拝啓。
兄さん。ご無沙汰しております。貴方のキョウダイです。
花の便りも聞かれるようになりましたが、お元気にされていたでしょうか。…と言っても、どうせ兄さんのことだ。春の趣も知らず桜の蕾が膨らんでいることにもちっとも気付いてないのでしょう。今時の大学生が女ばかり気にしてるものだと思っているのならそれは間違いだ。
意味の無い散歩をしてそれから公園で只管にボーッとして、空を見て花の匂いを感じて、趣の一つでも解する努力をしてみてはどうだい。今の時期じゃあ桜は蕾だけど、花開かせるためのエネルギーを溜め込む姿もまた趣があるってもんです。ほら解せよ解せ。
最近手紙を書くことにしたのです。電話でもLINEでもなく、手紙。実に趣深い行いだとは思いませんか!貰った方も手書きの手紙ならきっと数倍嬉しいでしょう!
但し親しいものに限る。
兄さんのことは、母を介してちょっとしたことなら話を聞いてます。怪我したそうですね。聞いた限りじゃきちんと休めれば治る程度の軽いもんだと思っているのですが、貴方は体が資本のスポーツ選手だ。貴方の夢を心配した母が過剰に不安がっているようだから、不安を煽ってあげるのも大概になさった方がよろしいかと。
お母さんに甘えるのも息子である貴方の特権だが、それで母が心労をこさえてしまうのであれば見過ごせません。この間なんて母とLINEのやり取りをしていたら2/3が兄さんの話だった!僕だって実家を出て久しいのに!僕を気にかける言葉が延々と兄さんの心配事を語った後の「〇〇も無理しないでね」の一言だけだった!
扱いの差に天を仰ぐ思いです。いくら僕が兄弟の中でも、現在と将来を不安にさせる要素が無い優秀な子供だからといって、あまりにも関心を向けられないというのも拗ねてしまいます。
は?異論も反論も受け付けませんよ?古今東西、不出来な子ほど親は可愛いというもんですね。ね。
まあ冗談です。以前より兄さんは僕を辛口だの辛辣だの言っているけど、貴方は甘やかされたがりで、みーんなが貴方に(途中ひと悶着あったとしても最終的に)甘くするのだから、僕は仕方なく、不承不承、貴方にスーパードライな対応をとっているのです。バランスが取れていていいでしょう?
だけど勘違いしないで欲しいのが、兄さんが甘やかされたがりだけど甘ったれじゃない事くらい僕が知っているということ。軸のぶれない強ぅい人間だって知ってます。芯があって、中学の頃に見据えた夢を見失うことなく何年も走り続けてきた貴方が、僕は本当に羨ましかった。「夢は人を強くする」とはよく言うが、それを身をもって証明しているのが貴方だ。
幼稚園の頃なんて兄さんはとんと弱くて、僕の方が好奇心旺盛で積極的、習い事も遊びも僕が先行して、僕が兄さんの気弱さを心配するほどだった。それが小学生になると、貴方は急に(精神的にも物理的にも)強くなり始めた。喧嘩だって手を出されたら負けるんだから、言葉で応戦しなきゃいけないってのに、ガキのボキャブラリーなんかたかが知れてるから僕は泣いて負けるばかりだった。2つ離れているだけなのに貴方はどんどん離れていく。一緒に遊んでも貴方は物足りなげで。僕に手加減をしないといけないのは不満だったでしょう。そもそも、一緒に遊ぶ事すら少なくなってましたが。…でも、それでもまだ、僕は追い付けると思っていたんだ。
だけど、中学生になって夢を見つけた貴方は…、僕の尊敬の対象だった。夢の為に貴方はストイックになり、夢に反対していた父のことも結果を出して黙らせてしまった。もう追い付けないと思った。貴方と同じ道の上には立てないと思ったから、僕はあの頃、殊更にヨワイフリをした。兄弟姉妹は比較の対象になる。それは貴方も知っているでしょう?貴方と同じ期待を掛けられたくなかった。貴方と違って強くなんかいられなかった。
あの頃から貴方はずっと軸がぶれないでいる。決して容易い道程じゃなかった筈だ。父にも理解を示してもらえず、よい仲間にも恵まれていなかった。そもそも経験のある指導者がいなかったのだから最悪だ。故障を繰り返して伸び悩んで。一度だけだったが、苛苛として僕に腹パンをくれたこともよぉく覚えている。んな美味くないパンはいらん。あの後すぐ去ってしまったから知らないだろうけど、30秒程肺に空気が入ってこなかった。痛いし苦しいしで本気で泣いた。あれは八つ当たりというんだよ兄さん。思春期コノヤロウ。
嗚呼、脱線した。
要は何が言いたいのかというと、貴方は芯のある強い人間のようでいて、同時にグラグラと不安定になりやすい弱い人間だ。
誰かと衝突すればはっきりと己の意見を主張できる兄さん。
周りから生意気だと言われても納得するまで自分を曲げようとしない頑固者。
僕の前じゃ愚痴しか言わないくせして母には弱音吐きまくりの小心者。
違うとは言わせませんよ。僕と母との交流の2/3が貴方のために使われたんです。何度も言うけど母さんの不安をあんまり煽んないでやってください。やめろとは言いません。どっかで吐き出す場所がないと兄さんの方が壊れてしまいそうだ。でも、ちょっとだけ過剰表現をして、心配してソワソワと気にかけてくる母さんを見て擽ったい気持ちに浸ることもあったでしょう!それはヤメテください!母さんとうとう兄さんが自殺やしないかと不安がってましたから。母さんがあんまり心配するもんだから僕もうっかり心配になってしまいました。うっかりね。
そう、だから、これが本題になるのだけど。折角僕が手紙を送るんだ。兄さんも手紙を綴ればいい。不安も不満もみーんな吐き出せ。そんでもって僕に送ってください。母のように相談には乗れんかも知れませんが、僕だって愚痴を聞くことくらいはできます。電話やLINEなんかじゃあリアルタイムの応対だから、どうしても話しにくい事があると思うんです。それを、全部、僕にどうぞ。文章ってどうしても書くのに時間がかかるから、書いてる内に気持ちが整理整頓されて落ち着くとも思うんですよ。
だから、ね。いいですね。
暇を見つけたらちゃんと返事をください。
草々。
兄想いのいいキョウダイ
我が心弱きキョウダイへ
追伸 手紙の2人目の宛先は親友にするつもりだったんだ!兄さんに宛てたことを有り難く思ってくれ!!
追追伸 帰省したとき勝手にPSP貰った。ポップン超楽しい。