家からほど近い神社では、
毎年夏休み前のこの時期にお祭りがありました。
子どもの頃は、
それは神事であるとか奉納があるとか、
今やその伝承性も薄れながら、
実は古代にこの当たりを支配した人神を
鎮守様といって祀るものであるとか、
収穫を滞りなく行うために、
ある意味自然のご機嫌を伺う目的があったりとか、
そういう意味合いは全然知らなくて、
ただ屋台が並んで遊びに行くものだと思っていました。
母はこの3日間続くお祭りに
1日500円という破格の小遣いをくれたのです。
つまり1500円です。
毎年7月の第三だったか第四土日をまたいだ感じでしたので、
中学生にとっては、
それが中間テストの前後どちらであるかは、重要な問題でしたが、
まあそれでもみんなこぞってお祭りに行っていたんです。
僕は、遠くから聞こえてくるお囃子の笛の音を聞きながら、
机に向いました。
僕は当時、優秀な大学へ行くとか、
学歴を身に付けたいという意識は皆無でした。
母子家庭で、しかもここは親戚などゆかりもない異郷の田舎町です。
何かといえば白い目で見られる傾向があるのは
子どもながらにわかっていました。
そんな環境で誰にも後ろ指さされず生きていく術、
それが学力であった気がします。
試験でよい成績さえ残していれば、誰も文句は言わないのです。
この日は、
そんな試験前の一夜だったわけですね。
ところが、僕はどうにも勉強に集中できずにいました。
それはなにも、お祭りに行きたいからとかじゃないんです。
また、アミーの背中越しにちらっと見た
海野先生の白衣姿が頭に浮かんできました。
先生を、女性として意識したことなんて、
これまで一度だってありませんでした。
いやそもそも、
周囲の女性を性の対象として感じたことなど一度もないのです。
僕の性意識は、
この時点の場合、
あくまでイサオちゃんの家で見る画面の中のトゥナイトに限られていました。
先生が男性といることで、
僕の中で何かが変わった、、、、
その行為を思うのです。その行為を想像するのです。
僕は結局また寝転んで、
仰向けの姿勢で、ざぶとんを脇の下に入れ、
英語の教科書を読み始めました。
あいかわらず、お囃子の音が聞こえています。
憶えなくちゃならない単語も熟語も構文も、
全然頭には入ってきませんでした。
ただアルファベットの羅列と、
手を上げてタクシーを停めようとしているボビーの絵が、
無機質に目の前にあるだけです。
海野先生の白衣の上からでもわかる、
こんもりとした2つの双丘、
ぷりっとした、褐色に近い地味な色の唇、
彼女を幼く見せている、黒目がちでつぶらな瞳、
白衣を脱がせると、、、、
いきなり素肌ってことはないんでしょうが、
僕は先生の白衣姿しか知らず、いきなり裸を想像するのです。
アミーがぶっきらぼうな言葉を発して、
彼女におおいかぶさる、
場所はどこだろう、う~ん、よくわからないから、
美術準備室の机の上でもいいでしょう、
それから、たぶん、男と女は、最初に口付けをする。
イサオちゃんの話では、性行為に至る男女は、
さらに互いの唇を口の中に出し入れする。
それから…、
僕は、自らの股間が
痛々しいくらい張り詰めているのを意識していました。
これはこの晩が始めてのことじゃなかったんですが、
この時は、何か特別に張っていた気がします。
少しよい気持ちになってきて、
それをズボン越しにじゅうたんに擦り付けていました。
目は、閉じていませんでした。
ところが、もう目の前には、
英文もボビーのとぼけた笑顔もありませんでした。
脳裏には、なんとも鮮明な映像が結ばれていきます。
海野先生の真っ白な肉体が波打っています。
どうしても、なぜ蠕動するような動きを繰り返しているのかが、
13歳の僕にはわかりません、
いやそれでも、その動きは、明らかに性衝動をもよおすものでした。
目の焦点が合わなくなってきます。
身体の奥から
熱湯が一気に駆け上がっていくような衝動がありました。
何かが、発射される、
それが何かがわからない、
人間(オス)が何かを放出したいという衝動、
そんなもの持ち合わせていたなんて、
どういうことなのかまるでわからない、
だけれど、その衝動は、
鼓動をカウントダウンにして、
一息に沸きあがっていきました。
僕は思わず股間に手を持っていきました。
「う…っ」
うめき声を漏らしていました。
全身の血が、沸騰し、
一瞬のうちに
体中を駆け巡って行ったような感触、
その後、ゆっくりと、こすぐったい感覚に包まれ、
それが次第に、股間のあたりだけに集約され、
ずっと宙を飛んでいて、
ぱたっと地上に下ろされた感じがあって、
僕は果てていました。
真っ先に頭に浮かんだのは、
イサオちゃんが過去を思い出して語るときの、
遠くを見るような、険しい目つきでした。
だから僕は、心の中に、
イサオちゃん、これだろ、この感覚だろ、
俺、ついにやったよ…、
そう唱えていました。
しかし思えば、
人間にとって性にまつわる行為は
なぜこんなに気持ちがよいものなんでしょうか、
いやそれは何も、
人類に限ったことじゃないんでしょうが、
僕が言いたいのは、
物理的にどういう作用があって
気持ちがいいのかってことではないんです。
おそらく脳にそういう物質が分泌されて
陶酔的な気分になるというのはわかるんです。
問題は、
なぜ神はこの行為に、
こんな快楽の装置を与えたかってことです。
生物は本来、生殖行為を望んでいないということでしょうか?
もし性行為が苦痛を伴うものであったなら、
子孫は繁栄しないことになります。
だけれど、
気持ちいいから、望んでいなくても、繁栄してしまうことにもなる、
これには、
なにか高遠な生きる意味が潜んでいる気がしましたが、
もちろん、哲学者でも人類学者でもない僕には、
その懊悩の先にある深意を見極めることが出来ないでいました。
海野先生の艶かしい肢体が、
泡粒のように砕けて、僕の脳裏から消えていきました。
性のあけぼのを僕はひしひしと感じながら、
波打つ股間のあたりが、
どろどろした液体で冷たくなるのを感じていました。
ひょうひょうとした祭囃子の笛の音が、
耳の奥にずっと響いていました。
その音に混じって、家の電話が鳴っていました。
まだ携帯電話なんてない時代です。
僕は身体を起して、リビングにある電話の受話器を取りました。
「こないの~?」
クラスの友だちの高峰くんです。
お祭りに今から行こうと言うのです。
「どこ?家?」
「そうだよ」
僕が答えると、
「結構クラスの連中みんな来てるよ、こいよ~」
「うん」
僕は返事をしながら、
食器棚のガラス戸に映る自分を見ていました。
黒く影のようなその姿は、
いつもの僕に違いありませんでした。
プロジェクト222日目。
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