レクシア特許法律事務所 機械電気部門 -3ページ目

レクシア特許法律事務所 機械電気部門

「ルールを知り、ルールに遵う」をコンセプトにした、訴訟や外国出願に耐え得る「ワールドワイド明細書Ⓡ」を提唱しています。


以前、使えない方法特許について書きましたが、今回は侵害が認められた方法特許に関してです。

一般的に方法特許は、被疑侵害者の工場に入らないと、イ号方法が特定できないケースが多いと思われますが、平成15(ワ)14687(平成16年5月28日 東京地裁)では、製造物からイ号方法を特定し、侵害を認めています。

クレームは、以下の通りです。

「a 金属板を打ち抜いて半導体素子固定用のタブ部と複数本のリードと
を有するリードフレームを形成する工程と,
 b 前記リードフレームは打ち抜き面に抜きダレを,反対面に抜きバリを有し,
 c 前記リードフレームの打ち抜き面と反対の面に半導体素子を固着する工程と,
 d 前記半導体素子の電極と前記リードフレームのリードとを金属細線にて電気的に接続する工程と,
 e 前記リードフレームをモールド金型に設置し,前記リードフレームの打ち抜き面側から樹脂を注入し,前記リードフレームの隙間から前記リードフレームの打ち抜け面とは反対の面へ樹脂を回り込ませるようにして樹脂モールドする工程と,
 f を具備することを特徴とする半導体装置の製造方法。 」

このクレームでは、構成要件bにおいて、製造物の一部であるリードフレームに抜きダレと抜きバリを有していることを特定しています。つまり、製造物に、この方法を用いた痕跡が残るようにクレームしています。

裁判所においても、以下のように判断しています。

「以上を前提に,上記被告各製品のタブから伸びるリード側面を各方向から観察した結果によると,切断面の形状からみても,また,リード打ち抜き箇所においては,チップの搭載された上面の側にバリ面が,下面の側にダレ面がそれぞれ形成され,逆に,タイバー切断箇所においては,上面の側にダレ面が,下面の側にバリ面がそれぞれ形成されている(構成要件b)ことからしても,リードは下から上に打ち抜かれ,タイバーは逆に上から下に切断されたものと認められる。
 したがって,上記被告各製品においては,金属板を打ち抜いてリードフレームを形成した後に,その打ち抜き面と反対の面に半導体素子(チップ)を載せて,これを固定する工程(同c)を経ているものと認められる。」


以上のように、方法クレームであっても、製造物に、製造方法の痕跡が残るようなクレームを作成することで、工場に入らなくても侵害を特定できるような、使える特許になると思います。


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以前、米国での予測できるオフィスアクション(拒絶理由)について記載しましたが、今回は、欧州における予測できる拒絶理由を挙げてみます。

なお、予測できる拒絶理由とは、米国のオブジェクションのように、書き方や手続の仕方が決まっていて、これを誤ると、かなりの確率で挙げられる拒絶理由です。このような予測できる拒絶理由は、知っているか知っていないかだけで、また、かなりのものが、国内明細書の段階から、あるいは外国出願時に「事前に」対応することができます。

以下、欧州における予測できる拒絶理由のうち、主要なものを列挙します。カッコ内は、根拠条文です。

1.同一カテゴリーでは、独立クレームは原則1個だけ (規則43(2)条)
2. クレームに符号を入れる (規則43条(7))
3. クレームを2パートにする (規則43(1)条)
4. 明細書の従来技術に主引例の記載を入れる (規則42(1)(b)条)
5. 新規性喪失の例外が制限されている (EPC55条)

1.について、2個以上の独立クレームを認める例外は規則43(2)条に規定されていますが、同一カテゴリーで独立クレームが2以上あるとほぼ確実に拒絶理由が発行されます。やむを得ない場合を除いては、同一カテゴリーの独立クレームは、1つにしましょう。

2~4については、事後的な対応になりますが、サーチレポートの見解書の中で挙げられますので、サーチレポートへの応答時の対応で問題ないと考えます。

特に、3.の2パートについては、審査官の挙げる主引例によってプレアンブルが決まるので、事前に出願人が2パート形式で記載する必要はないと考えます。したがいまして、クレームは、構成要件列挙型にしておき、審査官の挙げる主引例に基づいて、2パートに書き換えるのがよいと考えます。

5.について、EPCで認められている新規性喪失の例外は、博覧会への出品のみなので、日本の新規性喪失の例外規定は基本的に使えません。したがいまして、EPOに出願することが想定される場合には、日本での基礎出願で新規性喪失の例外規定を使わないようにする必要があります。

なお、ここでいう博覧会は、基本的に、博覧会国際事務局(International Exhibitions Bureau)に登録されているものが対象となるので、日本での博覧会は対象とならないことが多いです。


その他、拒絶理由ではないですが、クレーム数が15個までは料金の加算はありませんが、15個を超えると、1項につき、235ユーロ(約3万円)加算されますので、クレームの数を注意しないと、出願時の費用が高額になるおそれがあります。


以上、一部ですが、欧州での予測できる拒絶理由を列挙してみました。これらの拒絶理由は、日本語明細書の作成時、パリルートでの欧州出願時、あるいはPCT出願時に対応しておけば、挙げられることはありません。したがいまして、これらの規定を守るだけで、かなりのコストと時間を節約することができます。


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Kickstarterというクラウドファンディングを通して、Bagelという巻き尺の会社に、わずかですが出資してみました。動画にあるように、超高機能の巻き尺です。

目標の出資額にはすでに到達しており、順調にいけば、年末には出資者に製品が配布されます。

Wikiによると、Kickstarterは、クラウドファンディング関連の特許でもめていたそうなので、ちょっと見てみました。Kickstarterが、ArtistShareという会社のクラウドファンディングに関する特許USP 7,885,887に対し、確認訴訟を起こしたようです。クレームは、以下の通りです。

1. A system for marketing and funding one or more projects of an artist comprising a server having applications programs operable from a remote site for:
      providing software tools to an artist or Account Manager to manage at least one project, the project comprising at least one creative work;
      receiving information from the artist or Account Manager regarding at least one Sales Container associated with the at least one project, each Sales Container including at least one of a product, a service, and a patronage, while the artist retains outright ownership of the project and the creative work;
      transmitting offer data from a server to a client via a network, the offer data comprising an offer to Fans concerning the at least one Sales Container associated with at least one project, wherein the offer is for a Sales Container at a predetermined level of patronage in exchange for funds for the project;
      receiving at the client such offer data and presenting the offer to the Fan;
      transmitting acceptance data back to the server from the client accepting the offer;
      processing the acceptance data by the server;
      registering contact and marketing information regarding Patrons in a database; and
      providing the artist or Account Manager software tools to manage communications, through said Patron database, to Patrons regarding the sales and marketing of one or more projects.

クラウドファンディングに関するクレームは、こんな風に書くのか、、、、と。

例えば、出資対象となるプロジェクトは、creative workを含んでいるとか、Fanという文言も使われていますね。

もめ事はともかく、面白い製品があれば、また出資を検討したいと思います。


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米国での補正は緩いと言われていますが、どの程度緩いのでしょうか?

例えば、MPEP2163.05には、「液体に対して不活性な空気または他の気体」を「液体に不活性な流体媒体」との補正を認めることが記載されています。

具体的には、裁判例からの引用として、以下の記載があります。

「液体に対して不活性な空気または他の気体」との文言は、「液体に不活性な流体媒体」とのクレームをサポートできる。これは、媒体に分類される空気や他の気体の特性や機能に関する明細書の記載が、当業者にとって、控訴人の発明は不活性流体の使用を広く含むことを示唆しているからである。(In re Smythe, 480 F.2d 1376, 1383, 178 USPQ 279, 285)

つまり、明細書の記載にもよりますが、「空気または他の気体」を、「流体媒体」に上位概念化する補正が認められています。

文言上は、「流体媒体」になりますので、気体以外の液体も含まれることになります。

私の経験上、米国での補正は、相当緩く、上位概念化は頻繁に行われています。

例えば、米国出願人の日本出願を代理したとき、米国代理人は、日本では認められない上位概念化した補正案を頻繁に送ってきます。このことからも、米国の出願人にとっては上位概念化は普通に行われることのように思われます。もちろん、明細書の記載にもよりますが。。。

以上より、米国での審査では、ちょっと無理かなと思うぐらいの上位概念化の補正を行うのもよいかと考えます。

訴訟になったときは、どのように判断されるかは分かりませんが、外形上、広いクレームにできるのであれば、チャレンジするのもよいかと思います。


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明細書の背景技術の項の記載については、PL法上、問題が生じる場合があります。

まず、PL法とは、製造物の欠陥で消費者が身体上、生命上の損害を受けた場合に、製造業者は過失の有無にかかわらず、その損害を賠償する責任を負うことを規定した法律です。

これが明細書とどのように関係するか? 

米国においては、明細書の記載がもとになり、PL法での賠償責任を問われた事例がありますので、紹介します。

米国でGM(General Motors, Corporation)が販売していたCorvairという乗用車は、スイングアスクル式と呼ばれるサスペンションシステムを採用していました。このシステムは、構造が簡単であるという利点を有するものの、旋回時に車体が浮き上がって不安定になるという問題がありました。そのため、このシステムによる事故が相次ぎ、PL法に基づく賠償責任が問われました。

その根拠として、GM社の特許であるUSP No. 2,911,052の背景技術の欄には、スイングアスクルが従来技術として記載され、これがオーバステアやロールを引き起こすとの課題が記載されていいました。そのため、GMは、スイングアスクルの危険性を知りつつ、販売を行っていたとして、賠償責任に問われました。

上記のような裁判例は、日本ではまだありませんが、理論的には同様の判断が行われると思います。このケースでは、自社技術が事故を引き起こす可能性があることが明細書の背景技術の項に記載されており、実際に事故が発生してしまいました。ここからの教訓として、以下のことが言えると思います。

「明細書の背景技術の項には、自社技術が危険であること、またはそれをほのめかすことを、課題として、絶対に挙げてはいけない」

また、安全であるとの効果も、危険の裏返しなので、避けた方がいいかもしれません。

さらに、安全サイドに経つと、何が起るか分かりませんので、背景技術として、自社技術はあまり挙げない方がよいのかもしれません。


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