トラウマの扱いを間違えて被害者から抜けられない方に向けて、小説を書きました。
楽になる心の扱い方
ぜひ読んで習得してください。
小説 ★トラウマ病★
「トラウマは、ふと思い出すものであって追いかけるものではありません」
携帯電話の小さな画面の中でも際立つ美しさを放射しながら女神が語りかける。
仕事帰りの電車の中、虎詩子はいつものように動画を見る。
最近は、セミナー形式の動画ばかりみていた。最初の頃は、突飛なものや笑えるものを見ていたのに、全部同じものに見えて飽きてしまったのだ。
仕事帰りに混み合う電車の中で刺激の強いものを見るより「明るい未来」を求めて「あり方」を教えてくれる動画を見ている方が癒やされた。
今日見つけた動画は、スタイルのいい美人が心について語っているものだった。
彼女は御神玲香と名乗っていた。カウンセラーらしい。
「ひどいことをしてきたアイツを許すなんてどうでもいい。
問題は、何を我慢して何を見たくないか
言えなかった言葉
封印した感情
それを紐解いて、感じきることが大事なのです。
感情を開放したときに出てくる風景や思い出がトラウマなのです。
感情が先。
原因を求めて過去を追うと被害者気質になります」
日本語として言葉は理解できるのに、頭に入ってこない。
違和感ばかり出てくるのに形にしようとすると言葉にならず、間違ってるとも思えない。
トラウマかあ…
虎詩子は、ため息をついた。
詩子は、中学生のときの担任の先生である「力田」にされたことが原因で、いつもおどおどしていた。
そんな自分が苦しくて、あらゆるものを試したが、全く解決に結びつかずに今もこうして「トラウマ」と題名についた動画を見ている。
社会人になって数年。20代半ばになった今も傷は詩子を支配している。
最初に試したのは精神科医だった。
近所だからと選んだ精神科医は、大学を出たばかりなのか若くてひょろっとしている人だった。
詩子は、「力田」のことをどうしたらいいのか分からないと熱く語った。
精神科医は、まるで事務手続きのように家族構成や家族間の関係は良好かを詳しく聞いてきた。
詩子は、叫びたくなった。
「私が聞きたいのは、担任の先生にされたことをどう受け止めればいいかってこと!
うちの家族はとっても仲いいですけど!絶対関係ないし!」
という言葉を飲みこみながら、淡々と答える。
そうして、最終的に言われたことは、
「先生のことを考えると、お腹が痛かったり、眠れなかったりしますか?」
という質問だった。
「多少はあります…ずっと苦しいんです。どうやって向き合ったら分からないんです」
「では、気持ちが少し楽になる薬を処方しておくので試してみてください」
「はい」
狐につままれたような気分で返事をした。薬をもらって、家に帰り、言葉にできない違和感が気持ち悪く体に広がる。
薬は眠くなるだけで、気持ちを楽にはしれくれなかった。逆に問題から逃避している気がした。
そして、しばらく通って気づいた。
詩子が求めていたのは、アメリカのカウンセラーのように、話を聞いて何かしら気持ちが楽になる考え方を教えてくれることだった。薬をもらうことではない。体は健康なのだ。
苦しさは確かにあるけど、生活できないほどの不調を起こしているわけではない。
それよりももっと深刻な問題があった。待合室で他の患者といっしょになると待ち時間の間に体調を崩すようになっってしまったのだ。
待合室で待ってる間、他の患者さんと話すわけではないし、なんか暗そうな人だな、と見るだけなのにズシリと重くて暗い空気が降りてきて、めまいを引き起こす。
病院に行くと体調が悪化する。
合わないと感じて行くことをやめた。
次に試したのは公的な資格を持つカウンセラーだった。
また、家族のことを聞かれた。けれど、それだけではなく、担任の先生との関係で何が辛かったのかも詳しく聞いてくれた。
カウンセラーはやさしい物腰で、
「かわいそうに。がんばりましたね」
と寄り添ってくれて、心理的解釈を説いてくれた。
よくしてくれているのに、
欲しかった言葉を言ってくれているはずなのに、詩子の心は「これじゃない」と叫び続けていた。
カウンセラーが好む反応を演技し続けている自分がいた。
「よくなりました」と言わされてる自分がいた。
どうしてもそんな自分を打ち明けることができなくて行くのをやめた。
一番最近に試したのは、民間で活動しているカウンセラーだった。
「苦しみを終えてキラキラ女子になろう」というセミナーを開催している女性をネットで見つけて、個人カウンセリングに申し込んでみた。
2回も失敗して、詩子は絶望していた。それでも、答えを探すことをやめることができなかった。
あの「これじゃない」という叫びをこの人なら溶かしてくれるのではないか。
願いに近い希望を手にカウンセラーに個人カウンセリングを受けた。
すると、彼女は、にっこりと微笑んで、
「お母さんに言いたかったことを書き出してみて。そうすれば答えが出るわ」
と言われた。
ショックだった。
呆然として、何も考えられなかった。
確かに、完璧な母親ではなかったし、反抗期もあったし、母親に思うこともあるけれど家族仲は昔から安定して良好だった。
詩子は、「力田」にされたことと向き合いたいだけなのに。
絶望して友達に相談すると、
「まだ引きずってるの?」
と言われてさらに落ち込んだ。
心の中に毒のように巣食っているのに、本当にどうしていいいか分からなくて困っているのに、答えが見つからない。
どんなに行動しても「おまえが悪い」という言葉しかもらえない。
辛くて諦めようとしても、答えを探そうとする自分がいた。やめることができなかった。
そんな中で見つけたのがこの動画だったのだ。
御神のたくさん動画が出ていたので、いろいろ見てみた。
その中でも「トラウマ」をテーマにした動画は詩子を惹きつけ、心に言葉を刻んでいく。
「今起こっている問題を両親に結びつけて解決する癖をつけると、解決は早いかもしれません。
それでうまくいってる方もたくさんいます。
カウンセラーのほとんどが使っている手法かもしれません。
けれど、この解決方はギャンブルです。
扱い方を間違えると努力ができなくなったり、まわりを裁判するようになったり、被害者癖がつきます。
感情から解決する癖をつけると、間違いにくいし、勘がよくなって人生のスピードがあがります」
詩子は、この言葉で決意した。
この人は、お母さんとの関係を変えろって絶対言わない。
薬で症状をおさえるなんてもっと言わない。
この苦しみとの向き合い方を教えてくれるはず。
続き
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