レビー小体病の本質について | 老年科医の独り言

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認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

レビー小体病の本質について考えてみた。
レビーの症状は、非常に多彩である。脳内の変化から責任病変がいまだに明らかになっていない。
レビー小体が大脳の広い範囲に認められると言う事実はあるが、このレビー小体が障害の原因と言えないかも知れない。他の要因により脳に悪影響が起こりその結果レビー小体が最終的に生じると、最近考えている。
レビーの一番重要な症状は何かと聞かれると、私は自律神経障害と答えるようになってきた。
レビーにとって一番問題なのは、自律神経障害なのである。
レビーの自律神経障害は、脳神経である迷走神経(副交感神経の主要な枝)以外の、脊髄レベルの自律神経が障害され機能を失う事が、レビーの症状発現の大きな原因だと考えるようになった。
MIBG心筋シンチは、レビーでは高率(80~90%)で異常所見を認める。
この検査は、心臓に分布する交感神経をアイソトープで描出する検査である。胸部の交感神経が障害され、心臓に分布する交感神経が減少していることを確認する検査なのである。
パーキンソン病や他の疾患(精髄小脳変性症など)でも交感神経の減少が確認されるが、パーキンソン病に比較しレビーの方がはるかに重篤なようである。
レビーとパーキンソン病に共通点があるのは、このためと思われる。
ただ大きな違いが、レビー小体の存在する部位の違いである。
パーキンソン病の場合、中脳の黒質領域が主体とされている。
レビーの場合、一部の脳幹型と呼ばれるレアなケース以外、中脳の黒質領域のレビー小体はそれほど多くは無いようである。
交感神経を中心に脊髄レベルの自律神経が障害されると、残っているのは脳神経である迷走神経と言う事に成る。
迷走神経の働きが亢進しすぎると、様々な身体的障害が顕著になる事がある。
消化管症状・下痢
(PS:レビーで下痢ではなく、便秘が多いのは仙髄レベルの副交感神経の障害による。この領域の障害が軽度の場合、頑固な慢性下痢症が問題になるケースが、時にいる)
除脈・血圧低下
胃酸分泌方による胃粘膜病変や逆流性食道炎など
etc
レビーの場合、自律神経障害が高度になり迷走神経の過剰な働きが問題を引き起こしていると考えると、レビーを理解しやすいと思う。
除脈・血圧低下が軽度であれば、起立性低血圧と言う事に成る。
これが高度になると、脳血流を著しく低下させ意識消失を起こすことが有る、迷走神経反射と呼ばれる現象となる。
レビーの脳の機能障害は、迷走神経反射が大きく関与していると考えるべきであろう。
最近の大脳生理学的な知見では、脳の神経細胞は限度を超えた虚血になると、一時的に機能を停止し休眠状態に成ると考えられている。
一定時間以内に血流が戻ると、速やかに機能が改善する事が判っている。以前は3時間以内と言われていたが、最近は数時間以内と言われてきている。
このような血流低下の影響を一番受けやすいのは、脳幹部である。
大脳は、脳幹部よりこの血流低下の影響を受けにくい様であるが、
前頭葉の外側部や、側頭葉なども影響を受けてくると思われる。
言い換えると血流低下が軽度のうちは、脳幹部の障害が主体なのであるが、自律神経障害が進行すると、前頭葉外側部や側頭葉が影響を受けてくる。さらに進行すると前頭葉眼窩面や穿通枝領域の障害が起こってくると考えられる。
症状が激しく変動するのも、脳の機能が血流に影響され変動するためと考えれば、容易に説明がつく。
レビーの本体は、自律神経障害なのである。この自律神経障害のため
脳の障害の進行が起こると考えた方が良いと思う。
多系統萎縮症の中で脊髄小脳変性症と呼ばれたタイプも自律神経障害が強い事が知られている。
私がレビーと診断していたケースは、MSAがかなり混じってると思います。そうするとMSAの頻度は今まで言われていたよりはるかに多いと言う事に成ります。
レビーの症状が自律神経障害からくる脳の血流障害が大きな要因だと考えると、MSAでもレビーと同様の症状が出てくることは、あり得ると考えられます。
私には、この二つの疾患を明確に分けることが出来ないのですが、自律神経障害と言う共通した主要な障害がありますので、仕方がない事なのかもしれません。

最近若年(40~60歳代)で脳出血を起こしたケースで、前頭葉症状と錐体外路症状が目立つケースに3例ほど遭遇しました。2例は、回復期リハビリにて、脳出血による麻痺が改善してきた3~6か月で前頭葉症状と進行性のパーキンソニズムが起こり、リハビリの継続が困難となったケースです。このケースの場合、脳出血の原因が高血圧による動脈硬化だけではなく、自律神経の障害による血圧の変動が大きい事が影響していたと思われます。

追記
MIBG心筋シンチは、多系統萎縮症でも心臓の取り込み低下を認めるようである。
今までレビーと考えていたケースの中にやはり多系統萎縮症(MSA)が混じりこんでいたと考えるべきであろう。