鉢かづき姫に例えてみた。
本編とちょっと違うので、本編を知りたい方は御伽草子をチェック！
鉢かづき姫
あるところに、心配性なお母さんがいました。
お母さんは、自分の娘が心配なあまり、娘に鉢を逆さにして被せてしまいました。
顔が隠れる大きな鉢です。
「これで安心。この子は表情に全部出てしまって争いを引き寄せるから、これで幸せになれる」
娘はたいそう嫌がりましたが、お母さんの心配に逆らうことができませんでした。
周囲は、鉢にびっくりして
「どうしたの？」と聞いてきたり、
気味悪がって避けたりしました。
心配した友達が必死に外そうとしましたが、鉢はびくともしません。
鉢は娘の一部となっていたのです。
娘は、「鉢かづき姫」と呼ばれるようになりました。
「鉢を被っている姫」という意味です。
最初は「鉢のせいで嫌われる」と思っていた娘もいつしか「自分の幸せのための試練なんだ」と思うようになりました。
けれど、どんな努力をしてもあまりにも毎日が辛かった娘は、遠くに逃げることにしました。
逃げた先で法師に出会いました。
法師は鉢を指差し、
「それが不幸の原因です。
とってあげましょう」
と言いました。
「これを取ったら不幸になるのでできません」
と娘は言いました。
法師はにっこり笑って、
「では、ちょっとだけ外してみましょう。
すぐに元に戻しますから」
と言いました。
法師は、取ろうとしても取れなかった鉢をひょいと外すと
「周りを見て御覧なさい」
と言いました。
今まで鉢のヒビの隙間から見ていた世界が大きく美しく広がっていました。
感動する娘の顔を風が撫でていきました。
風の冷たさに現実に戻った娘は怖くなりました。
「鉢をください」
法師はにっこりして、「毎日少しずつ外していきましょう」と言って、娘に鉢を被せました。
娘の頭に広がる世界が刻まれていました。
「怖いけれどもっと見たい」と毎日少しずつ鉢を外していくことを決意しました。
そんなとき、法師と共に鉢を外している姿をとある武士に見られてしまいました。
武士は、娘の姿に一目惚れをしました。
娘が鉢を外す姿を何度も盗み見るうちに武士は、我慢できなくなりました。
武士は、勇気を持って娘に恋心を告げます。
娘は一目で気に入り、トントン拍子に結婚することになりました。
結婚の準備をしながら、武士は言います。
「婚礼のときは、鉢を外してくだされ。
我は、あなたの素顔がいいのだ」
娘はびっくりしました。
素顔を見たことがあるなんて、ひとことも聞いたことがなかったからです。
「侮辱だわ」
と言って娘は怒り狂って罵倒しました。
武士はわけが分からず困っている間にいつの間にか結婚は流れてしまいました。
娘は、法師に泣きつきました。
武士のことをひどいとなじりました。
「私を傷つけた。
素顔がいいなんてひどすぎる」
「素顔がいいなんて、許せない。
私が好きになって欲しいのは鉢を被っている私なんです。
あのひとは嘘をついたんです
私は鉢を外せないのに」
法師は、丸まって泣いている娘の背中をさすりながら言いました。
「本当は自分が悪いと分かっているんでしょう」
娘はさらに大泣きしました。
「もう二度とこんな悲劇が起こらないように鉢を割りましょう」
法師は、娘を見ました。
娘は武士を思い出しました。
こんな自分に恋心を告げてくれたはじめての人。
鉢を外す度に何度も見た広くて美しい世界。
もう手に入れてもいいかもしれない。
娘は手を合わせました。
法師は錫杖を娘の顔を覆う鉢に当てました。
鉢は粉々に砕けて落ちました。
娘は、周囲を見回しました。
思ったよりも恐怖はありませんでした。
きっと涙と共に去ってしまったに違いありません。
よろける足元に笑いながら、娘は一歩を踏み出します。
風が心地よく頬を撫でていきます。
娘は楽しくなって駆け出したのでした。
いかがだったでしょうか。
誰しも親から継いだ「鉢」を持っています。
あなたの持っている鉢割ります。
第３土曜日はこちら
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