せん妄再考~その3 | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

せん妄とはどのような状態なのか、私なりに考えてみた。

 

私は、せん妄とは、アセチルコリンげ減少して起こる【脳幹網様体~大脳賦活系】の障害により起こる意識の混濁と、 ドパミン不足で起こる【前頭葉の賦活系である中脳皮質系】の障害により起こる前頭葉症状が主体と考えるようになっている。

過活動性せん妄は、見方を変えると前頭葉症状なのである。

それに脳幹網様体~大脳賦活系の障害により起こる意識の混濁が加わり混合型せん妄が起こると考えている。

 

川越の平川先生が、せん妄は「リバスタッチテープ」で改善すると、第1回認知症治療研究会で報告さっれている。これを聞いたときにわかに信じられなかったが、この理屈から考えると有る程度理解できる事である。

平川先生が仕事をしている川越も「内陸性気候」の地域である。近年夏場の気温上昇が著しい地域として、みなさんおなじみな地域である。

そのような環境であるから、混合型せん妄を起し安いのは、当たり前である。

少量のリバスタッチは、アセチルコリンとドパミンをバランスよく増やしてくれる薬剤である。この作用がせん妄を抑制してくれるのだと思う。

前もって張っておくと、せん妄発作を抑制できる様である。

 

脳幹部の虚血によって起こる「せん妄発作」について考えてみたい。

脳幹部の虚血により強い酸化ストレスが、脳幹部全体に起こると考えられる。この時、酸化ストレスによりネットワーク機能障害が起こり、「脳幹網様体~大脳賦活系」と「中脳皮質系}の障害が起こると考えられる。これによりせん妄を起すと考えていいる。

シチコリンは、アセチルコリンの前駆物質である。これを投与すると「脳幹網様体~大脳賦活系」の働きが良くなると考えられる。さらにシチコリンは、脳幹部の血流を増やしてくれる事から、酸化ストレスの緩和を通じて中脳皮質系の働きを改善し、せん妄状態を解消してくれると考えている。

陽性症状主体の過活動性せん妄に、シチコリンが効果を示すのは、このような理由であると考えている。

過活動性せん妄は、前頭葉の機能障害により起こる前頭葉症状が、興奮・多動の大きな要因である。シチコリンで前頭葉機能を賦活する中脳皮質系の働きを良くする事で、せん妄は回復する。

 

もうひとつのアプローチは、興奮を引き起こしている大脳辺縁系の抑制である。がん末期にもせん妄を起し易い事が知られているが、治療として大脳辺縁系の抑制が中心となっている。

これには、セレネースやコントミンの注射を使用される事が多い。セレネースとコントミンでどちらが効果が強いかは、議論の対象になっているようである。せん妄の陽性症状が、前頭葉症状と考えると、コントミンも効果が有ると思われる。

ただ私は、セレネースしか使用経験が無い。せん妄には、前記のシチコリンと組み合わせる事で、セレネースは有効であると考えている。もっともシチコリンを500mg/回から1000mg/回に増やしてからは、セレネースを必要とした事はほとんどなかった。

 

河野先生は、低活動性せん妄に対してシチコリンを良く使用使用している。低活動性せん妄は、脳幹網様体~大脳賦活系のアセチルコリン不足が大きな要因である。アセチルコリンを増やすシチコリンの静注が効果を示すのは、このためと考えている。

長期持続した低活動性せん妄は、酸化ストレスの影響はあまりない状態に回復していると考えられる。だからグルタチオンでは改善しないと考えられる。

私は、混合性せん妄に対しては、抗酸化ストレス作用が強いグルタチオンだけで回復する事を、確認している。シチコリンを追加してもしなくとも、大きな差はない。

低活動性せん妄に対しては、シチコリンが必要なようである。ただここで注意してほしいのは、シチコリンはアセチルコリンを増やす薬剤であると言う事である。

アセチルコリンを増やすと、迷走神経の働きをも高めてしまう。シチコリンパラドックスの項目で書いたとおり、シチコリンは迷走神経反射を介して脳幹部の虚血を招く可能性があると言う事である。現実にシチコリン2000mg投与で脳幹部の脳梗塞を誘発したと思われるケースが発生してしまっている。

私は、低活動性せん妄に対しては、シチコリン500mg程度を上限にすべきだと考えている。

500mg/日を繰替えし投与する事で、回復するのである。2~3日投与を繰り返すと、目覚ましい回復を示す事が多い。さらに投与を継続すると7~10日程度は、さらに改善するケースがいる。このように迷走神経反射を起さないよう、少量のシチコリンを繰り返し投与する必要があると思う。

このシチコリンの迷走神経反射の起す作用に気がついてから、私はシチコリンを使わなくなった。過活動性せん妄に対しては、グルタチオンの投与+プレタールの血流回復効果だけで十分だと思う。必要なら少量のリバスタッチ(2.25~4.5mg程度)を使用するのも良い方法だと思う。