そして7月初旬。


彼氏と音信不通になってから2週間後。


私は、白黒はっきりさせるために、彼氏の家に押しかけた。


そして、フラれた。




フラれたのは人生で初めて。何もかも吹っ飛んだ。


世界が反転した気分。


最初の1週間は、会社でもどこでも、気がつくと涙が出た。


私の人生であれほどつらかった1週間は他にないよ。


失恋の痛みって、他のことでのつらさとはぜんぜん違う。


知らなかった。


今思えば、当然の報いともいえる展開なわけだけど、


とにかくつらくてつらくて生きているのがやっとだった。


何とか取り繕っているつもりでも、鋭い人にはバレていた。


というか、席が近い人には、かなりバレバレかも。。




隣の席の麻生さんが、気付いてなかったとは思えない。


でも、何も言われなかった。


ありがたかった。


私は、そういう自分をむやみに見せたくないタイプなの。


できればそっとしておいて欲しい。


特に麻生さんには、見せたくなかったから。




麻生さんがどう思っていたかはわからない。


深入りしたくなかったのかもしれない。


あるいは、深入りして欲しくないという、私の壁を察知してたのかな。




クライシス、それは、彼氏。


麻生さんに惹かれながらも、私には彼氏がずっといた。


この時点で3年半ほど付き合っていた。


彼氏が、6月下旬、ぷっつり音信不通になった。


喧嘩もしてないのに、いきなり。


最初の数日は時々あることだと気にしていなかったけど、


さすがに1週間も続くと、おかしい。


何がなんだかわからなくて、食欲は落ちまくり。




同じ頃、6月末で退職する先輩の送別会があった。


課の女の先輩で、一緒に大阪出張も行った人。


ちょー仲良しだったので、私が幹事をやった。


送別会だから、通常の飲み会の幹事よりはやや大変。


気は紛れた。


その関係で、課の人全員にお知らせメールを出した。


返信は不要な、ただの連絡。


そうしたら、麻生さんから返信がきたの!


びっくりしながら開封すると。。


『幹事・その他準備もご苦労様でした。

・・・って、隣にいるんだから、その一言くらい口で言えってか?』


それだけ書いてあった。


なんだかすごく嬉しかったよ。


『口で言ってくださいー。

てれやさんですか?

でもそう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます。

と、私も口で言わないでみました。』


私も、それだけ返した。


しばらくして、麻生さんが


「会話のない上司と部下って感じ?」


「あははは、ちょっと笑っちゃいましたよ~!」


「つうか今日このフロアすっげー静か。小声じゃなきゃ話せねーな」


「あっ、それでメールくれたの?」


「いや、そういうわけじゃない」


どういうわけだったんだろう?


やっぱりテレやさん?




麻生さんは、私のことが好き。私は、麻生さんのことが好き。


それは別に変わっていない。


変わってしまったのは、取り巻く環境。


私は、麻生さんに仕事の不安を言えなかった。


麻生さんだからこそ、言えなかった。


苦しかった。




6月も半ばになると、本気でやることが枯渇した。


完全に仕事の話が停滞してしまった。


でも、やるなら人員が必要だから、他には回せないし。


宙ぶらりんな立場。


この役に立ってない感が、ますます私を苦しめる。


麻生さんが好きだからこそ、仕事でも役に立ちたい。


その気持ちがかなり強いからこそ、苦しい。


でも、表面上は普通に振舞っていた。


というか、弱音を言えない以上、それしか選択肢がなかった。




ある日、麻生さんが私のパソコンの画面を覗き込む形になった。


それって顔が近づくじゃない。


そのとき、ドキドキして、なんか抱かれたくなった。


そーいえば、最初はセックスがしたかったんだっけと思い出す。


いろいろな感情に振り回されて、すっかり忘れていたよ。。


あの頃は平和だったわ。。




そして、クライシスは思わぬところからやってくる。




もともと、遅くとも3年経ったら、会社を辞めるつもりだった。


そして、大学院進学を考えていた。


3年目に入った頃から、裏ではその準備。


精神的に平穏な状況ではなかったな。




それ以外にも、5月末から、多方面にわたり暗雲が立ち込めはじめた。


まず、麻生さんとやる予定だった仕事が、予算の関係で微妙な状況に。


下手したら、その仕事自体がなくなりそうな気配が漂いだした。


どうするかは上が決めること。


仕事が止まってしまって、下っ端はだんだんやることがなくなったよ。


ちょーひま。


やることないのって、結構つらいよね。。


次に、彼氏との関係がこれまた微妙になりだした。


向こうの行動が、おかしくなった。


他にも細かいことがいろいろあって、全般的にうまくいってなかった。




麻生さんとの関係も、私の中では微妙になっていた。


「はーだらだらした打合せだった。。」


「ぼそっと言わないでくださいよ(笑)」


「俺の愚痴を聞いてくれるのは君だけだからね」


「そうなの?いつでもどうぞ☆」


なんて相変わらず親しい会話はあるけれど。


その「だらだらした打合せ」は、私の今後の仕事に関係するわけ。


やるとしたら、予算がないので厳しい仕事になる。


やらないとなると、私の処遇が先行き不明になる。


どっちにしても、茨の道。


明るいばかりの関係に、影がさしていると感じていた。


麻生さんがどう感じてたかはわからないけど、少なくとも私は。



私の悪い癖。


あまのじゃく。


意識しているがゆえに、素直になれない。


話したいのに、背を向けてみたり。


他の人と話したり。




可愛くないって、わかってる。


でも、麻生さんには、素直になれない。


もともと、ちょっとひねくれた関係性だってのもある。


上司になってしまったこともある。


加えて、嫉妬する気持ち。


車の件は、私の中で、ダメージとして残っていた。


軽い会話は相変わらず楽しくできても、


内側にある自分の気持ちを持て余していた。




広瀬さんや榊さんには、素直に懐いているのになぁ。。


まぁ、そもそも異性として意識してないせいかもだけどさ。


特に、広瀬さんとの関係性は、この頃からどんどん深まり出す。


広瀬さんは頭が切れる人で、会話のテンポが鋭くて、


麻生さんとは違う意味で、非常に魅力ある存在となっていた。