アメ横でのアルバイトは
高校時代の出来事です。
当然ながら、
その頃の僕には、
小説家へのなんの意思もないわけで、
軽い思索癖はあったものの、
じっと物思いに耽るわけでもなし、
貪るように本を読むわけでもなし、
文学者への憧憬もほとんどなかったわけです。
そこから、話をぐぐっと数年後に移動します。
23歳、この年での大学受験を目指し、
勉強するぞって、言ってる夏のことです。
………
学歴も知識も、これといった取得もなく、
将来への漠然とした不安の中で、
僕はもだえていたのかもしれません。
なんのために大学へ行こうとするのか、
なんのために作家を目指そうとするのか、
そして、
なんのために生きているのか、
23歳の青年にとって、
それは単純で浅はかなものだったのかもしれません。
多くは物欲や、純粋な
生物的欲求を希求することに支配されていました。
それでも、
いつか高遠な理想が自分でも理解できるかもしれない、
そういう気にもなって、
書店で本を漁ったりもします。
答えを探すんです。
僕の場合、端的にタイトル化された、
例えば「成功する本」みたいなものは全然読みませんでした。
本当の答えは、
そんな簡単に見つけられちゃうものじゃないと思っていたからです。
しかしながら、
本の海原を渉猟しても、
中々答えなんて見つからないものです。
結局、
答えを探すことなんて放棄して、
いや正確には、忘れたようなふりして、
この頭でっかちの人間というやつは生き続けるのです。
………………
電柱建て屋でのアルバイトは、
真夏の空の下、まだ続いていました。
ちなみに雨の日は、
会社の敷地で、
電線や工具なんかの掃除や手入れをして過ごします。
その日はとても楽です。
油汚れで体中がべたべたになりますが、
それでも、トタン屋根に打ち付ける雨音が、
なにか安息のメロディに聞こえたものです。
会社の広い敷地には、雨にけむって、
大型機械が雨ざらしで並べられていました。
夏は晴天の日が多いので、
もちろんほとんどの日は、
なに考えてるかわからない海東さんと現場へ向かいます。
いったい幾つの穴を掘ったことでしょうか。
なんか古代の遺跡でも出てこないかなんて空想したこともあります。
それから、
この都会を覆う地表というものが、
どこまでも続くアスファルトであることに、
今さらながら驚いていました。
本当の地球はどこにあるんだろう、、
なんて考えたりしていました。
さて、ある日のことです。
連れて行かれたのは、昨日と同じ現場でした。
これから整地されようとしている住宅地です。
そこには計30本ほどのコン柱(コンクリート製の電柱のことですね)を、
昨日までに設置していたのですが、
社長の山岡さんが、
「全部ひっこぬけーい」
いつもの拍子抜けする掛け声をあげています。
どういうことか、最初不審でした。
埋められた電柱の周囲はまだ土面です。
僕ら作業員は、
まずはその周りを掘り下げていきます。
それからクレーンで縛り付けて、
ぐりぐり抜いていきます。
実は、
建てる場所が、全部5メートルずつずれていたんです。
山岡さんは照れくさそうに、
「最初のベンチマークがずれてたからなあ」
と、からから笑っています。
当時はただぼんやり、もったいないな、
くらいにしか考えていませんでしたが、
実際のところ、
2日分くらいの運用経費を無駄にしているわけです。
人件費でみたって、10人×1.5万円=15万円、
それを2日だから30万円、
燃料費なんかの経費考えても、結構かかってそうですが、
あの頃の山岡さんを見ていて、
そんなこと気にしているようには見えませんでしたし、
利益がだいぶよい仕事だったんでしょうかね。
「よくあんですか、こういうこと」
その日の帰り、
トレーラーを運転する海東さんに聞いてみました。
「あんまねえよ」
おっさんはぶっきらぼうに答え、
「でもよ、ずれてたっていいんだろ、ほんとはよ」
「え?」
「だからよ、電柱がずれてんだか、区割がずれてんだか、どっちかわかんねえしよ」
僕は意味がよくわかってなかったですが、
おそらく電柱に合わせて、住宅の区画をずらせばいい、
みたいなことかと思います。
「あれ?」
話の途中で、ふいに海東さんは舌打ちして、
「やべえ、警備員置いてきちったよ~、
今日の連中足ねえって言ってたな」
僕らの電柱作業には、
必ず警備員が付くことになっていました。
たぶん、道路交通法なんかで決められているんでしょう。
警備会社に依頼するものです。
だいたいはバイクや車で、
現場に直行直帰するのです。
しかし、たまに、
足(交通手段)のない警備員だと、
車に同乗して最寄駅なんかで降ろしてあげるわけです。
この日、
付いてくれた警備員を現地においてきたことを思い出したんです。
海東さんは、ハンドルを握りながら、
ぎろっと僕を一瞥しました。
「お前さ、単車だよな?」
「まあ」
「送ってやれよ」
「え?」
もう会社の近くまで帰ってきてしまいました。
「でも、メットないですよ」
ヘルメットは自分のものしか持っていません。
「あいつら被ってんだろう、」
海東さんが言うのは、警備員の方が被ってるヘルメットですが、
あれはもちろん、バイク乗る時に使えるものじゃありません。
「え~、でも」
「頼むよ、帰り道だろ」
たしかに、この日の現場は、僕の帰宅ルートでした。
僕は諦めて、
「どんな方でしたか?」
「若いあんちゃんだったろ、長髪のさ、」
どうにも思い出せません。
たしかに日中僕らが作業をしている時、
警備員は付近の道路に立っているのですが、
あまり意識していなかったのもありました。
「お名前は?」
「知らねえよ~、そんなもん」
「わかりました」
ま、行けばわかるかな、
会社に戻ると、僕は急いで単車にまたがり、
現場へと向かっていきました。
プロジェクト124日目。
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<span style="color:#ff0000;"><strong>2018/11/9 124日目【残り376日】
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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