山梨に行った夜、なぜ連絡が取れなかったのか、
玄関で玲子さんに詰問されていました。

僕はあの日、レンタカー屋に車を返すと、
そのままルナちゃんと居酒屋で軽く飲んで帰りました。
玲子さんから着信があったのは、
1人になって、
家に帰る途中で気づいていました。
まあ、ほどよく酔っぱらっていた僕は、
明日でもいいかな、
と思ってそのままにしていたのです。

それ自体は、
今までもたまにあったことで、
彼女が気にすることでもなかったんだと思います。
しかし、彼女以外の女性と、
2人きりで飲みにいったことはどうでしょう、、、

別に悪いことしたつもりもなかったんですが、
一度言いそびれたら、
別に報告の義務があるわけでもなし、
そのままにしていました。
それが、これを機に、
自らの心中に引け目を感じさせていくことになったんですが。

「ごはん食べ行こうよ」
玄関で体を僕にもたせたままの
玲子さんに言いました。
「うん…」
彼女は少し体を開き、
上目づかいで僕をじっと見つめています。
切れ長な形のいい目には、
潤みが感じられました。
泣くとかそういうことじゃないんでしょうが、
感情を吐露した時の、少し照れのある瞳です。

僕は以前にも書きましたが、
特に恋愛論を小説で語れるような人間ではありません。
恋愛論は、誰かに共感を与えるものとして一般論でしょう、
一般論を少し掘り下げると、
大衆受けする恋愛小説が出来上がると思います。
僕はそこんとこには、ひどく自信がありません。
僕の恋愛は、あくまで主観であって、
しかも男性の目線で、異性を探るだけの、
永遠の独りよがりです。
経験だけが、女性の外観、行動に対して推論を与え、
その確率を上げさせるだけのことです。
いくつかの僕の作品を読んでくれた読者の方はお気づきでしょうが、
全ては恋愛論ではないのです。
それは多義的に生じる事象の一つのアクセントでしかないのです。

そんな感じなので、
この時も、
玲子さんの真意になにか気づいていたということはないんです。
僕はただ、彼女がご機嫌を直してくれて、
楽しく食事が出来たらいいのに、そう端的に考えていました。
多くの女性が、
僕が想像する以上に、小さな綻びをずっと心に宿して、
それを何度も噛みしめているというのに、
そんなこと、考えもしていませんでした。

2人でマンションを出ると、近くのファミレスに行きました。
向かい合って食事をしながら、
山梨での、幸次郎の試合の話や、景徳院に行ったことを話しました。
なんとなく、ルナちゃんのことは伏せながら。。。

「それで、幸次郎くんのことはうまく行きそうなの?」
食後のコーヒーを飲み始めてから、玲子さんは言いました。
僕は息を吐くように小さく笑って、
「いや、もう終わっちゃったから」
「え?」
彼女は少し驚いています。
僕は、ことの経緯を洗いざらい話しました。
「幸次郎は別に怒っちゃいなかったけど、」
「それはそうでしょ、だけど…、すごい展開だね、
ちょっと驚いちゃった」
玲子さんは唖然としたって顔していました。
「まあ急展開、、、だよね、それも俺が後押ししちゃったみたいで」
「そんなことないよ、結果的にはお店通いやめさせたんでしょ、
だったらいいんじゃないのかな」
僕は小さく笑って、
「ふふっ、こんなふうになるなんて、全然想像できなかった」
「ほんとに?全然?」
また、幸次郎と高原と、
マリさんのお店に行っていた頃のことを思い出してみるのです。
だけれど、やっぱりなにも思い当たることは浮かびません。
「それでさ、幸次郎はたしかに、特に怒ってるとかじゃないんだけど、
でもね、お前そんなんで作家なんてなれんのか、みたいに言ってた」
「どうして?」
「いや」
僕はアイスコーヒーの氷をストローでかき混ぜながら、
「洞察力がないとか、人の真意がわかんないとか、
そういうことじゃないかな、」
そこで、玲子さんは頬杖をついて僕を見ると、
「ふふふっ、たしかにそうだね、」
「…」
僕は無言で唇を歪めました。
「作家ってそういうの大事だもんねえ、」
「やっぱり?」
前かがみになって、彼女に言います。
玲子さんはこくりと頷いて、何か考えているようでした。
それから、
「でもさ、作家だけが全てじゃないでしょ?
それに、本当になりたいの?」
「え?」
僕は玲子さんのこの発言に、ひどく驚いていました。
僕の中で絶対的な位置にあった小説というものが、
彼女にはまるで感じられていないようでした。
少し動揺すら感じています。
彼女は続けて、
「来年は就職するんでしょ?」
僕が何も答えないでいると、
「わたしね、思うんだけどね、
あなたなら何かいろんなこと出来そうな気がするのね、
だからなにも小説に縛られなくったっていいんじゃないかなあ、て思っちゃう」
「そうかな…」
僕は否定も肯定もしませんでした。
ただ、こうした意見を聞いたのは初めてのことで、
それは、小説を書く資質というより、
はっきりと才能を否定されたような気分でした。

しばし沈黙、
僕はうめくみたいに、
「俺って、才能ないかなあ」
玲子さんは口元に笑みを浮かべて、
「それはわかんないよ、私にはよくわかんない」
空になったグラスを玲子さんは手にとり立ち上がると、
「コーヒー?」
ドリンクバーです。僕はうんとだけ答えました。

僕は腕を組んで考えてしまいました。
もしかしたら、こうした場合、
玲子さんにはただ単に才能あるって、言ってもらいたかったんだと思います。
でも、それでいいんでしょうか?
たしかにこの時期はそれほどの作品も書ききっていないのです。
彼女には何にもわからないでしょうし、
気休めを言い合うような仲は、
彼女があまり好まない関係です。

才能は、自分で見定めなきゃいけない、
しかし、それを判断するのは、僕以外の世間、
だとすると才能とは、いったい何なんだろうか、、、、

「最近は書いてるの?」
玲子さんはグラスを両手に戻ってくると、
座りながら言いました。
僕は首を横に振ります。
「書かないの?」
この頃の僕は、今のようには、物を書いていくのが日常化していません。
まあそれで作家になるって言ってるのもちゃんちゃらおかしいんですが。
ちょっと黙ってから、僕はようやく、
「書くよ」
「どんなの?なんかもう考えてるのかな?私、読むよ、絶対読ませてね」
「才能について書くよ」
「え?」
「才能ってなんだろう、そういうこと書くよ」
「どういうの?」
僕はちょっと考えてから、
「まだよくわかんないけど、でも、とにかくそういうの」

なぜかこの時、
唐突に頭に浮かんだのは、
小説家ではなく、絵描きか何かのお話でした。
小説ではあまりに自らにストレートな気がしていたせいかもしれません。
これが、
次の作品となる『美臭』を意識した、
おそらく最初であったと思います。

プロジェクト201日目。

――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/1/26 201日目【残り299日】</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計71冊 達成率0.71% 
■ブログの訪問者数 26人 (前日比 ▼32人)22時時点
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html