環境測定会社での
アルバイトが続いています。
記憶によれば、
週4~5日で出勤していました。
平日はほとんどが

ビルに1人で行く空気環境測定、
休日は会社のほかの人たちと
受水槽清掃に行く感じでした。
日給で12,000円くらいだったかと思います。
大体手取りで月20万円くらいですね。

そういえば、
この業務の中には、
たまに他の会社の人と一緒に、
空気環境測定と、
別の施設の環境調査を併せた業務もありました。

おそらく、うちの会社が、
中小の関連会社から

下請けしていたんだと思います。

そんな時僕は、
別会社の鐘田(かねた)くんという人とともに、
彼の運転する社用車で現地に赴きました。

鐘田くんは、

僕と同い年ですが、
高校卒業して上京し就職していたので、
すでに社会人8年目、
この仕事をずっと続けてきた人です。

実のところ、

同い年でこっちはまだ学生をやっていて、
かたや社会で自立しているわけです。
なんとなく引け目がありましたが、
気さくなノリの軽いタイプで、
すぐに仲良くなりました。

彼は高円寺に一人暮らししていて、
2人で飲んで、
彼の家に行ったことがありました。

古い5階建てのマンションの3階でした。
部屋に入ると、その広さに驚きます。
古い造りで、柱も大きいですが、
見渡しただけでも、

3DKはありそうです。
「すごいね、1人でいてこんなに広いの」
なんと言っても、
僕は順平とサトちゃんと

3人で2DKに暮らしているので、
これなら1人1部屋持てそうです。
「家賃も高いんじゃないの?」
「高いね」
鐘田くんは酔って気分良さそうな顔したまま、
トーンだけは暗い感じで答えました。
「いくら?」
「12万かな」
「え!1人で?」
僕らは玄関から少し入った
部屋の入り口に立ったまま会話していました。
「ま、中入んなよ、まだ飲む?」
僕はこくりとうなずきます。
彼はキッチンに行って

冷蔵庫を開けると、
冷えた缶ビールを持ってきました。
そのキッチンから部屋で繋がっている、
じゅうたん敷きのリビングのような部屋で、
僕らは床に座ってまた飲み始めました。

「花村くん、すっごい飲むよね」
彼は一口缶に口をつけると言いました。
僕は、
「そうかな…、」
とだけ答えて、

喉が渇いていたのもあって、
ぐびぐびとビールを飲んでいました。
飲み屋では他愛もない話で、
2人で大いに盛り上がっていたんですが、
部屋に来ると妙に静かになりました。
なんか悪いこと言ってしまっただろうか、
家賃とか聞かない方がよかったんだろうか、
僕は軽くそんなこと考えます。

しばらくして、
鐘田くんは、
「ほんとはさ、

ここ2人で暮らしてたんだよ」
「そっか、2人なら広くてちょうどいいね」
「1週間前に突然いなくなっちゃって、」
と、ここまで口にした彼は、

ちょっと黙ってから、
「彼女ね」
そう言いました。
僕は思わず目を見開いて、
彼を見つめながら、
「ごめん、変なこと聞いちゃって」
「いやいいんだけど、全然、」
それで、酔っていたのもあって、
「でもなんで?まだ1週間でしょ、
帰ってきたりすんの?」
彼はふうっと息をついて、
それから少し笑って、
「ふられたからね、予兆あってさ、
多分もう帰ってこないから」
僕は電気をつけていない、
奥の部屋の方を見渡して、
「荷物とかも?」
「なんか色々置いてったけど、
いらねえんじゃないかな」
「そう…」
なんか気まずいな、

と少しは思ったんですが、
酔いもあって、僕の口は軽く
「でもあんまり女っ気ないね」
「ああ、いらないもんは捨てたから」
「…」

また、暗い方の部屋を見ると、
立てかけてあるレス・ポール・モデルの
アコギがありました。
僕はふらつきながら立ち上がると、
「これ!ギター!」
鐘田くんも立ち上がり、
僕についてきて、背後から、
「それも彼女のやつ、

なんか練習してたけど、
全然弾けてなかった」
「鐘田くんは弾かないの」
僕はギターを手にして振り向くと、
彼に聞きました。
「俺全然、音楽やんないから」
「弾いていい?」
僕はもう座り込んで、
膝にギターを置いて聞きます。
「いいよ、ここ結構壁厚いから、」
そこで僕は、
簡単なアルペジオとか、
爪弾きみたいなことをちょっとやってみます。
「すげえじゃん、やってんの?」
彼はあぐらかいて座って言いました。
「前ね、結構前。バンドやってたから」
僕が答えると、

鐘田くんは目を大きくして、
「ほんと色々やってんだな~、
なんか弾いてよ、弾き語りとか」
「大丈夫?」
僕は光の届かない暗い天井を見上げます。
「うんうん大丈夫、

彼女もがんがん弾いてたし」
「どんなのやる?」
そう聞くと、

鐘田くんはちょっとだけ考えて、
「なんか泣けるやつ」

それで僕は、
どんな曲やったか忘れましたが、
とにかく恋愛ものの、
しんみりする曲を弾きながら

小声で唄ってみました。
部屋は物があまりなく、よく音が響き、
自分の声も綺麗に反響しています。
酒も入っていて、
なんとなく気分もよくなって
僕は唄い続けます。

ようやく1曲終えると、
鐘田くんは、
「いい声だね、なんかよかった、泣ける」
ぽそっと口にしました。


すりガラスに、
滲むような街明かりが映っています。
自動車の走りすぎる音が

遠くに聞こえてきました。
なんとなくしんみりした雰囲気でしたが、
それにしても、

陽気な酔いが体の奥にまだ残っていて、
どっちつかずの空気でした。

「なんかすごいね、いろいろできんだな」
彼は、僕をしみじみと見つめて言いました。
僕は何も答えず、

爪弾きだけを続けています。
鐘田くんは、
「なんか何でもできそうだよね、

小説も書いてんでしょ、多才だなあ、」

一体、どういう意味で

彼はそう言うんでしょう、
僕は首を振って、
「そんなことないよ」
とだけ答えました。

 

プロジェクト308日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/5/13 308日目【残り193日】</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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