夏だ! 苗場だ! タツローだ!――山下達郎「FUJI ROCK FESTIVAL '25」 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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火中の栗を拾う――か。山下達郎へフジロックに出演を要請する。フジロックの要請を山下達郎が承諾する。いずれも物議を呼びそうな“あまく危険な香り”が漂うが、要請したスマッシュも承諾した山下達郎も大人だ。いずれにしろ、それは前代未聞のエンターティンメントになることは間違いない。山下達郎が出演する「FUJI ROCK'25」の2日目(2025年7月26日<土>)の一日券は早々に売り切れ、その日のグリーンステージは大観衆で埋まる。

 

 

この日、2025年7月26日(土)は午前中は快晴だったものの、3時過ぎから苗場特有の豪雨は降り続く。彼らがグリーンステージに登場する午後7時前に雨はやみ、折からの降雨が会場にほどよい心地良さを運ぶ。こんなところも彼は持っているのだ。

 

 

ステージに登場したのは山下達郎を始め、柴田俊文(キーボード)、難波弘之(キーボード)、鳥山雄司(ギター)、伊藤広規(ベース)、小笠原拓海(ドラムス)、宮里陽太(サックス/フルート)、ハルナ(コーラス)、ENA(コーラス)、三谷泰弘(コーラス)という面々。この4月から始まった竹内まりやの11年ぶりのアリーナツアー「souvenir 2025」を支えたメンバーが勢揃い。6月に同ツアーを終えたばかり。当然の如く、息もぴったり。日本でも最高レベルの演奏者達が山下達郎のため、再集結する。

 

 

こういう手もあったのか。今年、2025年はシュガーベイブでデビューして50周年。シュガーベイブのデビューアルバム『SONGS』を山下監修の元、CDリリースした際、1994年4月26 日(火) ・27日(水)・5月1日(日)・2 日(月)に東京「中野サンプラザ」で行ったシュガーベイブのナンバーやレパートリーで構成する「TATSURO YAMASHITA Sings SUGAR BABE 」というコンサートを模したものをやるのではないかと、勝手に思っていた。同コンサートはスペシャルゲストに大貫妙子が参加しているが、この日、2025年7月26日(土)も彼女がシークレットゲストで出るのではないか。彼女の前後のコンサートスケジュールをHPなどで確認してみると、同日は空いていた。苗場の先輩(大貫は昨2024年に初出演した)である大貫との共演もあるのではないかと、密かに期待していたのだ。残念ながらそれは幻に終わったが、それを上回るサプライズが待っていた。

 

 

山下が登場するとアカペラコーラスが流れ、おそらく多重録音したものだと思うが、一瞬、ゴスペルやドゥーワップから始まるかと思ったが、ジャムセッションになる。腕に覚えありの卓抜した技を聞かす。それが暫くすると、最近、CMソングとして流れている「MOVE ON」に変わる。新曲を披露しつつもさわりだけ。同曲はCMで流す分だけしか、完成してないようだ。定番曲だけでなく、一番新しい曲も披露。いまの山下達郎をさりげなく刷り込ませる。

 

山下は“こんばんは、山下達郎です。よろしく”と短く告げ、山下が茶色のフェンダーテレキャスターを弾きだす。職人技の境地というべき、ギターのカッティングを聞かせてくれる。「SPARKLE」(1982年に発売されたアルバム『FOR YOU』収録曲。同曲は同作のオープニングナンバー。ジャケットのイラストは鈴木英人)である。山下のギターカッティング、青山純、伊藤広規の鉄壁のリズムセクション、吉田保のエンジニアリングなど、山下達郎の“芸風”を確立した代表作。それを現在のメンバー、スタッフで寸分違わず、アップデートして再現する。

 

 

山下のコンサートではオープニングに披露されることが多い。その音が流れた瞬間に聞くものを虜にする。お馴染み、いつも通りと、わかっていてもやられてしまう。通常の彼のコンサートなどにはない、巨大スクリーンにはその模様、細かいカッティングなど、演奏シーンがクローズアップされる。先の竹内まりやのツアーでもスクリーンはあったが、それが山下の手元や指先までというのは山下達郎のコンサートならではだろう。観客は総立ち(彼のコンサートでは珍しいこと)、身体はリズムを取りながらも目線はスクリーンに釘付け。なんて贅沢な時間ではないだろうか。

 

 

1982年4月5日に発売されたシングル「あまく危険な香り」を畳みかける。同曲はTBS系列の金曜ドラマ『あまく危険な香り』(出演は根津甚八、倍賞千恵子、浅野温子、岡田眞澄、陣内孝則など)の主題歌。同曲は『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』(1982年)に収録。アッパーな「SPARKLE」からAOR風味のナンバー「あまく危険な香り」へという転換、見事な演出である。

 

 

山下は満員の観客へ“フジロック、こんばんは、山下達郎です。初めてのフジロックになります。呼んでいただいて、ありがとう。こんなに集まっていただいて、重ねて重ねて、ありがとうございます。私はおかげさまで今年デビュー50周年を迎えることができました。記念すべき50周年にフジロックに出られて嬉しいです。力いっぱい、頑張ってやります”と、メッセージする。

 

お馴染み「DONUT SONG(ドーナツ・ソング)」(1998年8月26日に発売されたアルバム『COZY』 に収録)が披露される。1996年にミスタードーナツのCMソングとして書き下ろされたもので、ドラムスはシュガーベイブ時代の盟友・上原裕がたたいている。当時、暫く音楽界を離れていた上原の復帰作になる。ニューオーリンズのセカンドラインのリズムは彼しかないと、山下は上原を見つけ出してきた。同曲の合間には大滝詠一の「ハンド・クラッピング・ルンバ」をフィーチャー、拍手・手拍子の声掛けからニューオーリンズのマルディグラ発祥の「アイコ・アイコ」の掛け声へ。山下は1994年に「TATSURO YAMASHITA Sings SUGAR BABE 」を行った時にシュガーベイブのナンバーだけでなく、大滝の「指切り」や伊藤銀次との「こぬか雨」、大瀧詠一&ココナツ・バンクの「ココナツ・ホリデー」なども披露している。山下は当時、“ナイアガラ祭り”といっていたが、「ドーナッツ・ソング」のメドレーは、まさにナイアガラ祭り。所縁を知る人には涙もののパートではないだろうか。

 

 

続いて山下の夏ソングの新定番「僕らの夏の夢」を披露する。同曲は2009年8月19日に発売された山下達郎通算44作目のシングル。細田守監督による劇場版アニメーション『サマーウォーズ』の主題歌として制作され、後にアルバム『Ray Of Hope』(2011年)に収録された。いわゆる“夏だ! 海だ! タツローだ!”とは趣を異にする山下流の夏歌。バブルな夏レジャーのBGMではなく、和の風情と青春との惜別がしっとりと歌われる。歌詞の中の“零戦”に過剰反応する方もいるかもしれないが、そこに戦意高揚などの意図はない。

 

 

山下は“何をやろうかと悩んだけど、50年間やっている、オールドスクール、懐かしいファンクミュージックをやります”と、告げて演奏したのは「SILENT SCREAMER(サイレント・スクリーマー)」(1980年『RIDE ON TIME』収録)だった。アイズリー・ブラザーズを彷彿させる山下流ポリリズム・ファンクの傑作が披露される。まず、その音、その歌に4万人が驚愕させられる。スピードとパワー、シャープでソリッドなサウンドが聞くものの心と身体を射抜く。おそらく、初めて山下達郎の音を生で聞くという方も多かったかもしれない。誰もがその衝撃に呑み込まれてしまう。

 

 

「SILENT SCREAMER(サイレント・スクリーマー」から「BOMBER (ボンバー)」(1978年『GO AHEAD! 』収録)へ。その音のみならず、吉田美奈子が書いた歌詞も東京の城北地区出身(豊島区池袋)の山下の変わりゆく東京へ怨嗟と反抗を代弁する。この曲が契機かもしれない。大阪のディスコから火が着き、山下達郎の快進撃が始まる。『GO AHEAD! 』はこれまでリリースしたアルバムのセールスが芳しくなく、これを最後にスタッフサイド、裏方に転身もやむなし、それなら思い切り好きなことを最後にやろうと好き勝手にやったものでもあった。それが思いもかけず、スマッシュ・ヒット。大阪のディスコプロモーションが奏功。山下の認知度が上がり、それが音だけでなく、本人がCMにも出演というマクセルUDカセット・テープの大型タイアップ、「RIDE ON TIME」(シングルは1980年5月1日発売。同題のアルバム『RIDE ON TIME』は1980年9月21日発売)の大ヒットに繋がる。言わば「BOMBER」は“天下取り”の足掛かりになったナンバーだ。

 

 

そんな「BOMBER」から「SILENT SCREAMER」へ再び、繋ぐ。ファンク絡みの心憎い演出。この塊は魂を滾らせ、心と身体を思い切り熱くする。懐かしいどころか、まさにいま数多の音楽ファンの全身全霊を刺激するセットではないだろうか。

そして、“シティポップ”の代名詞、竹内まりやの「PLASTIC LOVE」(作詞・作曲は竹内、編曲、プロデュースは山下達郎。1984年4月25日にリリースされた竹内のアルバム『VARIETY』収録曲)が披露される。山下自身もカヴァーしているが、先の竹内のアリーナツアーでは1番を竹内、2番を山下が歌っている。この日は途中から竹内がサプライズゲストとして登場、2番を歌った。

 

 

「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO」(「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO」にも出演)や「SWEET LOVE SHOWER2012」(「SWEET LOVE SHOWER2014」にも出演。同フェスで「PLASTIC LOVE」を歌っている)、「氣志團万博2017」など、山下がイベントに出演する際にサプライズゲストとして竹内が途中からコーラスなどに加わることがあった。この日も予感はあったものの、実際、竹内の登場にはやはり驚く。嬉しいサプライズに会場が一際、湧いた。フジロック出演という特別な場に対する敬意と愛情の表れか、粋な演出というものだろう。

 

 

竹内がコーラスに加わり、「RIDE ON TIME」が歌われる。国内最高峰のバンドの演奏と、思い出補正不要の山下の衰え知らずの至高の歌が観客の心と身体を思う存分に蹂躙していく。後日、SNSなどを見ると、この流れに涙腺決壊した方も多いようだ。フェスの定番、誰もが知るヒットソングの披露という、ヒット曲を持つものの強みか。同曲がヒットしたのは1980年、45年以上も前だが、一気に時間を超えて見せる。新たな世代には懐かしいというより、新鮮な驚きとして受け止めているようだ。時間が経つにつれ、会場の観客はさらに膨れ上がり、観客も前へと押し寄せてくる。

 

 

「アトムの子」(シングルとして1992年2月25日と1999年7月14日に発売されている。1991年6月18日に発売された通算10作目のスタジオアルバム『ARTISAN』収録)が披露される。説明不要かもしれないが、漫画家、手塚治虫へのオマージュ・ソング。彼の意志を継承していくという意味合いもあるそうだ。ある種の世代にとって、敬愛や尊敬の対象、大きな影響を受けたというものは多いはずだが、そんな世代論で輪切りすることは野暮というものか。世代や時代、性別を超え、たくさんの観客が“Fe-Fe-Feel It!”とコーラスに参加。通常のコンサートでもそんなシーンはあるが、やはり苗場で見る風景は格別なものがあるのだ。

 

 

同曲を終えると、山下達郎がアン・ルイスに提供した「恋のブギ・ウギ・トレイン」(アン・ルイスのシングルとして1979年12月20日にビクター音楽産業から発売。山下もライブでカヴァー。1989年11月1日に発売されたライブ・アルバム『JOY –TATSURO YAMASHITA LIVE–』に収録されている)が披露される。会場はファンクなナンバーの投入に大いに盛り上がる。実は、その時、その盛り上がりとともに怖さも感じていた。通路にも人が溢れ、身動き不能。他のステージを移動する観客が前に押し寄せ、規制線になっているフラッグをなぎ倒し、前に出て、中央突破を試みるものが激増する。私自身、規制線のすぐ前、通路の最前列にいたのだが、後ろから何度も押される。そして通路の奥からは“暴れないでください”と叫ぶ係員(!?)の声が聞こえる。“押さないでください”ではなく、“暴れないでください”。正直、恐ろしかった。不謹慎な話だが、大きな事故が起こる前に早くライブが終わって欲しいと思った。勝手な想像だが、「恋のブギ・ウギ・トレイン」は本来、豪雨対策で、演奏の予定がない曲かと思った。実は台風18号の影響で豪雨の「氣志團万博2017」の際に直前にセットリストを替え、近藤真彦に提供した「ハイティーン・ブギ」や「恋のブギ・ウギ・トレイン」を演奏しているが、本来は頭に持ってきて、演奏しようとしたのではないか、と、勝手に考えていた。幸い、雨は止み、同曲は後ろに回った(「騎士団万博2017」では最後の曲である「さよなら夏の日」の前に演奏された)。

 

 

山下が客席の“異常”を察知していたか、わからないが、山下は“これから本格的な夏ですけど、一足早い夏の終わりの歌を”と告げ、その「さよなら夏の日」(1991年6月18日に発売されたアルバム『ARTISAN』に収録。同アルバムの先行シングルとして、1991年5月10日リリース)が歌われる。同曲は山下が高校時代にガールフレンドと地元の遊園地(2020年8月閉園した東京都練馬区の「としまえん」)に行った時の思い出を歌にしたもの。“夏だ!海だ! タツローだ!”とは違う、山下の夏の新定番。その歌は荒ぶる心を鎮めるかのようだ。同曲が鎮静剤として作用したのか、当然だが、暴動などは起こらなかった。山下は約70分のステージを見事に締めくくる。

 

 

終演後、グリーンステージから移動する際に観客は声を掛け合い、無理に移動せず、その場に立ち留まる、興奮した気分を鎮めようと冗談を言い合う、通路の状況を情報交換するなど、落ちついた行動や言動を取っていたことが印象に残る。場所取りの地蔵が出現したなど、嫌味たらしく、SNSに書き込むものもあったが、ほとんどが圧倒的な称賛と激励の嵐。会場を見る限り(山下のステージは配信されていない。SNSに上がった動画も次々に消されているなど、徹底している)、山下達郎の音楽を必要としている人がいかに多いか、可視化してみせた。

 

 

スマッシュには山下達郎に出演の承諾を得た時点で、“シティポップ絵巻”――シティポップを総括するみたいな思惑があったかもしれない。25日(金)にトリプルファイヤー(「RIDE ON TIME」をカヴァー)、KIRINJI、Vaundy、Suchmos 、26日(土)にSTUTS、VULFPECK、Night Tempo(「Plastic Love <Night Tempo 100% Pure Remastered>」をプレイ)、GINGER ROOT……など、強引にこじつけるならば“シティポップ”の揃い踏み。特に交流や影響はないかもしれない(勿論、なかには交流も影響もあるだろう)。そこに順位や優劣などは付けられないが、やはり山下達郎は、どこか、図抜けている。70分という彼にしては短い時間の中、濃縮還元、いまの山下達郎を余すところなく見せた。あれも聞きたい、これも聞きたいといったら切りはないが、野外で見る山下達郎は別の魅力がある。同時に敢えてスタジアムやアリーナクラスの会場でライブを行わないことを貫いているが、フェスくらいならもっと出てもいいのではないだろうか。

 

 

山下はステージを去る際に“また呼んでいただければやりたいと思います”と告げている。本音か、リップサービスか、わからないが、ひょっとしたら「夏だ! 苗場だ! タツローだ!」という夏がまた、来るかもしれない。来年の夏はどうなるか、わからないが、まずはこの10月、秋から冬にかけて山下達郎のツアー「PERFORMANCE 2025」(11都市26公演)が始まる。苗場のフジロックで山下達郎を見た気にならないでいただきたい。その世界はもっと奥が深いのだ。