ピックを知らない医師たち。 | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

いつも勉強させていただいている座間先生のブログに、気になる記事があったので

書かせていただく。

 

http://ameblo.jp/29yoi65/entry-12220842651.html

座間先生のブログです

 

この記事の中で

川畑 信也先生

(八千代病院神経内科部長)

の書かれたと言う、以下のケースである。

 

2人の医師に

認知症と診断された

HDS-R 29点

84歳女性

かかりつけ医の先生からの紹介で、外来を受診した。3年前に夫が死亡してから、独居生活を送っている。同居していない息子夫婦の話によると、会話で何度も同じことを聞いてくる「聞き忘れ」がしばしば見られる。最近、料理をすることがおっくうで惣菜を買ってくることが多いが、同じ物を何度も買ってくるようなことはない。賞味期限の切れた食材が冷蔵庫内に多い。易怒性は目立たない。診察では、礼節の保たれたおとなしい女性の印象で、診察にも協力的でした。

 

まず患者さんは年1回検診で訪れているクリニックで頭部MRI検査(患者さんの家族はなぜ検査されたのか理由が分からないと述べていました)を施行され、初めて診察を受けた医師から突然、「(海馬傍回の萎縮を評価するとされるソフトの)VSRADで海馬の萎縮が数字として2以上あるのでアルツハイマー型認知症です」と告げられ、ドネペジルの投与が開始されたそうです。

 

 

家族がその診療態度に疑問を感じ、認知症を専門とするやや遠方のクリニックに連れていきました。

そこでは「HDS-Rが27点なので、認知症ではないからドネペジルの服薬は止めなさい」と言われ、さらに前頭側頭型認知症が疑われるので米ぬかを主成分とするサプリメントの購入を勧められたそうです。家族は、保険適応もないサプリメントを買わされたことに対して不信感を募らせた結果、身体疾患の治療を受けている主治医から私の外来を紹介されたとのことでした。

 

と書かれている。

 

一件目の医師が、VSRADで海馬の萎縮があるから、アルツハイマーと診断している。

HDS-Rが29点であれば、遅延再生は5点以上である。このことから、アルツハイマーでは無い。

この誤りを犯す医師が、いかに多いかの証左であろう。

 

「会話で何度も同じことを聞いてくる「聞き忘れ」がしばしば見られる。」

とあるが、こだわった事を執拗に問う前頭側頭型の特徴と考えている。

HDS-R高得点・遅延再生高得点のこのケースでは、聞き忘れと即断する間違いを、川端医師は行ってしまっている。

 

 

「最近、料理をすることがおっくうで惣菜を買ってくることが多い」

「賞味期限の切れた食材が冷蔵庫内に多い。」

前頭側頭型認知症(以下ピックと記載)は、行動の変化を特徴とする。今までやっていた事をやらなくなるのが目立つ。自分の関心が無い事はしなくなるのが、ピックの大きな特徴の一つである。料理・掃除や片づけ・入浴や着替えなどをしなくなるのが、良く見られる行動の変化である。我々でも、面倒になると先延ばしにしてしまう心理起点と同じと考えて良いと思う。

ピックの場合、それが顕著になりカツ全くしなくなると言う事も出てくる。

ピックの中に、買い物を異常にするケースがいるが、家に持ってくると関心が無くなるのも特徴なのである。

女性で「着るものが無い」と言って、騒ぎまくり、洋服などをひたすら買いまくるケースもいる。でも買った物はそのまま部屋に積み重ねてある事が多い。この行動が「所謂ゴミ」になると、ゴミ屋敷が出来上がるのである。私は、ゴミ屋敷の持ち主はピックだと理解している。他人に迷惑をかけている行動を、平気で行うところは「まさにピック」と言ってよいと思う。

冷蔵庫の中の物が、腐るまで放置するのもピックである。

 

易怒性は目立たない。診察では、礼節の保たれたおとなしい女性の印象で、診察にも協力的でした。

と書いてある。ピックは、易怒が目立ち人格の崩壊を起す。これに当てはまらないからピックでは無い。と言いたいのであろう。

ここでも、川端医師は大きな間違いを犯している。

レビーもそうであるが、前頭側頭型認知症の症状は多彩であり、そのすべてを持っているケースは少ないのである。他人への礼節が保たれているケースも、少なくない。ただその行動の中に、ピックを思わせる行動がみられる事が多い。これを感じ取る感性が必要である。

 

前頭側頭型認知症は、最終的には画像診断が有用である。

CTで

1、海馬を含む側頭葉の萎縮が目立つ

2、前頭葉眼窩面を中心に前頭葉の萎縮が目立つ

3、前頭葉眼窩面の萎縮を反映し、側脳室の前角の拡大が目立つ。その割に体部や後角の拡大は少ない。

4、シルビウス列の開大が著名

などの変化が有る。

これで、最終的な確認を行っている。

以上を考え併せていくと、このケースは、前頭側頭型認知症の可能性が高いと言える。進行予防を考えると、フェルガード100Mや100Mハーフの利用は、一つの方法だと思う。

 

現在の勤務先で、LPCが進行し急速にADLが低下しているケースが、地域包括病棟に回ってくる。CTで確認すると、上記の条件をすべて満たすケースばかりである。

上記以外にも第三脳室の拡大を認めるケースが少なくない。ハミングバードサインも1/3程度のケースで認める。垂直中止麻痺を認めるケースも、少なくない。

現在私が担当している方々の多くが、ピックコンプレックスと考えなければいけない状況である。

 

LPCの進行に対しては、フェルラ酸は有る程度有効だと思う。

急速にタウタンパクが蓄積する悪性レビーには、無効であるが・・・。

あとLPCの進行の抑制に、プレタールが期待できると考えている。

この点については、いずれかきたいと思う。