映画「わが母の記」をみて | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

久しぶりの更新となります。



色々書きたいことはあるのですが、まとめる事がしんどいため筆が進みません。



 



今日は、「わが母の記」と言う映画を見て感じたというか驚いたことがあり、簡単ですが記事にしました。



 



昭和の文豪・井上靖氏の自伝的小説「わが母の記」を原作として映画化されています。



年老いた認知症をわずらった母を通じて、幼少時よりの家族間の葛藤を描いた映画です。



主人公は映画では「伊上洸作」と名前を変えており、母親の認知症になった八重と交流を中心に、幼少期よりの家族間の葛藤を描いた良い作品だと映画を見て思いました。



また作家井上氏の観察眼の確かさも感じました。



 



認知症の母「八重」は発症初期には、明らかにアルツハイマーと思われる描写がされています。その後進行に伴って、明らかなレビーの症状・幻視や妄想・せん妄などがしっかり描かれていたのに、少々驚きました。



八重を演じた樹木希林さんは、演技のため実際に認知症の方に会われてその行動を観察して演技をしていると他の介護ブログで診た記憶があります。多少わざとらしさはあるがと言う記載もありました。



実際に映画を見ると、樹木希林さんの演技は認知症の方を十分理解していないと演じきれないものでした。



アルツハイマーの時期のあっけらかんとしたものの言い方。アルツハイマーの特徴をよくつかんでいると感心してみていました。



そのうちレビー?と思われる症状が少しずつ出てきました。以前書いた「ペンの手」も一生懸命演じようとしていました。ただ演技で行うには難しい動作だということが判るのも事実です。レビーのパーキンソニズムに伴うオーラルジスキネジアや姿勢の異常なども演技の中に取り入れていました。レビー化した時期からは、自分が間違っているという自覚があるのをうまく表現していました。



レビー特有の幻視を認めるシーンもありました。この辺は井上靖氏が原作でも書かれているのかも知れません(失礼ながら原作はまだ読んでいません)。



多少のわざとらしさは感じますが、非常に良く演じてあるなと言う印象が強かったです。



これなら介護家族がご覧になっても、不快な思いはされないかも知れません。



 



この映画の中で、非常に気になったというか驚いたことがあります。



主人公の伊上洪作を演じた役所広司の親指に以前記事にした「ペンの手」が見られるのです。



作家役でしたので、書斎での映像が良く登場しました。そこで机の上に手を置いて座っているシーンが何度か登場します。役所さんが手の力を抜いてリラックスしたシーンが何度か出てくるのですが、そこでなんと強度の「ペンの手」が出てくるではないですか・・。



これにはびっくりしました。手の力の入ったシーンもあり、この時も「ペンの手」が現れていたので、意識的にしているのかなとも思いました。しかし前記のように机の上に手を置き、緊張→リラックスした状態にかわると、母指の先端の関節が異常に反ってくるのです。これは「ペンの手」と判断するしかありませんでした。



役所さんがパーキンソン病を患っているという話も聞きませんし、私の「ペンの手」に対する理解が誤っていたのでしょうか?