レベルブックの話の続きから、

もうすぐ公開しようとしている『桜の闇』という作品は、
僕が大学生だった頃の様々な経験から創りあげていきました。

主人公の聡介は、測量のアルバイトをしています。

僕がリアルに測量事務所で働いていた時、
図面をかく画板と、
記録用一眼レフカメラと、
それから、
レベルブックを持ち歩いていました。

小説中に出てくる小さな測量事務所の社長も、
実際にモデルになった方がいます。

20年前にすでに50歳を越えていましたから、
もう70歳すぎになっているんですね。
社長は下がり眉の、いつも困っているような顔が
特徴的な人でした。

若い頃は大手の測量会社に勤めていて、
4、5年ですぐに飛び出して起業独立しました。

社長はある日、
本当に唐突に不動産を始めると言い出しました。
なんでも、年をとって、
1人になってもできる仕事がしたい、と言ってました。

その時いた従業員は社員1名とアルバイトの僕と、事務員の女性1人でした。

宅建2級をとりなさい、と言われまして、
なんでもそれがないと内見なんかに立ち会えないとかで、
僕らは一気に勉強して資格をとりました。

それから、おそらく地区の不動産協会みたいなものに、
100万以上の拠金なのか設立金を入れて、
数か月後には測量事務所の前に
賃貸ののぼりを立てるまでにいたりました。

今日は少し、この時のエピソードを話します。
(ここでは場所などは伏せます。ちなみに『桜の闇』の中でも
 このシーンは出てきます)

相変わらず測量の仕事も続けていましたから、
僕と従業員の方が日中留守にしていたんですけど、
夜になって戻ってくると、

社長がにこにこ顔でむかえてくれて、
「初成約、とれたぞ!」
不動産業をはじめて数か月、本当に初めてのことでした。

僕らもなんだかうれしくなって、
この日は狭い事務所の中で
缶ビールでお祝いしていました。

ところが、
社長の話を聞いていると、
なんだか少し様子がおかしいな、と思うわけです。
「いい人でね、日本語も上手で」
「なんでもマッサージやるってんだ、すごい腕がいいってさ、俺も今度やってもらおうかなあ」
僕はとうとう、
「社長、それって、健全なお店ですか?」
と聞いていました。

それで、最初社長はきょとんとして、
どうだろう、て思案顔して、
しばらくしてから、例の下がり眉をもっと下げて、
「なんかやばいかな」と口にしていました。

この時は、それで話を済んでしまいました。

結局マッサージ屋は開かれました。

それから、
数日も経っていなかったと思います。
事務所に、地区の商工会議所の人が怒ってやってきました。

当時、測量事務所は駅からほど近い商店街の中にありました。
この駅付近は、すごく健全な区域で、
風俗に近いお店は1件たりともありませんでした。

商工会議所の人は、それでぷんぷんしていたのです。
しばらく社長との間に、
風営法違反だ、いや風俗じゃない、の押し問答が続きました。

社長はとうとう、「確かめてくる」と言って、
ほど近いところにあったそのお店に向かいました。

帰ってくると、
待っていた商工会議所のおじさんに、
深々と頭を下げていました。

この後、どういう措置がとられ、
そのいわくつきのお店が撤退したのかは憶えていません。

ただ、社長と二人、
商工会議所の会長?(街の土地持ちでもありました)
の家に謝りに行ったことを思い出します。

どこかの測量現場の帰りです。
雨がざんざん降る夜でした。

街の郊外で、
田んぼと住宅街のはざまのような場所でした。
両手で抱えるような菓子折りを持って、
大きな、お屋敷のような家のインターフォンを鳴らしました。

ところが奥さんしかいなくて、
会長さんはまだ戻らないと言うのです。

社長が待とう、と弱々しく口にして、
僕らは車の中で、汗をかいた作業着着て、
お屋敷に帰ってくる会長さんの車をじっと待っていました。

雨音が、
車の屋根にまとわりつくようにずっと鳴り続けていました。

その時、社長はぽつりと言いました。
「小説は順調に書けてんのか?」
僕が小説家を志して、2年か3年目の頃でした。
「まだ勉強中です」
書くより読む、知識を吸収することの方が多い時期でした。
「こないだ言ってたろ、解放同盟文学、みたいな」
「ああ、言ってましたね」
「あれに、応募すんのかい?」
「なんか、刺激されるんですよね」
僕は当時、島崎藤村の『破戒』や住井すゑの『橋のない川』
を読んでいて、人民解放とか、水平社とか
(いずれも過去のものとしての認識で)
に少なからず傾倒していました。

「やめた方がいい」
「へ?」
「そういう小説書いていくってんなら、覚悟が必要だぞ、」
「覚悟?」
「一生、そういうもの書いて、一生、そういう思想で生きてくんだ」
「…」
僕は特にやめるとかやめないとか、
すぐに考えていたわけではないんですが、

人生には、もっと奥深いことがあって、
その深淵や、本当のところ、僕にはなんにも見えていないんだ、
ただ、若いだけなんだ、
そんなこと思いながら、
フロントガラスに入り込む街頭の白っぽい明かりに照らされた、
深い皺の線が入った社長の横顔を眺めていました。

社長は、
ここ数日の一連のマッサージ店騒ぎで、ひどく疲れて見えました。

「許してくれるといいな、穏便に」
社長は話題をかえました。
「大丈夫ですよ、いっぱい謝ったら、わざとじゃないんですし、
僕らだって知らなかったわけですし、きっと許してくれますよ」
「君は、謝るの得意か?」
「へ?」
運転席の椅子を倒していた社長が、ふと僕の方を見て、
「君は、謝るのが得意だ、だから今日、一緒に来てもらったんだ」
と言っていました。

やがて、車のヘッドライトが僕らの車の中をさーっと照らしていきました。
会長さんがお帰りになったんです。

結局、
会長さんは快くとまでは行かないまでも、
居間にあげてくれて、僕らの気持ちを汲んでくれて、
この話は、ようやく落ち着くことができました。

今でも雨の中で車を停めていると、
ふと、この時の他愛もない出来事が思い出されることがあります。

僕は謝り上手だったようですね、
測量の仕事はまったく面識のない家々に入って傾きとか、壁の痛みとか、
そういうの見たりします。
トラブルはよくおきます。
日程調整でもうまくいかなかったり。

社長はよく僕に謝らせていましたっけ。

そういうの、
今でもあんまり変わんないなあ、
と思いながら、プロジェクト17日目の夜が更けていきます。

そういえば今日は、
ツイッターからの訪問者が6名もいらっしゃいました。
やっぱり、ツイッター対応を考えねば、、、

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2018/7/26 17日目【残り484日】
</strong></span>
□kindle 本日 0冊±0冊 累計62冊 達成率0.62% 
□ブログの訪問者数 67人 (前日比▼12人)
□文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
□kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中40ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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