アルツハイマー再考~その3 | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

アメリカでは、認知症の原因としてアルツハイマーが大半だと言われています。

白人女性は100%アルツハイマーと言う話もあります。

このため、アメリカの医学界は大きな誤りを起こしてしまったようです。

脳の疾患に関しては、

どの領域がどのように障害されるか?

その領域の障害によりどのような症状が出てくるか?

と言う事が重要になってきます。

今までは、病理学的に検索する方法が最善と考えられてきました。

ただこの方法にも問題はあります。パーキンソン病のように障害がごく限られた領域に起こる疾患の場合、有効でした。しかし認知症は脳の広い範囲に障害が起こるため、前記の質問に答えることは、容易ではありません。

 

ここでアメリカの医学界は大きな誤りを犯しました。

認知症のほとんどがアルツハイマーだから、細かいことは言わずに、「すべてアルツハイマーだから」と言う事にしてしまい、前記の検証を怠ってきたのです。

アメリカでは、脳外の手術時に脳の生検を行い、データを集めていたのである程度仕方が無いことかもしれません。しかし脳外の手術時に生検出来る領域は、限られていると思われ、十分な解明がされることは有りませんでした。

 

最近神経細胞にかかわる様々な事実が明らかにされてきています。

最近の知見によると、βアミロイドは神経細胞への毒性が無いとされています。そうするとアルツハイマーの原因はβアミロイドの蓄積と言う仮説が崩壊してしまいます。

アミロイド前駆タンパク(APP)と呼ばれるタンパク質から、βアミロイドは作られます。

通常APPはαセクレターゼと言う酵素により無害な物質に分解され、脳にダメージを与えることはありません。しかし理由は判りませんが、βセクレターゼにより「水溶性アミロイド」に分解されてしまうことがあるようです。この「水溶性アミロイド」が強い神経毒性を持つことが分かってきました。

水溶性アミロイドは、γセクレターゼにより無害な物質に分解される事も判ってきました。水溶性アミロイドをγセクレターゼは、無害なβアミロイドに変化させているのです。

この事実がわかった時、βアミロイドに対するワクチン療法の開発が中止されたと聞いています。ただ最近βアミロイドの凝集したものが、βセクレターゼの働きを高め、水溶性アミロイド→βアミロイドの産生を増やすことが分かってきました。

こうなると、βアミロイドの蓄積の神経細胞障害の進行とは、どう関係してくるのか即断できなくなります。

ナンスタディと呼ばれる修道女を対象にした研究があります。101歳になるシスターマリー方は、無くなるまで認知機能検査で全く異常を認めることが無かったようです。その方の脳は、アルツハイマーに固化されていることが、死後の冒険で確認されたそうです。

この事実が、βアミロイドをめぐる最新の知見を使うことで、

「水溶性アミロイドにより神経細胞障害が起こりアルツハイマーになることを、γセクレターゼの働きが強い方は、神経細胞障害を起こさないよう水溶性アミロイドを速やかにβアミロイドに変えてしまう」

と言う説明が成り立つことです。あくまでも仮説ですが、十分成り立ちそうな仮説です。

 

あと最近PET検査を使用して、βアミロイドとタウたんぱくの描出が可能になってきました。アミロイドイメージング・タウイメージングと呼ばれています。

最近タウイメージングを開発した放射線医学総合研究所が、認知症の方の脳内の変化をこの手法で調査しています

それによると、βアミロイドの蓄積がレビー小体病の40%に認められ、そのβアミロイドの集積する領域は、アルツハイマーと一致していると言う事が判ってきました。

またアルツハイマーの方の短期記憶障害の原因となる海馬領域の変化は、βアミロイドではなくタウタンパクの蓄積だったと言うことです。

βアミロイドの蓄積は、老人班と呼ばれ程度の差はあれ高齢者に見られる変化です。

タウの蓄積は、神経原線維変化と呼ばれる変化に相当するようです。

海馬の変化がタウによると言うことから、脳の神経細胞の編成による疾患の原因は、タウたんぱくの異常な蓄積が原因と言われるようになりました。

レビーのlewybody(レビー小体)も、神経細胞障害との直接的な関与は不明とされています。

二大認知症で見られるβアミロイドとlewybodyの蓄積とそれぞれの疾患との関係が、判らない状態に戻ってしまったのです。

レビーも、タウたんぱくの蓄積が認められています。アルツハイマーと違う領域とされています。

さらにレビーの場合、コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプトなど)が効きタウの蓄積が軽度なタイプと、コリンエステラーゼ阻害薬が効果を示さずタウが脳内に多量にかつ広範囲に溜まるタイプがあることが判りました。私の盟友である新横浜フォレストクリニックの中坂先生は、このタウが広範囲にかつ多量に溜まるタイプのレビーをmalignannt DLB

(悪性レビー)と名付け、自分の臨床経験と重ね合わせていました。この悪性レビーについては、興味深い知見があり別に書きたいと思います。

 

この領域の研究に成ると、私の能力では十分理解できません。私なりに理解した結果異常のような考えに達しました。

 

前頭側頭型認知症の脳の画像を見ていると海馬の委縮が早期から認められる事が判りました。その中で高度に海馬が萎縮に進行したケース見られます。そのようなケースでも短期記憶障害が皆無なケースがいることから、海馬の委縮は短期記憶障害の原因ではないと考えています。海馬への書き込みが行われなく成ると委縮することは判っていますが、海馬の委縮が短期記憶障害の直接の原因とは言えないのは、前頭側頭型認知症のケースで明らかです。

では、アルツハイマーの短期記憶障害をどう考えるかですが、私は海馬周辺のタウの蓄積により、前頭葉の指示どおりに短期記憶が海馬に書き込まれなくなる書き込み障害が本体だと考えています。さらに進行すると、前頭前野の指示を無視し大脳辺縁系が「去の記憶」

を、前頭前野の指示した記憶だとし送り出していると考えられます。

このため、前頭前野は、自分の短期記憶は良い(要求した記憶がすべて送り返されてくるため)と理解するようになります。

物をしまった記憶に自信があれば、しまった場所にそれが無い場合盗まれた(誰かが移動させた)と判断するのは、当然だと思います。

アルツハイマーの方が、自分の短期記憶に異常な自信を持っていることや、物取られ妄想は、このように考えると起きて当然の状態であることが、容易に理解できるでしょう。

時間とともに海馬が萎縮していくのも、海馬への書き込みが行われなくなったためと考えたほうが良いでしょう。

 

以上のように考えていくと、アルツハイマーについての教科書の記載を大きく書き換え無ければいけないと言う事は、理解していただけるでしょう。