“名曲”たちが蘇る『KAI YOSHIHIRO FLASH BACK LIVE 2022』 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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明日、11月27日(日)、午後9:00から WOWOWライブ / WOWOWオンデマンドで、先月、10月26日(水)に恵比寿「ザ・ガーデンホール」で開催された甲斐よしひろのソロデビュー35周年ツアー『KAI YOSHIHIRO FLASH BACK LIVE 2022 レミニセンス』の東京公演の模様が放送・配信される。同ライブ直後にライブリポートをFBのタイムラインに掲載しているが、明日の予習・復習として改めてアメブロにも上げておく。掲載に際して、多少、加筆している。

 

 

 

甲斐バンドをデビューから解散、そして甲斐よしひろのソロデビューから現在までを欠かさずに見続けたわけではないが、いつも気になる存在ではあった。1978年にリリースしているナッシュビルで録音した最初のソロアルバム『翼あるもの』に森山達也の「えんじ」(クレジットは何故か、森山達夫となっている。森山のアマチュア時代の楽曲)を収録しているし、また、1981年2月5日、THE MODS上京後、初の新宿ロフトでのワンマンライブを甲斐は見に行ったものの、階段まで人が溢れ、見られずに帰ったと言うエピソードもある。さらに2010年4月、福岡・天神のライブ喫茶「照和」で開催された『甲斐バンド Live at the 照和』の演奏を中心に映像化したドキュメンタリー&ライブ映画『照和 My Little Town KAI BAND』に森山は陣内孝則などとともに出演している。そんな関わりや縁を含め、福岡発のBEAT MUSICの応援サイト『福岡BEAT革命』でもちゃんと、紹介しないといけないと思っている。甲斐バンドはチューリップや海援隊、井上陽水などとともに“福岡は日本のリヴァプール”という文脈で語られることが多いが、福岡発のBEATMUSICという観点からも語る必要を感じていた。

 

 

甲斐よしひろのライブを見るのは本当に久しぶりだ。甲斐バンド解散後、結成したKAI FIVE以来か。甲斐バンドそのものは“THE BIG GIG”(1983年8月7日、当時の新宿副都心の都有5号地、現在都庁が建っている場所で開催された野外イベント)など、“ニューヨーク3部作”前後は欠かさず見ていた。

 

ご存知のように甲斐バンドのリユニオンなどもあったが、残念ながらWOWOWで、後から見るくらいで、現場へは足を運ぶ機会を逸していた。ソロデビュー35周年ツアーも当初、10月16日(日)に東京「Zepp DiverCity」で開催される同公演を見るつもりだったが、生憎、日程が合わず、予定を組みなおし、最終公演である恵比寿「ザ・ガーデンホール」の追加公演にぎりぎり間に合った。

 

 

 

同公演は甲斐バンドではなく、甲斐のソロ、KAI FIVEの隠れた“名曲”たちを現在に甦らす。甲斐のソロとしてのデビューアルバム『ストレート・ライフ』<1987年>は、ボブ・クリアマウンテンやニール・ドーフスマン、ジェイソン・コーサロなど、80年代を代表するエンジニアとコラボレーションした“ニューヨーク3部作”(『虜–TORIKO- 』<1982年>、『GOLD』<1983年>、『ラヴ・マイナス・ゼロ』<1985年>)と交差するように作られた。当時の最新型ゆえ、いま聞くと、シンセやリズムなど、古色蒼然としているところもある。この10月にリリースされている甲斐のソロやKAI FIVEのアルバムを11枚組ボックスとしてコンパイルした『HOT MENU』も過去の名曲を新たに生まれ変わらせるかが肝だったのではないだろうか。

 

このツアーもそんなテーマがあるのではないかと、勝手に考えている。東京だけでなく、10月9日(日) 大阪「Zepp Namba」、10日(月・祝) 愛知「Zepp Nagoya」などでも開催されたツアーには土屋公平(G)<ex.THE STREET SLIDERS> や 奥野真哉(kb)<ソウル・フラワー・ユニオン>、Tokie(B)<ex.RIZE>、吉田佳史 (Dr)<TRICERATOPS>、鈴木健太(G)<D.W.ニコルズ>など、いずれも腕に覚えあり、かつ、この世界に確固たる地位を築く。そんな精鋭たちとともに甲斐よしひろの名曲群を現在に甦らせる。

 

 

土屋公平に提供した「立川ドライブ」を挟みつつ、ソロ・デビュー・アルバム『ストレート・ライフ』の「レイン」や「イエロー・キャブ」、KAI FIVEの「風の中の火のように」、「幻惑されて」など、2022年ヴァージョンにアップデートされる。お色直しされるが、同時代の厚化粧を剥ぎ取り、素顔を晒す作業か。いまも多くの方に愛される、お馴染み、人懐こい甲斐よしひろ節が聞くものの琴線に触れる。

 

実は甲斐のソロデビューアルバム『ストレート・ライフ』(1987年)やKAI FIVEのデビューアルバム『幻惑されて』(1991年)は、どういう経緯か、忘れたが、同作がリリースされた際に取材している。

 

ソロデビューの前年、1986年12月20、21日、明治神宮球場で行われたピーター・ガブリエルやルー・リード、ジャクソン・ブラウン、ユッスンドゥール、スティーブ・ヴァン・ザント、レベッカ、サンディー&サンセッツ……などが参加したチャリティーイベント『JAPAN AID 1st』に甲斐は出演している。「イエロー・キャブ」と「冷血(コールドブラッド)」(ピーター・ガブリエル、ノナ・ヘンドリックスがコーラスで共演)を披露。それも会場で見ている。

 

『幻惑されて』の取材の際には甲斐の地元、福岡で行きつけの屋台やバーなどで撮影もした。世界と福岡に地保を築く甲斐よしひろを目の当たりにすることができた。

 

普段はぼんやり聞いているが、取材があると、繰り返し聞き、身体に沁み込ませるようにしている。そのため、過去の曲でも不思議と身体が反応する。心の中で調べを奏で、歌が木霊する。

 

甲斐の歌の骨格はある意味、ロックだけでなく、歌謡曲やフォーク、GS(グループサウンズ)などの領域をも浸食するもので、安易な売れ線狙いなら抵抗感を抱くが、何故か、抗えないところがある。いまは味噌もくそも一緒、すべてがJ-POPやCITY POPなどに収斂されている。いまさらロックや歌謡曲、フォークなどと呼称やジャンルに拘ることはナンセンスかもしれないが、そんなもやもやをある種の“力業”で超えていくのが甲斐流と勝手に解釈している。

 

この日もそんなアンビバレンツな思いを抱えながらも最後には笑顔になって、帰路の足取りが軽くなる。時間があれば、カラオケで「安奈」や「BLUE LETTER」、「観覧車’82」などを歌いたくなるもの(笑)。

 

 

改めて"ニューヨーク3部作"に言及すると、当時はここまでサウンド志向とは思っていなかっただけに、その端緒となるボブ・クリアマウンテンの起用は意外に感じたものだった。だが、彼がピュアなロックファンであるため、常に新しい音や形に拘るというのも必然かもしれない。洋楽志向などといわなくても欲しいサウンドがあれば取りに行く――それを成し遂げる意志を持って、態勢を作り上げる。以前、リザードのMOMOYOから聞いた話だが、ペニー・スミスが甲斐バンドを撮影した際、甲斐はクラッシュの『ロンドン・コーリング』を模して、ギターを叩きつけるポーズを取ったという。ペニー・スミスは同期間、日本に滞在し、リザードも撮影している。リザードの写真はNMEなどに掲載されたはず。また、甲斐バンドの3枚組ライブアルバム『流民の歌』のジャケットの3方背仕様や3枚組にしては低価格なのはクラッシュの『サンディニスタ』を参考にしたものだろう。そんな甲斐だからこそ、ボブ・クリアマウンテンに目を付けたのではないだろうか。やはり、自らのアルバムに“英雄と悪漢”や“マイ・ジェネレーション”、“ラヴ・マイナス・ゼロ”、“幻惑されて”など、名付けるだけはある。

 

いずれにしろ、甲斐よしひろの音楽の奥行と幅を再確認する機会になる。アンコールツアーがあるか、ないか、わからないが、このプロジェクトは強力である。見れる機会があれば、見るべきだ。

 

明日、11月27日(日)のオンエアーは午後9時ならアディショナルタイムが長くなければ国民的な行事も終わり、いい気分で見られるのではないだろうか。伸びたらオンデマンドという手もある。いずれにしろ、手に汗、握る体験となるだろう。

 

 

 

 

 

 

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