レクリエーション企画当日。


私は、たまたま車で行くと知った別の部署の同期の男の子に


自宅近くで拾ってもらうことになった。


この男の子は、私にわりと好意を持ってくれていたので、


言えば聞いてくれると思った。


一応、通り道と言えないこともないしね。


麻生さんへの勝手なあてつけに、利用したといってもいい。


自分勝手でひとりよがりの嫌な女。。




「どうやって来たの?」


麻生さんにそう質問されたとき、私は何気ない顔で微笑んだ。


本当は、どす黒い気持ちが渦巻いていたのを隠して、


迎えに来てもらったことを、さらっと話す。


「ふーん。美人は得だねー」


「まぁねっ☆」


私が美人かどうかは別として、さらっと答えておいた。


わざと。




ところで、部署内に、広瀬さんという親しい方がいた。


麻生さんよりちょっと年上で、別の課の人だけど、


2年目の秋頃からなぜか相当親しくなっていた。


この日は、広瀬さんとばかり話していた。


麻生さんには、あえてあまり近づかなかった。


そして、私は途中で帰った。


それもまた、部署の先輩に甘えて、途中まで送ってもらった。


たまたま用事があったというのも本当だけど。


麻生さんが帰りにあの2人を乗せるところ、見たくないから。




GWが明けた。


私の前年度の仕事は、ようやく片がつきそうだった。


少し気分も明るくなっていたそんな折、事件勃発。




その週末、全社の毎年恒例レクリエーション企画があったの。


各部署ごとに参加で、個人は参加を強制されてはいない。


でも、競技の都合上、女性が2人か3人は必要だった。


1つ上の女の先輩が参加者の取りまとめを担当していて、


後輩の私は、参加を押し切られてしまった。


休日だし、会場が遠くて面倒くさかったんだけど~。


前年度仕事の都合で参加してなかったので、立場が弱かった。。




その女の先輩が、麻生さんに話しかけた。


「明日、本当に乗せてもらっていいんですか?」


「おーいいよ。待ち合わせどこがわかりやすい?」


「ありがとうございます!じゃあ(以下略)」


隣の席の私には、2人の会話が聞こえた。


内容から推測するに、麻生さんは車で行くことにしていて。


その先輩と、私がライバル視してた派遣の彼女をついでに乗せる。


・・・。


心が凍りついた。


確かに、3人は最寄り駅が比較的近い。


だから、別にそんなにヘンな話でもない。


でも、理性ではわかっていても、酷くショックだったよ。


私の知らないところでなされた、約束。


身勝手にも、裏切られたと思った。


私はただの同僚に過ぎないと、再び思い知らされた。


醜い感情が吹き荒れて、無関心を装うのがやっとだった。



新年度。


私は、3年目となった。


同時に、部内の新体制が発表され、私は麻生さんの部下に復帰した。


嬉しいような、そうでもないような。。


微妙な心境だけど、やっぱり嬉しさが勝ってたな。




とはいえ、4月の私は、前年度からの仕事を引き続きやっていた。


だから、麻生さんの部下といっても形だけ。


その仕事がしょーもない理由でゴタゴタしていたので、


結構ストレスをためる日々だった。


あまりに嫌になったので、ある日、私は呟いた。


「誘拐されたい。そしたら投げ出せるのに。。」


「誘惑ならしてやってもいいけど、誘拐はやだ」


「なんで?」


「だって我儘そうなんだもん」


「そうでもないですよ?あ、お風呂は入りたいです」


「風呂に入れる人質なんかいねぇよ!」


麻生さんとの楽しい会話は、相変わらず癒しだった。


部下になっても、その楽しさは変わらなかった。


むしろ、ちょっと親密度が上がった気がする。


君は俺のもの、という感じ。


ただ、その中途半端な身内意識を、私は警戒していた。


一緒に仕事をするのには、やりづらい要因だと思ったの。


まぁ、的中するわけだけど。




そして、いよいよ麻生さんの直属部下に復帰する話が現実味を帯びてきた。




実は仕事上、他の人の下は本気で願い下げと思う事情があったので、


私もそれを望んでいたよ。


とはいえ、それは理性でのこと。


感情面では、やっぱり微妙だった。




仕事の話は、現実だから。


楽しくて軽い関係に、影を投げかけるんじゃないかって不安だった。




しかもね、私の麻生さんへの態度ときたら、もはや友達扱いだった。


一応敬体ベースではあるけど、半ばタメ口きいてるし。


どう考えても、役職ある年上の人への態度ではない。


ある日、コンビニで買ったヘンなフィギュアがその辺にあったので、


何となく隣にいた麻生さんの頭に乗せてみた。


「乗せるな!」


「あはっ」


「ほんっと何も考えないで行動してるだろ」


「考えたよー。乗せたら面白そうだなと思って」


「それは考えてないって言うんだよ!!」


上司となる人に、このような態度はいくらなんでもまずいな。。


ちょっと反省して、改めなきゃなぁと思ったりはする。


でも、会うと結局は何も変わらない。


いろいろ考えたことは、いつだって全部どっか行っちゃうんだよね。




3月中旬、私の仕事がようやく落ち着いた。




その頃、麻生さんは、派遣の彼女もいるお仕事から、


私も翌年度関わりそうな仕事の準備にシフトしていた。


私は相変わらず、翌年度の話題が非常に憂鬱で嫌だった。


だから、麻生さんにも会いたくないと感じた。




その件がなくても、麻生さんに会いたいのか会いたくないのか、


この頃の私は感情的に混乱していたの。


麻生さんが大好き。やっぱり会って話したい。


会うと手に入れたくなってしまう。深みにはまりたくない。




そうやって複雑な気持ちになっているのに。


いざ会うと、ただ、楽しかったよ。


仕事の話なんて、ふたりで話している分には、思い出さない。


あるのはひたすら、くだらなくて平和で幸せな会話のみ。




プラトニック・ラブ。


偶像だけしか求めていないの。お互いに。