えてないわよ』

 

 

『質問攻めだな!強くなれそうな気がするし、安心出来る。

 

側にいて、笑ってくれるだけで良い。

 

笑顔が一等好き。

 

外見じゃなくて、ホントに見とれるんだよ。

 

玲の笑顔があると、何でも頑張れる気がするんだよ』

 

 

 

『やっぱり必然だわ』

 

 

『何だよ。それ?』

 

 

『あら、秀だって唐突に言うでしょ!いろんな事を』

 

 

『ああ、多分な。。。』

 

 

『だから、こうやって一緒に居られるのは必然だし、秀が私を好きになってくれたのも、私が秀を好きになった事も必然なのよ。

 

いい、秀、よく考えてみて。

 

私は、しょうちゃんの彼女としてあなたと五反田の喫茶店で初めてあったわ。

 

そしてあなたは可愛い彼女を連れていた。

 

私はしょうちゃんと別れて、しょうちゃんは死んだ。

 

それから私はある人と付き合って恋愛は懲り懲りだと思っていた。

 

そしてあなたは茂子さんと別れた。

 

それからあなたは何人かと付き合ったけどダメだった。

 

そして私達は4年後に道端で再会した。

 

そしてお互いに惹かれ合った。

 

それが2ヶ月前よ。

 

それが偶然といえる?

 

その二人に起きたどれかが欠けていても私達はこうならなかったと思わない?』

 

 

『確かにそうだな』

 

 

『奇跡とも言うわ。でも奇跡は偶然に起きるものじゃなくて、必然で起きるものよ』

 

 

『ちょっと待って。奇跡は奇跡だよ。偶然でも必然でも無いよ』

 

 

『でも、秀と私は偶然に再会したんじゃないわ。偶然に惹かれ合ったの?』

 

 

『宗教論か哲学論めいてきたな。だから、必然性を備えた確率だよ』

 

 

『学問じゃなくて、最近の二人の事よ。確率じゃあ、詰まらないわ。少なくとも私と秀は必然だと思いたいわ』

 

 

『学問を除けば、俺たち二人の事は、必然に賛成だよ』

 

 

『ねえ。私みたいなオバサンでも良いの?』

 

 

『前にも話さなかったっけ???オバサンだなんて、1ミリも思ってない。綺麗な女だと思っている』

 

 

『本当に?だって4つも上なのよ』

 

 

『竹中さんは4つ上だったから良かったの?』

 

 

『そんな事じゃないけど、流石に4つ下は友達に言われるのよ。遊びじゃないかってね』

 

 

『どっちが遊びなの?俺?それとも玲?』

 

 

『私は本気よ!』

 

 

『じゃあ、良いだろう。周りが何と言おうが俺の自慢の女だよ!!!大体、男が女より5、6才寿命が短いんだよ。俺が先に死んでも寂しくないの?』

 

 

『変な理屈だけど、受け入れるわ。もう気にしないわ』

 

 

『東京に帰ったら、その友達に会わせてよ。ちゃんと言ってやるよ』

 

 

『どう言うの?』

 

 

『俺の玲を不安がらせるなってね』

 

 

『嬉しいわ。それにしても京都に来て良かったわ。いろんな人に会えて、秀が近くになった気がするわ。

それに、もう近くに居るどころじゃないわよ』と言って玲は笑った。