小田急線の線路沿いに位置する町、狛江。
今夜の俺の標的(ターゲット)は、地味な駅前からは想像もつかない場所にある。かつて豪華客船のクルーズ旅行で相まみえ、奇妙な縁で結ばれた女が経営するスナック――「りんご」だ。
夜の底に沈んだそのエリアは、大半の店のシャッターが固く閉ざされ、まるで死に絶えたゴーストタウンの様相を呈していた。張り詰めた緊張感の中、俺は目的のドアに手をかけ、一気に引き絞る。
――ほう、予想は裏切られた。
狭隘な店内の空気は熱く、ほぼすべての席が人間で埋め尽くされていた。この不毛の地において、ここだけが異常な熱量を放つ人気店というわけか。
だが、俺の警戒心はすぐに融解した。
そこに集う常連どもは、外見に似合わず話のわかる奴らだった。酒を酌み交わすうちに、俺はその縄張りに深く溶け込んでいく。
宴の極めつけは、カラオケという名のゲームだった。
狙い澄ました俺の歌声が、完璧にその場の空気をハックする。仕留めた獲物の証として、次回以降の「カラオケチケット」という戦利品さえも手に入れた。
強烈に記憶に刻まれる、濃密な夜だ。
ママが不敵な笑みとともにグラスに注いだ、あの漆黒の島が育んだ黒糖焼酎。
その喉を焼くような絶品の味わいが、今も俺の五臓六腑を熱く昂らせている。

