みなさん、こんにちは。Lexen(レキセン)です。
私のブログを訪ねてくださってありがとうございます。
今回は趣向を変えて、「教員のためのブックガイド/シネマガイド」と題して、忙しい先生方に代わって、私が読んだ本や見た映画の中から、教員の役に立ちそうな作品を紹介します。
目的はあくまで「授業などに活かす」ことですから、ネタバレもあります。ネタバレを好まない方は、小説の読後、映画の鑑賞後にこの記事をお読みください。
①作品の概要
主人公は水道局員。料金を滞納している市民の水道を停止する仕事をしています。小説はその主人公の葛藤を描いています。文庫本にして61ページという短編小説です。
著者の河林満(かわばやしみつる 1950〜2008)は執筆当時、東京都立川市で実際に公務員をしており、水道を停止する業務も経験しています。
小説は1990年に文藝春秋社から出版され、その年の『文學界』新人賞を選考委員の「満場一致」(宮本輝)で受賞、芥川賞の候補にもなりました。
また、同年NHK名古屋放送局で制作されたラジオドラマがNHK-FMで放送され、ギャラクシー賞優秀賞を受賞しています。
著者が亡くなって15年後の2023年に映画化、6月に公開されました。
小説が発表されたバブル経済の時代から映画化までに30年以上が経過しています。しかし、著者が描いた都市の貧困という題材は、古くなるどころか、かえって現代を鋭くえぐっていると感じます。憲法に定められた「生存権」の中身を問う作品です。
作品発表の数年後、1994年に歴史に残る大渇水がありました(1994年渇水/平成6年渇水)。この本や映画に接して、ダムが干上がったり、学校や公営のプールが休止になったり、断水が行われたりしたことを思い出しました。
②あらすじ
主人公岩切は市の水道局に勤め、日々料金滞納者の水道を停止する業務に従事しています。一方、主人公の妻は子をつれて実家に戻ったまま帰らず、家庭は崩壊しかかっています。
猛暑が続き、雨が極端に少ない水不足の夏のある日、岩切は両親が家に帰らず、幼い二人の姉妹が残された家の水道を、深く葛藤しながらも停止します。
物語の結末は小説と映画で異なります。
◯小説の結末
その後、幼い姉妹は鉄道自殺を図り、妹は即死、姉は重体になります。
◯映画の結末
主人公は姉妹を連れて公園に行き、渇水のために止められていた公園の水栓を無許可で開き、大規模に散水します。この行動のために主人公は依願退職に追い込まれますが、これがきっかけとなって姉妹は保護されます。また、主人公の私生活も改善の兆しが見えるというところで映画は終わります。
※映画では、作品に希望を持たせたいと考えた監督が、原作者の遺族の許可を得て結末を改変しています(映画パンフレットより)。
③使えそうな教科
公民 現代社会 政治経済
倫理 道徳 国語 小論文
④授業での活用法・アイディア
生徒・学生がひとこと言いたくなるような題材です。以下のような問いについて、グループや個人で考えてみてはいかがでしょうか。
- 主人公は姉妹の死に責任があるか。また、その理由。
- 姉妹の死に責任があるのは誰か。複数いると考えられるが、それぞれについて理由も考える。
- あなたが主人公なら水道を止めたか、止めなかったか。また、その理由。
※小説では、姉妹の親は水道料金を3年分滞納している。
- 姉妹の自死という悲劇は避けられなかったのか。またその理由。
- 小説と映画、どちらの結末が良いと思うか。またその理由。
- 主人公はどのような制度を使えば姉妹を助けることができたか。調べ学習をし、グループごとにまとめる。
- 小説には「水と空気と太陽はただにすべきだ」という言葉が何度か出てきます。水道は有料にすべきか無料にすべきか。またその理由。
⑤作品の情報
書籍:
河林満『渇水』(1990年 文藝春秋社)
生前出版された唯一の単行本。表題作ほか4編を収録。文學界新人賞受賞 芥川賞候補
※2024年2月現在、入手困難
河林満『渇水』(2023年 角川文庫)
映画化に際して文庫化されたもの。表題作ほか3編を収録。
※『渇水』は 鵜飼哲夫 編『芥川賞候補傑作選 平成編1 1989-1995』(2020年 春陽堂書店)の巻頭にも収められている。
映画:
『渇水』 2023年6月公開
監督:髙橋正弥
出演:生田斗真 門脇麦 磯村勇斗 山﨑七海 柚穂 尾野真千子
宮藤官九郎 大鶴義丹 柴田理恵 田中要次
※磯村勇斗は、「相模原障害者施設殺傷事件」を題材にし、社会に鋭い問いを投げかけた同2023年公開の映画『月』にも出演し、事件の犯人という難しい役柄を演じている。
⑥参考資料
- 河林満『渇水』(2023年 角川文庫)
- 川村湊 編・解説『黒い水/穀雨 河林満作品集』(2021年インパクト出版会)
- 映画『渇水』劇場用プログラム(いわゆるパンフレット。2023年6月発行)
- NPO放送批評懇談会 ウェブサイト(2024年2月閲覧 ギャラクシー賞に関して)