ご訪問くださいまして、有り難うございます。

 

前回から、カウンセリング関係の本、

傾聴術―ひとりで磨ける“聴く”技術

を紹介しています。

 

前回、お題(ケース事例)を出しておいて、

応答例を書かないまま、力尽きてしまいました(^^;

 

前回のお題とは、

 

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「ここで何を話せばいいですか」

と尋ねる男性会社員(42歳)のケース

 

――無表情で、固くこわばった感じで話し出す。

 

「あのー・・・私、

人見知りするタイプなんです・・・

あまり・・・自分のことは話さないんですよね・・・

で、ここでは何を話せばいいんでしょうか」

 

 

さて、あなたならどう応答しますか、

実際に書いてみましょう。

 

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でした。

皆さま、考えてみましたか?

 

まず、この男性会社員を、どう見立てるか、

どのように、気持ちを理解するかですね。

 

古宮先生の解説です。

この人は過去に、

自分の気持ちや思いを素直に表現したとき、

それを尊重されたり分かってもらえたりするどころか、

逆に批判されたり無視されたような経験があって、

とても傷ついたのでしょう。

そして彼は、

まだそのこころの痛みを

癒して手放すことはできていません。

さらに、その時期は、

「幼少期」だと推測できるといいます。

というのは、

たとえば会社でA部長という厳しい上司に叱られたとすれば、

そのA部長に対しては気楽に心を開くことができないでしょう。

しかし、

もし彼の人間不信の原因となっているこころの痛みの経験が、

A部長との間で成人期に起きたものだったら、

警戒するする相手は

A部長だけに限定されたものになるはずです。

それならば、

穏やかに優しい様子で座っている聴き手のあなたを

警戒するあまり話ができない、

ということはないでしょう。

なるほど、たしかにそうですね~。

 

次にあげる四つの要素がより多くあるほど、

こころの痛みはより深く激しいものになり、

のちの人間関係に広く深い影響を及ぼすそうです。

 

(1)両親など、子どもにとって特に大切な人との間で起きた。

(2)より幼いころに起きた。

(3)より激しい不安や恐怖を引き起こすものであった。

(4)何度も繰り返し起きた

 

彼はまた、その経験からくる寂しさと空虚感のせいで、

人にわかってもらえること、

受け入れてもらえることを、とても激しく求めています。

それゆえ、人から拒否されることが怖ろしくてたまらないでしょう。

ですから、聴き手であるあなたに対しても、

あなたを怖く思う気持ちと、

あなたの愛情と関心を求める気持ちの両方があります。

 

しかし、

彼はその気持ちをありありと感じるのは辛すぎるので、

それらの気持ちは抑圧され、

あまり感情は感じられていないようです。

そして、彼は「何を話せばいいか分からない」

とだけ感じているようです。

以上が、見立てです。

(瞬時にここまで見立てるのは、

かなりの熟練と経験が必要です・・・

が、だからこそ、私たちは学ぶ必要があるんですね)

 

これを踏まえて、応答例です。

あなたの応答は、どれに近かったでしょうか。

 

 

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(その1)

「ご自身のことを人にお話しされることがあまりないので、

いま何を話せばよいか、

戸惑っておられるんですね」

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共感的な理解をしながら、

このような言葉をおだやかに伝えれば、

話し手は

「この人はほかの人たちとは少し違うのかな」

と感じることにつながりやすいと思います。

たしかに、そうですね。

 

さらに、(その1)に加えて、

次のように、

優しく促してあげるといいようです。

 

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(その2)

「もしよろしければ、

どういうことでお越しになられたかを教えていただけますか」

(その3)

「よろしければお話されようと思うことを何でもお話しいただければ、

と思います」

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次からは、

あまりよろしくない例です。

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(その4)

「今あなたが一番気になっていることをお聞かせください」

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彼のおびえ・不安を共感できていない発言ですね。

(その3)との違いは、

彼が何を話すべきかを指示するものです。

これは「何を話してもいいし、話さなくてもいい」

という無条件の尊重とは反対の在り方です。

なるほど、たしかに同じような内容でも、

「指示」と「尊重」では全然違いますね。

 

 

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(その5)

「人見知りですか。私も人見知りなんです」

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これ、けっこう言ってしまうと思います(^^;

日常会話ではありがちですね。

 

緊張をほぐそうとする意図かもしれませんが、

それは、相手を「変えよう」とすることなんですね。

 

緊張をほぐすのではなく、それを尊重することで、

話し手は本当の意味で安心し、リラックスできるといいます。

 

 

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(その6-①)

「私が期待していることを話さないといけない、

というお気持ちでしょうか」

(その6-②)

「下手に話すと私から良く思われないんじゃないか、

と不安なお気持ちでしょうか」

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これは、

初対面ではふさわしくないようです。

この応答ができるのは、

回数を重ねて信頼関係ができた段階に限られます。

 

 

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(その7-①)

「ご自身のことを人にあまり話さないとおっしゃいましたが、

自分のことを話すのは大切ですよ。

ときには自分から話さないと、わかってもらえないじゃないですか」

(その7-②)

「ここは悩み事をお話しいただき、

私はそれを聞かせてもらう場所ですから、

お話をしていただかないと・・・」

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ある意味、正論ですが、

話し手は、心をいっそう閉ざしますね。

 

彼を、理解して受け入れるのではなく、

変えようとしていますので。

 

 

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(その8)

「それでは今日はお越しになりにくかったでしょう?

よく来てくださいました。ありがとうございます」

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相手をねぎらっているし、

一見、共感的に見えますが、

少し度が過ぎているようです。

話し手には、

「聴き手である私の期待通りの行動をしてください」

という、押しつけがましいメッセージに聞こえかねません。

ほめ言葉や過度のねぎらいを言うのは、

「良い聴き手だと思われたい」

とか

「話し手と仲良しになりたい」

といった、聴き手の欲求からくることが多いと思います。

う~ん、たしかにそうかもしれません・・・、

難しいですね・・・

 

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(その9)

「今日はこちらまでどのようにして来られました?

電車は混んでいませんでした?

暑かったでしょう?

最近は暑い日が続いて大変ですね」

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これも、一見、

相手を気遣っていて、悪くないと思えますが、

古宮先生いわく、

話し手に次のようなメッセージが伝わりかねず、

対話による援助を妨げるからです。

 

「私(聴き手)はあなたに話をすることを求めます。

会話の内容はどうでもいいです。

とにかく話をしてください」

 

「もしあなたが深刻な悩みごとを話したら、

私にはそれを受け止める度量がありません。

だから深刻にならずにすむよう、

表面的なおしゃべりですませましょう」

 

(以下、割愛)

なるほど、いわれてみればたしかに・・・

 

 

以上、

8つの応答例を紹介しました。

(細かい解説はだいぶ端折りましたが・・・)

 

「傾聴」ってほんと深いですね。

 

適切なのは、(その1)で、

加えて、(その2)(その3)で優しく促すのがいいということですね。

 

皆さまの応答例は、どれに近かったでしょうか。

 

この本には、他にも、

 

・不登校で苦しむ女子中学生

・引きこもりの息子をもつ母親

・離婚したいという主婦

・人生で何をしたいか分からないという女子学生

・会社への不満を語るOL

・リストラされ自宅も失い、自殺したいという元会社員の男性

・就職の面接が不安だと訴えるニート(無職)の青年

・息子が担任からいじめられて不登校になったと憤る母親

 

のケースと、いくつかの応答例が、

今回と同じように、具体的に紹介されています。

 

カウンセラー、コーチ、セラピストの方はもちろんのこと、

それらを目指す方や、援助職の方、

部下のいる会社員や、子育て中の方にも、

とても有益だと思います。

 

内容は本格的ですが、

文章は読みやすく、ページ数も少なめなので、

忙しい方にもおすすめします。

 

傾聴術―ひとりで磨ける“聴く”技術

 

今回もお読みくださって、

有り難うございました。