記憶が引き戻されるアカテガニだろうか。 篠島の森の中で、不意に姿を見つけた。 赤い脚。 湿った空気。 落ち葉の隙間を、静かに動いていく。 その瞬間、記憶が引き戻される。 昔、南伊豆で見た光景。 満月の夜だった。 何千匹ものカニが、一斉に現れる。 道路も、森も、赤く埋まっていた。 なぜあれほど鮮明に覚えているのか。 子供の頃に見た景色というのは、時々こうして突然戻ってくる。 目の前の小さな一匹。 だが、その存在だけで、時間が繋がる。 ——懐かしいな。 そう思った時、 篠島の風景が少しだけ特別なものに変わっていた