原始の人類が、猛獣を恐れて洞窟に逃げ込み、
そこを生活の拠点としたことは、
脳の発達に大きな影響を与えたといいます。
洞窟の入り口を防御し、
そこから外をうかがい、
やがて人員構成による小さな社会がおこります。
小さな社会は、
狩に行く人、植物を採集する人、
留守番する人、お守りをする人、
そうやって分業化していきました。
そうすることで、ヒトの頭脳には、
共有協調共感の感情が芽生えていきました。
洞穴からじっと太陽の降り注ぐ外を見つめていました。
………
中間テストが終わって、
あとは夏休みを待つばかりの時期に、
僕は陸上部の練習がおわると、
とうとう農業祭のポスターを手がけるべく活動を始めていました。
部活のあと、美術室に顔を出します。
そこには佐倉を含めた数人(全員女子でした)が、
イーゼルなどを並べて絵を描いていました。
コンクールの締め切りは8月末です。
まだ時間に余裕があると思っていたんですが、
すでに部員たちは
何枚も下書きを描いているようでした。
僕は周囲を見渡してから、
佐倉と言葉を交わせるくらいの場所に座りました。
僕は最初、今まで自分で書き溜めたスケッチを見るために、
自分のスケッチブックをめくっていました。
横を向いていた佐倉は、
ひと段落したのか、
こっちに近づいてきて、
「何描くの?」
「う~ん」
僕はスケッチブックから目を離さずに言います。
正直、どんなものを描いていいのかなんて、
まだ全然思いも浮かびませんでした。
「あのね、農業祭の趣旨は、
地元の農業の振興とかなのね」
佐倉はそう最初に言って、
「だからね、例えば稲作で豊作とか、
野菜がいっぱい採れたとか、
梨(地元の名産でした)とか、
落花生とか、そういうの描くとかね」
「振興…」
僕はそのテーマというのが、
いまいちピンと来ていないので、
「農業が流行ってる、みたいなことかなあ」
「ふふっ」
佐倉は軽く笑って、
「そうだね、そういうのでいいと思うよ、
でも画力だけじゃなくて、モチーフも大事だからね」
「うん」
彼女が一体どんなものを描いているのか気になって、
影になっているイーゼルの方を覗き込もうとしました。
佐倉は立ち上がり、
まだ下描きだけの自分の絵を背中で隠すと、
「だめ、まだ」
それで僕は、彼女の絵を見るのをすぐに諦めました。
海野先生に淡い恋心を抱きながらも、
僕はあの夏祭りの日以来、
佐倉と親密になっていったのも事実です。
前とは違って、
こうして毎日顔を合わせるようになっていました。
創作をはじめて、3日くらい経った頃でしょうか、
美術部から帰る時です。
佐倉は、ちょっと買い物するから、と言って、
僕と一緒に帰ったのです。
佐倉の家は、土手の方へ向かうのですが、
僕の家は、駅前の商店街を抜けるルートなので。
夏の長い日は、まだ暮れていなくて、
空は朱色と青のコントラストを映し出していました。
彼女は自転車をひいて歩いています。
佐倉は駅前の文房具屋で、
なにか画材を購入していました。
僕はそれを外で待ってから、
「じゃ、また」
と、彼女が店を出てきて言ったのです。
すると佐倉の顔が一瞬真剣になって、
僕に近づいてくると、
「ね、こないだのさ、秘密基地また言ってみたい」
それは、何を意味していたんでしょうか、
僕は少しだけその意図を勘ぐりましたが、
「うん、行ってみる?」
と言って2人であの神社へと向かったのです。
神社の境内に入ると、
弱々しいヒグラシの鳴き声が響き渡っていました。
鳥居の前に佐倉の自転車をとめて、
僕らは境内の奥へと歩いていきます。
ほのかに心臓が高鳴っていました。
僕は今、異性と2人きりになるために、
参道の奥の暗がりへと向かっているのです。
「骸骨とかあるのかなあ」
佐倉は冗談っぽく、秘密基地に行くことは、
あくまで好奇心であると言っているようです。
「そんなもんあるわけないじゃん」
僕は答えながらも、
佐倉も、同じ気持ちなんじゃないかと考えていました。
2人の心臓音が、
とくんとくんと共鳴しているみたいです。
それをはやし立てるみたいに、
ヒグラシが盛んに鳴いているのです。
石造りの階段からそれて、
僕らは、あの秘密基地へと繋がる山肌の道へと入っていきました。
まだ日はあって、頭上の杉の枝葉の合間から、
血を流し込んだような茜空が広がっていました。
軽く額に汗が滲みます。
僕は狭い山道で、後ろを歩く佐倉を、
まるで背中に張り付いているかのように意識しながら歩いていました。
「虫除け持ってきたらよかった」
僕は半袖からむき出しの腕をかきながら言います。
目に見えない蚊が飛んでいます。
「わたし刺されてないよ」
「そうなの~?」
徐々に秘密基地が近づいてきました。
広葉樹の木立を曲がると、鉄骨があります。
先頭を歩いていた僕は、そこまで来て、
はたと立ち止まりました。
何か、得体の知れない物音を察知しました。
しゅっしゅっしゅっと、
激しく動くような音です。
「どうしたの?」
何かを察した佐倉は、
僕の背中にほとんどくっつくようになって聞きます。
僕は小声になって、
「誰かいる」
「…」
佐倉は僕の肩越しに
一緒になって中をのぞきこみました。
基地の奥は、すでにほの暗くなっていて、
はっきりとは見ることができません。
僕は目をこらしました。
そこには、明らかに人影が蠢いていました。
プロジェクト227日目。
――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/2/21 227日目【残り273日】</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計71冊 達成率0.71%
■ブログの訪問者数 29人 (前日比 △3人)22時時点
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――
kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank
『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
→https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
